【MOVIE BLOG】コンペ作品紹介(2/5)

最新ニュース

馬々と人間たち
  • 馬々と人間たち
  • ブラインド・デート
  • エンプティ・アワーズ
  • グルジア地図
  • 馬々と人間たち
4日の金曜日、TOKYO MXの番組に出演しました。生放送はやはり緊張しますね。最初からカミまくったり、どこを見ていいのか分からず目が泳いでしまったりと、もう散々な結果だったけれども、たっぷり映画祭をアピールする時間を頂いて、貴重な機会でありました。

司会が水道橋博士さんで、氏が週刊文春に連載している芸人談義エッセイを毎週とても楽しみにしている僕としては、ご挨拶が出来てとても嬉しい。が、何とお呼びしていいのか分からない。「博士」だと呼び捨てになってしまう? けど、「博士さん」ってちょっと違う気がするし…。敬称が名前の一部だと難しいですね。もっともほかにはあまりいないかな。デヴィ夫人? ちょっと違うか。

結局、番組のディレクターが「博士」と呼んでいるのに倣うことにしたのだけれど、博士は打ち合わせが終わると、「矢田部さんへ」と付記されたサイン入りの著書をプレゼントして下さって、大感激。初対面の馬の骨にこのような気配りをして下さるなんて。一体どうやってお返しすればいいのだろう?

そして週末、かれこれ10年は通っている近所の銭湯に行って、服を脱いでいたら、普段は「いらっしゃいませ」「こんばんは」以上の会話を交わしたことのないご主人が掃除をしていて、僕を見るなり「テレビ見ましたよ」と言うではないか! ええーっ、よく気づきましたねー! それは恐縮ですー! と、こちらは真っ裸でペコペコ。テレビはすごい。こうやって映画祭情報がいろいろなところまで届いているといいなあ。

閑話休題。コンペ作品紹介の続き。テレビ番組の中でも紹介したのが、今年のコンペの「発見」である『馬々と人間たち』。アイスランドの作品です。

一体どうやったらこんな発想がでてくるのだろう? というタイプの作品で、変わったものが見たいという向きには真っ先におすすめしたいのが本作。監督は俳優出身で、本作が長編第1作ということらしいですが、デビュー長編にして独自の世界観を確立している、珍品と呼ぶにはあまりにも堂々たる風格をも備えた作品であります。

人間と馬とが共存しているアイスランドの荒涼たる土地を舞台に、両者の並々ならぬ関係を奇想天外なエピソードを並べて描く内容。と書いても、通じにくいですね。馬と人間、それぞれの性と性と死が、絶妙なブラック・ユーモアを交えて描かれます。時に皮肉が混じり、時に残酷で、そして全体としては非常に美しい。

邦題、ちょっと遊んでしまいました。英題は『Of Horses and Men』で、かつて『Of Gods and Men』という作品を『神々と男たち』という邦題で紹介したことがあったので、それにならって「馬々」(うまうまと読んで下さい)という言葉を作り、女性も活躍するので「男たち」ではなく「馬々と人間たち」としてみたのですけどね。ちょっとふざけてますが、先日作品を見なおしたところ、もうこのタイトル以外には考えられないくらいぴったりであると自画自賛中であります。

高度な完成度を誇りつつ、かなりの変化球でもあるこの作品、僕が今年のコンペでもっとも観客(とマスコミと審査員)の反応が気になる作品のひとつです。

今年の「発見」の2本目は、グルジア映画の『ブラインド・デート』。グルジア映画が「来ている」気配を去年くらいから感じているのですが、その予感が確信になったのが今年で、ベルリン映画祭では『In Bloom』という作品が話題になり(今年の東京フィルメックスで『花咲くころ』というタイトルで祝上映決定!)、そして東京国際映画祭の選定過程で発見したのがこの『ブラインド・デート』でした。

そもそもグルジアってどこだ?と思う人も多いと思うので、簡単な地図を添付しておきます。地理的にはトルコの東とロシアの南端の間です(英語表記がGeorgiaなので、ついアメリカのジョージア州と混同しがちなので注意!)。

政治的に厳しい状況が続いた地域ですが、デビュー作をかなりシリアスなタッチで作ってしまった反動だと自身が語るように、監督の長編2作目となる本作は、ユーモアを交えた絶妙なヒューマン・コメディー・ドラマに仕上がっています。無表情男が、展開に流されて事件に巻き込まれてしまう様子をアート調な画面で語るスタイルは、まるでバスター・キートンがカウリスマキ映画に出ているかのよう?

時折映像がハッとするほど美しく、奥行きを上手く使った(「縦の構図」というやつですな)画面構成のセンスがとてもいい。そして、ルックはアーティーなのに、話の展開のテンポがクイクイと早く、あっという間に映画に引きこまれる脚本も絶妙。

婚活、というか、ネットの出会い系的なものを利用したデートを発端とした出来事の連鎖を楽しむのがひとつ。そして、40代独身男(しかも両親と同居)の他人事ではない悲哀を笑うのもあり。さらに、かの地が直面する政治状況が日常にもたらす影を感じとり、笑っている場合ではないと姿勢を正すのもあり。もちろん、監督の豊かな映画的センスに浸るのも大いにあり。グルジア映画、来てるかも、と実感してもらえるはずです。

「発見」3本目は、メキシコ映画で『エンプティ・アワーズ』。相変わらず中米、南米はとても充実していて、この中から数本に絞るのは、はなから不可能。メキシコはもちろん、アルゼンチンとチリが強力、ブラジルも作品多く、そして最近ではコロンビアも見逃し難い。

ここはラテンビート映画祭にますます頑張ってもらうとして(今年のラテンビートは10周年記念!作品とゲストも豪華なので、こちらもよろしく!)、TIFFのコンペではメキシコの若手に注目することにしました。

ラテンビートと共同で提供する『エリ』(TIFFでは「ワールドフォーカス」部門で上映)のアマ・エスカランテや、カルロス・レイガダスなどの現代メキシコのアート映画を牽引する「ドライ系野生武闘派」とは違って(「ドライ系野生武闘派」というのは今思いついただけの呼び方で、全然適切ではないのだけど、レイガダスの影響下にある作品はとても多く、必ずしも成功しているとは言い難いものも目に付く)、『エンプティ・アワーズ』のアーロン・フェルナンデスはより優しいタッチが特徴です。

少年がバイクに乗って走っている。冒頭のこのショットだけで、良い予感を抱かせるのは一体どういうことでしょうね。モーテルの留守番を頼まれた少年が過ごす、のんびりとした時間。それはどこか空虚でもあり、そしてモラトリアムの貴重な時間であったりもする。

そこに、年上の女性が登場して、彼女は彼女なりの虚しさを抱えている。不倫相手とホテルで逢瀬を重ねるものの、相手は決して時間通りに来ることはなく、彼女はいつも待ちぼうけで、少年と少しずつ会話をするようになる…。

とても小さい話だけど、とてもリアルな物語。孤独や虚しさから、どうやって1歩前に踏み出すか。我々全員に必要とされている小さな勇気を、この作品は実に暖かく描いてくれます。のんびりした(でも計算し尽くされた)テンポが心地よく、季節はずれで曇天のリゾート地の雰囲気も、観客が思わずガードを下げるような、素敵な装置として機能している。

あくせくした都会生活者の張りつめた気持ちを溶かすような、絶妙な「緩さ」。乾いたテンションを描きがちな南米アート系に対し、暖かい緩さを描くフェルナンデス監督に注目したいです。

ということで、今年のコンペにおける「発見」系の3作品でした!
《矢田部吉彦》

関連ニュース

今、あなたにオススメ
Recommended by

特集

page top