ファッション小噺vol.72 恋に落ちる一瞬の美を『フローズン・タイム』

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『フローズン・タイム』 (C)- 2005 LEFT TURN FILMS / CASHBACK FILMS ALL RIGHTS RESERVED.
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シビれるほど斬新で、惚れ惚れするほどかわいくて、驚くほどスタイリッシュな映画。これほど賞賛しちゃっても、バチは当たらないでしょう。『フローズン・タイム』の場合。

近頃は、世界的にネタ不足なこともあり、どんな映画を観ても、どこかで聞いたような…、どこかで観たような…そんな心当たりがあるものですが、この作品は違いました。難しくもなく、誰もがごく当たり前に接している“時間”という概念をモチーフにした、オリジナリティにあふれたラブストーリー。

恋人にフラれたショックから不眠症になった美大生の青年・ベンが主人公。不眠症が長引くベンは、人が寝ている時間を“換金”しようと、24時間営業のスーパーマーケットで夜間スタッフとしてのアルバイトを始めます。ところがそこは、一癖も二癖もある若者たちの巣窟。サッカーと女が異常に好きな店長。悪戯ばかりしていて働かない悪友コンビ。カンフー・マニアの新人。そして、時間恐怖症のシャロン。

真夜中でも煌々と不自然に明るい店内で、ベンはこういった奇妙な人々と働くのですが、不眠症が2週間にも及んでくると、時間感覚のバランスを崩し、意識に異変が起こるように。突然、周囲の世界がフリーズしてしまうようになるのです。そんな中で、店にやってきた美しい女性たちをデッサンする彼。時が止まった世界の中で自分だけ動き回っているという不思議な感覚を楽しむうち、彼は紅一点のレジ係、シャロンの美しさに心を奪われてしまいます。

恋に落ちる一瞬を、これほど見事に表現した作品はそう多くはありません。瞬きする間にも、多くの素晴らしいことが潜んでいる。そんなメッセージに、はっとさせられたりして。

それにしても時間とは不思議です。誰もが同じ速度で過ぎる時間の中で生きているはずなのに、人によって、状況によって、同じ1分が長くも短くも感じられるのはご存知の通り。楽しい時間は早く過ぎ去ってしまうのに、うんざりするような仕事をしているといつまでたっても時が過ぎない。こんな経験、誰にでもありますからね。

…と、とっても素敵な作品なのですが、何がファッションネタなのかといえば、映像。何といっても、監督は90年代後半から20代の若さで大活躍してきたファッション・フォトグラファーのショーン・エリス。「VISIONAIRE」や「Numero」、フランス、イギリス、アメリカ、日本版の「VOGUE」など、一流誌を飾ってきた彼にしか見えない世界というものを、見事に再現してくれています。それは、静止画と動画の世界の中間のような微妙な儚さを持つ美の世界。ショーン本人は作品にこんな言葉を寄せています。

「僕はずっと美の持つはかなさに心を奪われてきました。映画や記憶の中で捉えられる“瞬間”のことです。この“瞬間”というのは、時間や空間という概念と切り離すことはできないものです。それが今回の『フローズン・タイム』のヒントになりました。そしてこの作品は、時間と美、失くしては再び見つけ出す愛というものへの僕なりの解釈です」。

美といえば、ストーリーが進むにつれ、どんどん美しくなっていくレジ係のシャロン(エミリア・フォックス)も見ものですよ。

不思議な時間感覚の世界に連れ去ってくれて、最後には胸がきゅんとなるような恋を疑似体験させてくれる『フローズン・タイム』。繰り返し観たくなってしまうこと請け合いの1本です。

《text:June Makiguchi》
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