
「(読者コメントを見ながら)どれも甲乙つけがたいのですが、ある場面では使えるし、ある場面ではそぐわないこともあります。例えば、『これからもっと一緒にいられるね』という言葉はとても素晴らしいですが、状況によっては相手が刺激されますよね。また、『うつは治る病気だから、病院に行こう』という言葉は一見厳しいようですが、本人が背中を押してほしいという場合はいいと思います。言葉というのは『これどうかな?』と状況を十分に見定めて、最後は思いきってかけてみるもの。言葉の怖さを知ってなお、かける言葉が相手の心に響くのです。
逆に、『あなたは、いつもこうじゃん』みたいに、相手の性格を決めつける言葉は、時間・空間を超えてその人に対する全否定の言葉。それを言わないという覚悟がないと、うつ病の方とはなかなか付き合っていけません。うつ病の方と付き合う方はみんな成長していくのですが、それは相手をどうこうするのではなく『自分をみつめること』だからなのです」。

「自分と向き合うというのは、自分の感情をおさめて落ち着いた心になる、ということ。でも自分と向き合ったら、色々な感情が渦巻いている。そんな自分の不安定な心なんて見たくないと思うでしょ? でもそうじゃない。自分と向き合うというのは、爽やかな心に自分を持っていくということなんです。うつ病の方の心の中というのは、落ち込みだけではなくけっこう“怒り”で真っ赤かになっています。その怒りを見つけたら次は、じっくりそれを“消す”作業が必要なのです。映画の中でも、朝から体操をしたり、ちゃんと食事をしたり、散歩をしていますが、自分の抗う心を予防したり、少しずつ消していくテクニックを覚えているんですね」。

「宮
あおいさん扮する晴子は、上手にだんなさんを追い詰めずにフッフッと焦点から逸らしていて、お互い煮詰まらないためにあえて『向き合わない』という空気感がよかったんですよね。お互いに『向き合う』というのは、かえって我の張り合いになるんです。その張り合いが沸騰しそうな寸前でスーッとどっちかが逸らしていくところが達人的だと思いましたね。ご夫婦の相性の良さと気遣い、そして元々の素質が合っていること、これがすごくいいと思いましたね。このご夫婦の『寸止め』に気づくと、自分だったらもっと相手にもう一言言ってるなとか、感じると思いますが、この映画に込められているいくつものメッセージの中から1つでもつかめたらそれで十分。人間の深いドラマと気遣いが描かれているので、観終わった後に何か素晴らしいものが残ると思います」。

名越康文(なこしやすふみ) 1960年 奈良県生まれ。精神科医。京都精華大学客員教授。 大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。近著では「心がフッと軽くなる【瞬間の心理学】」(角川SSC新書)が8万部突破。

配給:東映
2011年10月8日(土)より全国にて公開
©2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会