染五郎が悪と色気に満ちた人間くさい悪役を演じた『朧の森に棲む鬼』
歌舞伎俳優、市川染五郎の活躍の場はとどまることを知らない。伝統芸能の枠を越え、映画、ドラマ、現代劇とさまざまな舞台で魅力を発揮し、今年頭に公演された「劇団☆新感線」とタッグを組んだ舞台「朧の森に棲む鬼」では、野心に満ちた“悪男”ライを演じ話題となった。本作が、舞台と映像の魅力が融合した「ゲキ×シネ」として10月6日(土)より全国公開される。市川染五郎がみせるのは、色気を兼ね備えた究極の悪! 多忙な中、時間を割いてもらい、『朧の森に棲む鬼』の面白さとゲキ×シネの凄さについてインタビューした。
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これまで様々な役を演じてきた市川さん。“悪”と“色気”に満ちた男を演じることで「支配する喜び」「スリル」を味わったという。悪から極悪へ──徐々に変貌していく様がたまらなく魅力的だが、役作りは意外にも計算されたものではなく、ストーリーに身を委ねることで自然と出来上がっていったのだとか。そしてライという男をこう分析する。
「ライという男は天才的な男でも器の大きな男でもないし、まして根っからの極悪人じゃないと思うんです。“お前は王になるべき男だ”という一言を信じ込んでしまったがゆえに、人生が思わぬ方向へと転がっていく。ある意味、純粋な人間。ただ、その純粋さを悪い方へ使ってしまい、悲劇となるんです」。
また、ヒーローよりも悪役に魅力を感じると語る。
「ヒーローは全てにおいて完璧。完全無欠は確かに格好いいですよね。でも、実のところその完璧さは非人間的だと思うんです。悪い人間が人を騙すというのは欲や色気につけ込むことで、そこに人間くささを感じるというか…。役者としては、悪役はとても魅力的です」。
やり甲斐のある役であるからこそ、ライという男を理解し演じるにあたっての葛藤もあった。
「ライは何のために突き進むんだろうって考えました。というのは、この『朧の森に棲む鬼』を簡単に語ると…“あるところに悪い男がいました”って、一言で終わっちゃう芝居だと思うんですよ(笑)。王座を目指してはいるけれど、王にのぼりつめて『やった!』という感じでもないし。そこから転がり落ちていきますからね。周りを騙しながら一つ一つのぼりつめていく先には何の達成感もない…それがこの物語の魅力なんです」。
そんな“一言”で終わってしまう物語を3時間以上の舞台に仕上げ、一時も目を離させないのが劇団☆新感線の凄さ。歌舞伎よりも型破り、映画よりも臨場感のある、この舞台だからこその見どころを聞いてみた。
「ビジュアル的な美しさと格好良さ、歌あり踊りあり笑いあり、そして殺陣の面白さ…全てにおいて突き詰めたエンターテイメントと言えますね。演じるという意味では歌舞伎も映画も僕にとってはどれも一緒。ただ、舞台はライブですから…毎回、同じテンション、同じクオリティを保つことで肉体的に実感できるというのはあります。劇団☆新感線は特にそれをストレートに感じる舞台なんです」。
もちろん、共演者との息の合った演技も重要。劇団☆新感線の看板役者である古田新太さんや、阿部サダヲさんとの共演についても「刺激的だった」と振り返る。
「古田さんは、(自分が)劇団☆新感線の舞台をやるうえでの理想の役者像。あの格好良さはなかなか真似できないなぁといつも思うんです。『阿修羅城の瞳』以来の共演なので、多少は成長した姿を見せたいと頑張りました。古田さんの格好良さは何と言っても“男の色気”。彼(マダレ)が最初に登場するシーンの太刀筋がたまらなく格好いい! 毎日、舞台のそでからその姿を見て『格好いいなぁ』と見とれていました」。
今回、初めて共演する阿部さんも「カミソリのような、小刀のような、そんなシャープなキレを感じる役者。ライに裏切られてずたずたに切り裂かれるシーンが格好いい。役としてはすごく可哀想そうなんですけどね(苦笑)」と、絶賛。彼ならではの“ユーモア”ある演技も盗みたいと思ったという。
そして、自身の最大の見せ場は「ライがのし上がっていく姿」だという。
「最後に王にのぼりつめた瞬間は、やっぱり気持ちいいもの。見た目もまったく変わっていますし、何よりも“全てを支配した”という気持で舞台のど真ん中に立っているのは心地いい。ライの変化していく様、のぼりつめた最後の姿を見てほしいです」。
『阿修羅城の瞳』、『アテルイ』、『髑髏城の七人〜アオドクロ』(「ゲキ×シネ」第2弾作品)、そして本作『朧の森に棲む鬼』への出演を果たしたことで、次の劇団☆新感線作品への期待も膨らむ。今後の参加予定はあるのだろうか?
「(しばらく考え込んで)実は『髑髏城の七人〜アオドクロ』が自分にとっては一区切りで、次はないという思いで挑んだ作品でした。だから今回の『朧の森に棲む鬼』は悩みに悩んで出演を決めたんです。結果を出せるかどうかを含めて大きな覚悟が必要な舞台なんですよね…」。
歌舞伎役者として大舞台を踏んでいる役者にそこまで言わせてしまう劇団☆新感線は、やはりただ者ではない! そしてその魅力を、演劇でもなく、映画でもない、新しいエンターテイメントとして届ける「ゲキ×シネ」。舞台とはまた違う、大スクリーンで観る迫力と興奮は、映画ファンのみならず必見だ。
「ゲキ×シネ」
http://www.geki-cine.jp/
大きなスクリーン・迫力の音響で演劇の映像を楽しむ、新感覚エンターテイメント。今までは主にVHSやDVD、テレビ放送などで配信されていた演劇の映像を製作過程から見直し、よりダイナミックに、よりライブ感を増した形に進化させ、舞台とも映画とも違う形で、演劇の新しい魅力を届ける。