夏に観たい怖い映画vol.3 円朝祭り

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『怪談・牡丹燈篭 もっともっと、愛されたかった』
  • 『怪談・牡丹燈篭 もっともっと、愛されたかった』
  • 『怪談・牡丹燈篭 もっともっと、愛されたかった』 -(C) 2007「怪談・牡丹燈籠」制作委員会
  • 『怪談・牡丹燈篭 もっともっと、愛されたかった』 -(C) 2007「怪談・牡丹燈籠」制作委員会
「夏に観たい怖い映画」をご紹介している今月のコラム。稀代のストーリーテラーであった落語家・三遊亭円朝について、ジャパニーズ・ホラーについてと話が続きましたので、その流れでもうひと噺。映画『怪談』の元ネタとなった円朝作「真景累ヶ淵」。これに並ぶ彼の名作が「牡丹燈籠」であることはすでにご紹介した通り。実はこちらも映画化され、この夏公開というわけで、何やら今夏は“円朝祭り”の様相を呈しているのです。映画のタイトルは、『怪談・牡丹燈篭 もっともっと、愛されたかった』。偶然に出会った浪人・新三郎と、旗本の娘・お露。惹かれ合いながらも、身分の違う2人は、決して結ばれない運命にあるのですが。

映画を通じて「牡丹灯篭」に興味を持ったならば、ぜひ一度、落語で楽しむことをお勧めします。生では未経験の私も、先日CDで初体験。春風亭小朝師匠による[小朝の夢高座Op.1「牡丹灯篭—御札はがし」](ソニーミュージックエンタテインメント)でした。

この物語の肝となっているのが、牡丹の花が描かれた燈篭と下駄の音。特に、下駄の音を取り入れたのは画期的な試みだったといわれています。幽霊には足がないというのが定説だったにもかかわらず、幽霊登場のシーンで「カランコロン」という下駄の音が響く…。「牡丹灯篭」の名物であるこの「カランコロン」。映画ではもちろん下駄の音そのものなのですが、これが落語だと当然ながら噺家の口によって発せられる。その響きがなんとも不気味であり、物悲しいのです。

映像表現が進化し、氾濫しているこの時代に、果たして人間は“語り”だけで楽しめるものなのかとの思いを少し抱えつつ聴き始めたのですが、音楽にも通じるなめらかな話術にうっとり。目を閉じていると、江戸の世界が目に浮かび、主人公たちの顔形までがしっかりと形成されていき、頭の中でなんとも活き活きとした情景、世界観が生まれてくるのです。そして、怪談噺といえどもただ怖いだけでなく、江戸の風情、人情が手に取るように感じられて、くすっと笑う場面も用意されている。さすがは聴く者の想像力と共鳴することでのみ完成する究極のエンターテイメント。映画が“映像の魔術”なら、落語は“口述の魔術”といったところでしょうか。そんな完成された芸術を原作に持ちながらも、映像化するというのは並々ならぬ努力が必要とされることでしょう。さて、映画の方の出来映えは? ぜひ、ご自身で確かめてみてください。

ところで、“円朝祭り”をさらに楽しみたいのなら、辻原登著「円朝芝居噺 夫婦幽霊」(講談社)という本もおすすめ。三遊亭円朝が遺したと思われる“幻の落語”の速記録と出会った筆者がそれを解読し、現代に蘇らせています。傑作落語を楽しめるだけでなく、それがどのように辻原氏の手元に巡ってきたのか、どうして円朝の遺した落語だと考えられているのか、解読はどのように行ったのかなども併記されているのが何ともミステリータッチで面白い。

そして、すっかり円朝ファンになった暁には、毎年8月1日から31日までの1か月にわたり、東京都台東区にある全生庵では彼をしのんで開催されている「円朝まつり」に行ってみてもいいでしょう。法要会、寄席などのほか、円朝が怪談創作のために集めた幽霊画の数々も公開されるので、ファンが大喜びするとか。

実は、彼の命日は8月11日。私が「円朝芝居噺 夫婦幽霊」を読み終わり、本のあとがきによってその事実を認識したのも8月11日。なんだか、ぞわっとしたと同時に、もう一度、円朝さんについて紹介しなければ…と思った次第。

おあとがよろしいようで。

《text:June Makiguchi》
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