【雅子BLOG】『もうひとりの息子』監督インタビュー

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昨年の東京国際映画祭(TIFF)のコンペ部門に出品され、グランプリと最優秀監督賞をW受賞した傑作である。日本公開されることが決まってとても嬉しい。なぜならTIFFで観るや、グランプリを勝手に決めたくらい心に深く深く残っている作品だから。

テルアビブに住むフランス系イスラエル人のシルバーグ家。ある日、18歳になった息子が兵役検査を受け、実の子ではないことが発覚した。18年前の湾岸戦争の混乱の最中、出生時の病院で別の赤ちゃんと取り違えられていたという信じ難い事実。本当の息子は、ヨルダン西岸地区パレスチナ人のアル・ベザズ家の息子だった。戸惑う2つの家族。母、父、そして息子たち。イスラエル人とパレスチナ人という絶対的な壁を乗り越えられるのか――。

19日(土)からの公開を前にロレーヌ・レヴィ監督が来日し、私は幸運にもインタビューをする好機に恵まれました。実は、昨年のTIFFのクロージングパーティでお会いしていて、一緒に写真を撮っていただいたりしたんですが、覚えてるかなぁ、覚えてるはずないよなぁ…。さて、インタビュー当日、部屋に入るなり「前に会ってるわね」とレヴィ監督。私は気を良くしてインタビューをスタートしました。監督もすっかりリラックスしたムードに。それでは、どうぞ!

<監督インタビュー>

雅子(以下M):子供の取り違えというあってはならない悲劇…少し古典的なテーマでもありますが、デリケートな題材を母国のフランスではなく、イスラエルとパレスチナという超えられない壁のある場所を選んだのはなぜですか。

ロレーヌ・レヴィ監督(以下L):親子関係、家族、アイデンティティの問題といったテーマは非常に関心のあることでした。これまでの作品でもこのようなテーマを扱ってきたのですが、今回はさらに探求したいと思っていたところ、特に興味のあるイスラエルという場所を舞台にすることにしました。なぜなら私はユダヤ人でもあり、イスラエルには18歳の頃から数か月滞在したりと少し馴染みがあったからです。終わりのないイスラエルとパレスチナ両方の民族を苦しめる紛争を背景に、アイデンティティの探求、確立、自分探しといったことを掘り下げていきたいと思い、この映画を作る原動力にもなりました。

M:映画を撮るにあたって気をつけたこと、注意したこと、タブー、あるいは目指したことなどありましたか?

L:タブーはありません。あるのは危惧、不安だけでした。少し哲学的な話になりますが、最初はパレスチナ人でもイスラエル人でもない私がこの題材を映画にしていいものか、とても悩みました。そこで、外部者である私が絶対にしてはいけないこと(教訓じみたことを言うとか…)を忠実に守り、そして両者に対して公平に接する、リスペクトすることを特に心がけました。私が作りたかった作品は、決して政治映画ではありません。政治映画は何かしらの主張、擁護したいメッセージがあるものです。私が作りたかったのは、現実の中の真実を何のトリックもなく、嘘をつくことなく、敬意を持ちながら接する…そこに興味があったのです。人間関係の尊さ、寛容さ、聡明さ、そして世界は平和であるべきだ、という思いが映画に到達すればいいなと思っていました。

M:その忠誠な思いが強くあったからこそ、熱く偏りがちな情熱を抑えられたのかもしれませんね。

L:いやいや、とてもアツくなっていましたよ、私は結構アツい人間なんです(笑)。と同時に冷静な部分もあります。何をやりたいのかが明確に分かっていたし、目標に忠実でいることができました。

M:非常に重要なキャスティングについて教えてください。監督が望んだ人を選べたのでしょうか?

L:とてもラッキーでした。願った人を望むように決めることができました。母親役のエマニュエル・ドゥヴォスに関しては彼女の出演作品をいくつも観ているし、脚本を書いている段階で彼女を想定し、すぐに快諾してくれました。父親役のパルカル・エルベは、前作で参加してくれたので、どういう動きをしてくれるかが想像ができ、エマニュエルと一緒にいい夫婦関係ができるんじゃないかと確信できたのです。他の俳優たちは初めてでしたが、イスラエルとパレスチナでのオーディションは私の経験を豊かにしてくれるものでした。迷いがなく直感が働いたという瞬間、それは適した、望ましい俳優を決めた瞬間でもありました。

M:そういえば、昨年の映画祭のパーティでお会いしたときに、ジュールくんをなぜ選んだのかと監督にお聞きしたら、「彼はスペシャル(特別)だから」とおしゃったのを覚えています。

L:スペシャルだけしか言わなかったの ?! 私(笑)。(一同爆笑)

M:パーティ会場でたくさんの人がいたもので(笑)。

L:それはスペシャルだわ(笑)。「特別」というより、「独特」というニュアンスですね。ジュールを選んだのは彼は独特の個性を持っているから。なぜなら、少し過保護な家庭に育っているヨセフには、青年の部分とまだあどけない子供の部分が同居しているという独特の雰囲気を持っているということが重要で、視覚的にもすぐに観客にも分かるようでなくてはならない。ジュールはピッタリでした。一方、マハディ・ザハビ演じるヤシンには、パリに住み、すでに社会生活に一歩足を突っ込んでいるような成熟した青年で、少しミステリアスな雰囲気がある。対照的なふたりの違いがすぐに分かるようにしたかったのです。

M:母親の苦悩、家族の戸惑い、当事者であるふたりの心情などがとても繊細に丁寧に、自然に描かれています。特に印象的だったのは、若いふたりの態度に平和を祈念し、希望を、未来を感じられたことです。

L:まさに、私は平和への祈り、希望というものを若者に託しています。それこそがこの映画の言いたかったことですが、イスラエルとパレスチナの若者たちに会って実際に感じたんです。両国の若者たちはもう紛争の緊張した中で暮らすのはたくさんだ、幸せに暮らしたい、それだけしか願っていないのです。今、ようやく平和が近づいてきたかなと感じさせる出来事が7月の和平交渉の再開です。そして、それを後押しするのは、やはり若者でなくてはならないと思うのです。映画の撮影中はテルアビブを本拠地にしていたんですが、イスラエルの20歳~25歳くらいの若者たちがデモをしているのに遭遇したのです。平和に向けて、この紛争を阻止するデモでした。そういうのを目の当たりにし、やはり私は若者たちの力を信じざるを得ません。

M:9月28日にユニセフホールで行われた上映会、パレスチナ大使とイスラエル大使が同席するという、奇跡的かつ歴史的なイベントがあったそうですが…。

L:本当に、素晴らしい瞬間でした。おそらく、両国の大使は本作を観て「裏切られていない、リスペクトされているな」とお感じになったからこそ、自己防衛して身構える必要がなくなったところで、自然に感動してくださったのだと思っています。人間は自分の高ぶる感情が緩和できた時にはじめて、他人に対して思いを馳せることができ、相互理解に達し、やがて平和への希望が生まれるのではないかと思っています。 

M:イスラエルとパレスチナ。日本には少し遠い存在のように感じます。

L:この映画を通して素晴らしいと思ったのは、映画のプロモーションのために日本やいくつかの国を訪れましたが、それぞれ異なる文化を持ち、言語も違うにも関わらず、同じような感情を共にすることができたのです。人間的な感情を持ち、そこにあるのは博愛、同胞愛というものを感じることができました。

M:いくつもの好きなシーンがありますが、特に印象的なシーンが3つあります。1つは、ヨセフが母親に「産んだ子どもなのにキスしたくないの?」と聞くシーン。2つ目は息子たちが初めて対面するシーン。ふたりはまるで運命共同体になったかのようです。

L:確かにそうです、同じ船に乗っています。

M:3つ目は、やはりラスト手前の病院でのシーン。ヨセフが言ったひと言は、もう最高でした。

L:どうもありがとう。若者は未来を支えているわけだから、あのシーンは大人を介入したくなかったのと、若者だけのシーンにすることにこだわりました。かつ少しユーモアを入れたかった。なぜなら、笑うことで今までの苦しみを客観的に考えられ、コントロールすることができると思うからです。

M:日本の観客に、どんな風に届くといいなと思いますか。

L:どこの国でも公開されれば、私の映画を愛してくれると願わずにはいられませんが、とりわけ日本にはこの作品に関して特別な絆があるような気がしています。日本は、私に2つの最大の喜びをもたらしてくださった。1つは昨年の映画祭です。キャリアの短い私に最高の賞をダブルで受賞させてくださいました。そして先日のユニセフホールでの魔法のような、奇跡的な瞬間に立会えたこと。日本での公開を通して、その絆がより強まって、観客の人たちと共有できたらいいなと、強く願っています。
《text:Masako》

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