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【MOVIE BLOG】コンペ作品紹介(5/5)

東京国際映画祭のコンペ部門の作品紹介、「抵抗3部作」からはじめて、「発見系」、「監督のタイプ」などでくくってきましたが、最後は「魂のアジア」でお届けします…

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2012「捨てがたき人々」製作委員会 捨てがたき人々
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東京国際映画祭のコンペ部門の作品紹介、「抵抗3部作」からはじめて、「発見系」、「監督のタイプ」などでくくってきましたが、最後は「魂のアジア」でお届けします。

「堂々たるクセ者」と最近僕は呼んでいますが、トルコの鬼才レハ・エルデム監督の『歌う女たち』は、極めて歯ごたえのある作品です。今年のコンペの15本の中ではもっとも「難解」な部類に入ると思いますが、それだけ咀嚼のし甲斐があり、観る者が自分の解釈を投入することができる刺激作です。

舞台は、トルコの美しい島。ひとりの青年が突然出血し、徐々に衰弱していく。島では地震予報による避難勧告が発せられており、どんどん島民が減っていく…。そんな世紀末的な状況の中、女たちは森で叫び、歌い、地球を救うダンスを踊る!

とても不思議な物語を、迫力の映像美で語るアート・ファンタジー(というジャンルがあるかどうか)。父子の物語が軸にはなっているけれども、キーワードは森と女神、でしょう。アジア映画における森の存在が持つ意味については、「アジア映画の森-新世紀の映画地図」(作品社)を読んでもらいたいのですが、神性をまとった森が本作でも大きな役割を果しています。

魂を司る森の神性、その森と繋がる女性は女神なのか…。本作は純粋な女性賛歌であり、壮大なエコロジーのメッセージも内包しているでしょう。しかし、これは僕の浅い解釈に過ぎません。観る人によって全く異なってくるでしょう。映像の迫力に気圧されながら、散りばめられた隠喩を自由に解釈し、想像力を全開にして、芸術的快感を存分に味わってもらいたいです。

レハ・エルデム監督は、前作(とはいっても今年の作品ですが)の『Jin』が、「ワールドフォーカス」部門で上映されます。『Jin』は、自然と人間の関係をよりピュアに突き詰めたスタイルで、そういう意味では『歌う女たち』より「分かりやすい」です。『Jin』の世界を突き詰めると、『歌う女たち』に発展するかもしれない。お互いの作品がお互いのヒントにもなっているので(と僕は思っているのですが)、是非両作品、並べて観ることをおすすめします!

さて、よりストレートにアジアの魂を感じることが出来るのが、中国のニン・イン監督による『オルドス警察日記』です。ひとりの警官がいかなる魂を込めて仕事に臨んだかを描く、まさに骨太の人間ドラマ。

TIFFの公式HPにアップされている予告編映像を見ると、サイコスリラー的側面が強いような印象を与えますが、実際は謎解きサスペンス映画ではなく、「男の生き様」ドラマです。ある警察官の生き様と、彼が体験した事件を通じて、中国の辺境地域における現代史が浮かび上がってくるという鮮やかな構成の作品です。

やはり、「実話である」というのは強いですね。ひとりの警察官が亡くなる場面から映画は始まりますが、実際に内モンゴルのオルドス地域で、地元のヒーロー的存在であった警察署長が残した日記を映画は辿っていきます。男は本当にヒーローだったのか? と訝しるジャーナリストを狂言回しに採用することで、映画にフェアなバランスがもたらされる演出がうまい。

作中に様々な種類の事件が登場しますが、それは経済大国中国の誕生を手放しで称賛するためでも、ことさらにその矛盾を批判するためでもない。極めてニュートラルなスタンスを保ちながら、個々の人間の尊厳を通じて現在の中国の希望を描くという、いやあ、これは大した離れ業です。

その離れ業を成功させているのが、東京国際映画祭には20年振りの復帰となるニン・イン監督。中国を代表する女性監督のひとり、と言われていますが、特に女性であることを強調する必要はなく、単にひとりのとても優れた監督である、ということで充分でしょう。来日が決定しているので、お話しを伺うのがとても楽しみです。

そして、「アジアの魂」だけでなく「アジアの情念」とも呼びたいのが、日本の『捨てがたき人々』です。流されて、堕ちていく、弱い人間の精神と、それでも性にすがり、生にしがみつき、進んでいくしかない人間の業に正面から向き合った、これは最近の日本ではあまり出会うことのできない、セックスを媒介にして魂のありかに迫る本格的な情念ドラマです。

流れ者の労働者風の男が、弁当屋の娘と会話する。男は弁当を殺風景な川べりで食べる。そこに弁当屋の娘がやってくる…。実は、開幕早々に登場するこの一連のシーンの繋ぎだけで、密かに僕は映画祭への招聘を決めていました。展開への予感に満ち、欲望が溢れ、そして映画的確信に満ちたショットの連続。

あとは、一気に映画とともに「流れていく」…。性を正面から扱った作品が目立った今年のカンヌ映画祭の作品群が想起され、その傾向に対する日本からの回答が『捨てがたき人々』なのか? と思わせるほど性へのスタンスに逃げがない。セックスの情念はあるが、下世話なスキャンダリズムは排除されている。この過剰と抑制のバランスは、なかなかお目にかかれるものではない!

見どころは、大森南朋さんの演技。だらしのない体で自己嫌悪とやけくそを包み、自らの性と生へのスタンス(=欲望)に振り回される役どころを抜群な存在感で演じ、もはや圧巻。受け身と攻め手の両方の要素を併せ持つ複雑なキャラクターの三輪ひとみさんも素晴らしいし、美保純さんの存在感はかつての倍賞美津子さんを彷彿とさせるほど。

舞台となるのは、榊英雄監督の故郷となる五島列島。監督自身が全身全霊の気迫を込め、その熱意と情念とがあますことなく画面から伝わってくる。これぞまさに魂の1本です。

というわけで、以上、コンペティションの全15本を紹介しました。5回に分けた分類は、このブログ専用に遊んで分類してみたのですが、意外にうまくハマったのではないかな? まあでも、このような「くくり」は参考程度に留めて頂いて、なるべく心がフラットな状態で映画に接してもらえたら嬉しいです。

1本でも多くの作品が人々の心に届きますように!
《矢田部吉彦》

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