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【MOVIEブログ】23日・24日/カンヌ

23日、木曜日。昨夜の雨は上がり、今朝は快晴。今日もジャムサンドを作り、頬張りながら上映へ。

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23日、木曜日。昨夜の雨は上がり、今朝は快晴。今日もジャムサンドを作り、頬張りながら上映へ。

9時からコンペ部門で、アレクサンダー・ペイン監督新作の『Nebraska』。ペイン監督は、いまや安心して良質の娯楽作を任せられる職人の域に達していますね。老いた父親と、その息子の物語。モノクロ画面のノスタルジックな雰囲気を生かしながら、世界中の誰もが共感できる物語をセンスの良い笑いで包み、フィールグッドな快作に仕上がっていました。

そして、11時半から、またコンペ部門で、これこそ本当に最も期待していた1本、アブデラティフ・ケシシュ監督の新作『La vie d’Adele Chapitre 1&2(原題)』(英題:『Blue is the warmest color』)へ!

そして、来た! カンヌ終盤にして、ついに大本命登場! もはや、断トツ。僕の中では最高賞のパルム・ドールと、主演女優賞は確定。まさに堂々たるケシシュの世界。2013年のカンヌは、この作品のためにあったということになるでしょう。

原題を直訳すると、『アデルの人生 第1章と第2章』。17歳の高校時代から、数年間に亘るアデルの人生を描いていく内容で、極めて至近距離からアデルの人生に密着していく、あまりにも、あまりにも濃厚で濃密な愛のドラマ。上映時間は187分。

ケシシュは、日本で劇場公開作こそないものの、欧州ではもはや巨匠級の存在であり(現代のフランス映画監督の最も畏敬される存在として、デプレシャンとオーディアールとともに名前があがるのがケシシュ)、あまりに傑出した演出力に驚愕した僕は『クスクス粒の秘密』を2008年の東京国際映画祭に招待したけれど、その異常に粘着力が高く、濃密で過剰なエネルギーが充満する世界を、TIFFで見て覚えている人がいるかもしれません。

本作では、アデルの感情のうねりを描くことが全ての中心であり、彼女のクローズアップが映画の8割を占めるのではないかと思わせるほど、キャメラはヒロインに密着する。結果、観客は完全に彼女に同化して、映画を生きていくことになる。ショットの繋ぎの上手さ、状況をスムーズに展開させるためのセリフの畳み掛けが抜群で、ひとつひとつの状況設定の作り込み方が、丁寧を通り越して過剰であり、その過剰が3時間持続するという恐るべき内容。

例えば、映画の序盤でアデルが同じ高校の男の子とデートをする下り。初めての会話から最初のデートまで、ぎこちない挨拶が通常の雑談に発展し、やがて肉体関係を持つに至るプロセスを、あたかもこの2人が主役の恋愛映画であるかのように丁寧に描いていく。

その男子は早々に映画から姿を消すことになるのだけれど、アデルが実は男子には興味がないということに気付くことになる重要な映画の導入部であるために、絶対に手を抜かないどころか、これで短編映画が一本出来ているのではないかというくらい、エピソードが精緻に練り上げられ、作り上げられていく。このような濃密なエピソードが3時間積み重なり、ディテールの集積は大きなうねりとなり、やがて巨大な感情が爆発する終盤へと繋がっていく…!

極めてハードコアな長いセックシーンが話題を呼ぶだろうけれど、それも映画を貫く激しい感情を描くために不可欠であるとしか思えず、しかしケシシュ以外にこんな緊迫感を持たせることの出来る人がいるだろうかと圧倒されるしかない。ああ、すごい。感動という言葉では足りない、もはや、圧巻。今年のカンヌはこの1本で記憶されることだろう…。

完全にノックアウトされて、もう今日はほかの映画を観る気がしない。というか、もう帰国してもいいくらい。こんな気持ちになるなんて、滅多にないどころか、初めてかもしれない…。

呆然自失の体でメイン会場のロビーを出口に向かって歩いていると、数メートル先にスピルバーグとニコール・キッドマンの姿が!あ、やっぱりちゃんと見ているのですね。昨日は疑ってごめんなさい。果たして、スピルバーグは、自分と極北に位置するこの天才監督の作品を見て、どう思っただろうか…?作品賞は当然として、アデル役の女優さんに主演女優賞を与えなかったら僕は暴れるからね!とスピルバーグに向かって心の中で叫んでみた。

素のニコール・キッドマンを目撃できたのはラッキーだなあ、とミーハー的な気持ちになったら、何だか我に返ったみたいで、次の上映へ向かう気力がわいてきた(バカですね)。

いったんホテルに戻って体制を立て直し、続いて16時半から「ある視点」部門の『Nothing Bad Can Happen』(英題)というドイツの作品へ。カルト的キリスト教に傾倒してしまう青年が、身を寄せた一家から虐待を受けてしまう物語。陰湿な虐待行為の描写が先に立ってしまい、肝心の描きたいことが埋もれてしまった感が否めず、上映終了後にはブーイングも起きてしまった。意欲作ではあるので、ブーイングはちょっと気の毒だな(監督も会場にいたし)。

それにしてもやはりケシシュのインパクトが尾を引いてしまい、なかなかほかの作品を冷静に観ることができない…。

19時半から、「監督週間」部門で『Magic Magic』というチリの監督によるアメリカの作品。アメリカからパタゴニアに旅行に来た女性が、次第に何かに憑りつかれてしまう様子を描く、ホラー風味のスリラー・ドラマ。単純にホラーとは言い切れない、ジャンル分けが難しいタイプの奇妙で不穏な雰囲気を持つ作品で、この個性は買いたくなる(良い意味での)珍品。

ただ、あまりにも色々なことを思わせぶりな状態にしたまま、観客を放り出してしまう内容なので、もう少しヒントや考える余地を与えてくれれば商業的な展開も期待できるはずなのに、これではどうしても映画祭止まり。その意気や良しとするのか、残念だとするのか…。

本日最後は、22時から「ある視点」部門で、『Sara Prefers to Run』(英題)というカナダ映画へ。新人女性監督による作品。中距離ランナーの女子大生が、学費軽減の為にルームシェアをする男性と偽装結婚をする物語。

手堅くまとまった佳作、ではあるのかな。それより、僕自身のマラソン大会が10日後に迫っていることを思い出してしまい、カンヌで全然走れていない事実に焦りまくってしまった! やはり、カンヌ明けの大会出場は無謀だったか…。それはそれとして、この作品の(オリンピックすら狙える立場にいるという設定の)ヒロインのランニング・フォームが全然美しくないので、ちょっと興醒め。そんな見方はいじわるだけど、まあ、しょうがない。

明日帰国するスタッフがいるので、0時くらいに同僚で集まって軽く1杯と言いつつ、4杯くらい。たったそれだけで、なんだか酔っ払ってしまった。とにかく今日はケシシュにやられてしまい、それで酔いも回ったのかな。宿に戻ってこれを書きつつ、どうにも中途半端なのでアップはやめることにして、3時就寝。

明けて、24日、金曜日。いよいよカンヌも大詰め!天気は晴れで、相変わらず気温は低め。7時に起床し、ぼんやりした体のまま、外へ。

まず9時から、コンペ部門でジェームズ・グレイ監督新作『The Immigrant』(原題)。主演はマリオン・コティアールと、ホアキン・フェニックス。1920年代のニューヨークを舞台に、ポーランド系移民のマリオンと、劇団主のホアキンが繰り広げる愛憎劇。ジェームズ・グレイの安定した演出は今作も健在。

続いて11時半から、コンペ部門で『Michael Kohlhaas』というフランス映画。今年のカンヌのコンペ作品中、本作のアルノー・デ・パイエールという監督名だけ僕は聞いたことがなかったのだけど、それなりのキャリアはある人のよう。

マッツ・ミケルセン(フランス語を話している!)が主演の時代劇で、地元の領主に非道な扱いを受けたミケルセンが復讐に立ち上がる物語。とはいっても、エンタメ系活劇の要素は皆無であり、リベンジ・アクション的なカタルシスも一切なく、暗めの画面にぼそぼそセリフが被っていく演劇的なアート作品。本来であれば僕は決して嫌いなタイプではないはずなのだけれど、ここに来て疲れが出たのか(ただの言い訳だ)、ダークサイドに堕ちてしまった…。いかん。小さい役でセルジ・ロペスやドゥニ・ラヴァンなども出演。

いったん宿に戻って、大量の資料をひとつにまとめ、国際宅急便で東京に送付。この作業を終えると、ああ、今年のカンヌも終わりなのだな、とちょっとさびしい気分になる…。

3本目は、16時からコンペ部門の『Grisgris』というチャドとフランスの合作映画。チャド出身のMahamat-Saleh Haroun監督は国際映画祭での上映歴が豊富で、前作の『Screaming Man』は2010年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞しており、現代のアフリカを代表する監督のひとりですね。

不自由な片脚を逆に活かした独自のダンスを武器に、ダンサーを目指すグリグリという青年が、義父の入院を機にまとまった金が必要になり、ガソリンの闇取引に関わることでトラブルに巻き込まれていく物語。舞台がチャドであり、個性的な肉体を持つ主人公という背景に新鮮味を覚えることは出来るものの、「学歴がなく、金に困った青年が裏社会でトラブルに巻き込まれる」という設定の展開が想定の範囲内にとどまってしまい、まずまずといったところかな。

少し時間が空いたので、ホテルに戻り、昨日中途半端に終わっていたケシシュ作品の紹介を書き直してみたものの、どうにも上手くまとまらないので、そのまま放置することにする。

19時に外に出て、20時から『O Heureux Jours!』(原題)というフランス映画へ。これは、カンヌ映画祭に併設されている「ACID」という部門の作品で(カンヌ映画祭の公式上映にはおそらくカウントされない)、僕の認識が正しければ、まだフランス国内の配給がついていない、フランスのインディー作品を中心に上映していく部門、のはず。

この作品のドミニク・カブレラという監督が、10年くらい前に撮った作品(『Le lait de la tendresse humaine』)を僕はとても好きで、久しぶりに名前を思い出して慌てて上映に駆けつけた次第。

何も知らずに見始めたら、監督が自分の家族にキャメラを向けた「セルフ・ドキュメンタリー」だったので、いささか意表をつかれてびっくり。が、やはりそれなりのキャリアを積み重ねた監督が撮っているだけはあり、さすがの出来。アルジェリア生まれの自分のルーツや、母親の出生の秘密、そして父親の死、などが効果的な編集のもとに繊細にまとめられており、とてもいい。この作品の存在に気付いてよかった!

ところで、この作品の上映が始まると、僕の斜め前に座っている一般客の女性が、スマートフォンでスクリーンを撮影し始めた。僕の仕事柄、スクリーンを撮影することはご法度中のご法度なので、場所がフランスだろうがカンヌだろうが(一緒か)、どうしても見過ごすことが出来ない!ガマンできず、「マダム、スクリーンを撮影してはダメっすよ」と注意すると、なんともイノセントに「あら?そうなの?」とのお答え。んー、カメラ頭のパントマイム男がフランスにも必要なのか…?

本日最後は、23時から「監督週間」の作品で、『The Last Days on Mars』というイギリス(?)のSF映画へ。カンヌの「監督週間」でユニバーサル(とフォーカス)の先付が付いた作品を見るのは初めてではないか? 主演は、リーブ・シュライバーで、共演がオリヴィア・ウィリアムス。両者とも僕が大好きな俳優なので、とても嬉しい。

火星の基地を舞台にしたゾンビ映画。まあ大して怖くはないのだけれど、こういうタイプの作品をカンヌで見ることはなかなか無いので、これはこれで貴重な体験かな。

ホテルに戻って0時半。ダラダラとこれを書いていたら、2時を回ってしまった。そろそろ寝ます。カンヌ、いよいよあと二日!
《text:Yoshihiko Yatabe》

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