『博士の愛した数式』レビュー

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『博士の愛した数式』 メイン
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記憶が80分しか持たない数学の博士と、お手伝いさんとその息子“ルート”。素朴で微笑ましいその心の交流が、数学の不思議ワールドに引っ掛けて語られた途端、なぜかロマンティックな深遠さが漂わせ始める。博士を傷つけても博士はすぐに忘れてしまうが、それでも二人は決して博士を傷つけまいと心を配る。底抜けのカップに暖かい飲み物をそっと注ぎ続けるようなその無益な行為は“これって愛かも”と感じさせる。もちろん飲み物はたまらないが、それ以前のようにカップが冷え切ってしまうこともない。

忘れてしまったことすら忘れてしまう博士の幸せと悲しみを見るにつけ、ふと考えてしまうのは人間の幸福と記憶の関係。ニーチェは「忘却はよりよい前進を生む」と言ったが、果たしてそれは本当か? 覚えているのが幸せなのか?それとも忘れられることが幸せか? ひとつを残してすべての記憶を失うとしたら、自分はどの思い出を残すのか……なんてことも想像する。原作にウルッときた私にとっては博士の義姉役の浅丘ルリ子はシットリしすぎ、それ以外の俳優はどれもこれも抜群のハマリ役。でも一番いいのは、原作に登場しない寝グセ頭の吉岡秀隆。なんかカワイイ。



《text:Shiho Atsumi》
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