【シネマモード】初めて見るイラン 『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢』

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『チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜』 -(C) Copyright 2011Celluloid Dreams Productions-TheManipulators-uFilm Studio 37-Le PacteArte France Cinéma- ZDF/Arte-Lorette Productions-Film(s)
  • 『チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜』 -(C) Copyright 2011Celluloid Dreams Productions-TheManipulators-uFilm Studio 37-Le PacteArte France Cinéma- ZDF/Arte-Lorette Productions-Film(s)
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久々に、ぐっと来るラブストーリーに出会いました。この作品をラブストーリーと定義するかは人それぞれだと思いますが、『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢』は私にとってまぎれもなく、切なくも美しい恋物語なのです。

主人公の天才バイオリニスト、ナセル・アリは死ぬことにしました。なぜなら大切なバイオリンを壊されたから。そして8日にわたる最期の日々に、人生で起きたさまざまなことをふり返ります。辛かった修業時代、聞く者を涙させる音色で人気を得た黄金時代、最愛の人ながらも最も怖かった実の母親、その母に無理強いされた結婚、大好きだったソフィア・ローレンとチキンのプラム煮。中でも、もっとも彼を涙させたのは、叶わなかった人生で唯一の恋。時にコミカルに、時にしっとりと、ファンタジックな映像表現を用いながら、ひとりの男の人生が走馬灯のように映し出されているのです。でも、物語の核となっているのは、叶わなかった恋のこと。ラストに訪れるクライマックスの胸も高鳴るような高揚感は、この恋物語があるから生きるものなのですから、やっぱり本作はラブ・ストーリーなのでしょう。
 
舞台となっているのは、1958年の秋、テヘランの街角。クラシカルなファションに身を包んだ主人公たちは、主にヨーロッパの香りを感じさせています。実はこれはイラン映画ではなく、ヨーロッパ映画。原作者で、本作の監督も共同で務めたマルジャン・サトラピは1969年、イランのラシュト生まれ。14歳のときに亡命し、ウィーン、ストラスブールを経て現在はパリ在住と聞けば納得がいくでしょうか。

ただ、舞台がイランと聞けば、イメージするファッションは、女性たちがスカーフとマントウという丈の長いトップスを着ている姿。ただし、それは現在のこと。作品に描かれている時代には、もっとファッションは欧米の影響が色濃く、70年代にはタンクトップやミニスカートに身を包み、長い髪を好きなようにアレンジした女性たちの姿も記録されているのです。

現在のイランは、1979年から続くイスラム共和制。イスラム教の最高指導者が最高権力を握っているので、女性は肌や髪を露出することが許されません。ここ数年は徐々にお化粧や服の色が派手になりファッションの自由化を望む声は大きくなってきたものの、髪や肌を人目に晒さないという基本はそのまま。その様子は、サトラピ監督が2000年に発表した自伝的コミック「ペルセポリス」でも語られています。30か国語に翻訳される世界的ベストセラーとなった『ペルセポリス』は、同作を原作としたアニメーション映画でもカンヌ映画祭部門賞を獲得しているので、映画ファンの中には観た方も、覚えている方も多いでしょう。映画『ペルセポリス』では、若い頃、サトラピ監督がイスラムの風習に従うことを拒み、反抗を繰り返す様子が描かれています。ファッションが自分を表現するひとつの手法であることを当然だと思っている私たちには、かなり異様なエピソードばかり。1979年以降のイランを描けば、服装の制限は自動的に事実として付きまとってしまうのです。でも、『チキンとプラム〜』では、ファッションに自由と喜びがあった頃のテヘランが見られます。レースやリボン、花柄を用いたアイテムに、色を重ねたレイヤードファッションは、ファッショナブルでとっても優雅。ナセル・アリの恋物語も、エレガントなファションに包まれて、より普遍的な華やかさを帯びています。

そして、主人公も“恋の国”の言葉、フランス語で話していることで、その性格はより強まっているのです。国の文化や背景を必要以上に意識させることなく、観客を物語が内包するメッセージや美しい映像、独特の語り口に没頭させることこそ、サトラピ監督の本望に違いありません。サトラピ監督としても、現代イランの物語をこういった自由を得て描くことを夢見ているのかもしれませんね。

《text:June Makiguchi》

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