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【雅子BLOG】『そして父になる』

今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭で、コンペ部門に出品していた是枝裕和監督の『そして父になる』が見事審査員賞を受賞し、日本中が歓喜したのが記憶に新しい…

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『そして父になる』 -(C) 2013『そして父になる』製作委員会
『そして父になる』 -(C) 2013『そして父になる』製作委員会
  • 『そして父になる』 -(C) 2013『そして父になる』製作委員会
  • 福山雅治&尾野真千子/『そして父になる』 -(C)  2013『そして父になる』製作委員会
今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭で、コンペ部門に出品していた是枝裕和監督の『そして父になる』が見事審査員賞を受賞し、日本中が歓喜したのが記憶に新しい。いよいよ待望の公開が近くなり、期待も高まるところ。

野々宮良多(福山雅治)は妻のみどり(尾野真千子)とひとり息子の慶多(二宮慶多)と高層マンションに住んでいる。ある日、慶多を出産した病院から「話がある」と電話があった。「子どもを取り違えた」という。本当の子どもが暮らす家庭と子どもを巡って、交流が始まるーー。

本作は、愛情を持って育てた子どもが取り違えによる他人の子だった、という決してあってはならない悲劇がベースに、父親の視線で描かれている。誰もが「自分だったら」と自問することだろう。自ら父になったことで、父と子の時間についての映画を作りたかったという是枝監督。

昭和40年頃にわりとあったという信じられない現実に耳を疑うが、欧州でもなくはない話。私はふと、1988年のフランス映画『人生は長く静かな河(La vie est un long fleuve tranquille)』(エティエンヌ・シャティリエ監督)を思い出した。子どもを取り違えられた二つの家庭の対比は言うまでもなく、片や敬虔なクリスチャンでブルジョワ家庭、一方はアナーキーな労働者階級という階級のあるフランスらしい設定で分かりやすい。そこには深刻さや悲壮感はまるでなく、終始コメディタッチでストーリーは進み、日本では描くことのない子どもたちの狡猾さも可笑しく、当時大ヒットを記録した作品。フランスらしく、タイトルが物語を皮肉っている。

本作でも二つの家庭の対比が顕著だ。都心でホテルのような高層マンションに住む野々宮家と、前橋で小さな電気屋を営む斎木家。子どもに対する接し方や育て方、愛情のかけ方もまるで違う。正しく自立するよう育てようとする野々宮家と大勢の中で逞しく育てる斎木家。共通するのは親子が互いに思う気持ち、苦悩、戸惑い、そして今まで過ごしたかけがえのない時間。両者は血のつながりか、絆を取るのか。親にとって、当事者の子どもにとって、大事なのはどっちなのか…。いや、何が正しいなんてことはないはずだ。理屈では押し通せない感情を終始穏やかに、けれど奥深い観点で。ストーリーを邪魔する余計なものは排除し、グールドの奏でるピアノが心に響く。

カンヌではスターとして紹介された福山雅治が、父親になっていくというデリケートな心情を繊細に演じている。観賞後は観た人同士で、静かな議論で盛り上がることを望みたい。
《text:Masako》

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