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【美的アジア】西島秀俊&キム・ソンス監督インタビュー「カッコ悪い西島さんを撮るのは難しかった」

「監督、撮影のときよりすごく健康的になりましたね」。インタビュールームに入った西島さんが開口一番そう口にすると、韓国の気鋭キム・ソンス監督は、「タバコを辞めたんですよ」とひと言――

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西島秀俊&キム・ソンス監督『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
西島秀俊&キム・ソンス監督『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
  • 西島秀俊&キム・ソンス監督『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
  • 西島秀俊『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
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  • キム・ソンス監督『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
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  • 西島秀俊『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
  • キム・ソンス監督『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
  • 西島秀俊『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』/Photo:Nahoko Suzuki
「監督、撮影のときよりすごく健康的になりましたね」。インタビュールームに入った西島さんが開口一番そう口にすると、韓国の気鋭キム・ソンス監督は、「タバコを辞めたんですよ」とひと言――国を超えて久しぶりに再会した“映画好きの男たち”は、その一瞬で共に作品に懸けた日々の記憶を蘇らせたかのように、当時の思い出や作品についてを語り始める。

日韓合作映画『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』は、第15回サントリーミステリー大賞「読者賞」に輝いた司城志朗の小説が原作。他人の記憶を“上書き”され、5日後に全ての記憶が消えるという状況に陥った科学者が、事件の謎を解き明かすべく奔走するアクション・サスペンスだ。

――西島さんはごく普通の会社員・石神武人と、記憶を奪われた天才科学者オ・ジヌの2人の男を演じ分ける難役に挑んだ。出演を決めたのは、監督からの1通の手紙だったと言う。

西島さん:「監督は日本映画に造詣の深い方で、僕の作品も観てくださっていました。そんな監督から情熱のこもった素晴らしいお手紙をいただいて、脚本も本当に面白かったので、ぜひお会いしたいと思ったんです。実際にお会いしたら、純粋にいい映画を撮りたいという情熱にあふれた方でした。僕でよければぜひ参加させていただきたいとお伝えしました」

監督:「西島さんはご覧のとおりすごくカッコいい方ですし、ものすごくいい演技をされる俳優なので、最初から『もうこの人しかいない!』と思っていました。もともと西島さんのファンだった、というのもあります(笑)。

今回の主人公は2つの国籍のキャラクターを演じなければならないので、演技が上手いというのはもちろんのこと、“誠実に芝居をしていただける方でなければいけない”と思っていて。そんな意味でも西島さんがベストだと思い、勇気を出して手紙を書きました(笑)。映画を一緒に作っている間は“俳優と監督”と言うよりも、“映画の好きな映画人”という、「同士」のような関係でいられたとても幸せな時間でした」


――共に1971年生まれ。「(撮影)現場が好き」と大小、ジャンルを問わず、様々な監督と作品を手がけてきた西島さんと、『オールドボーイ』『渇き』の韓国の鬼才パク・チャヌク監督の下で助監督を務めてきたキム監督。長年映画界に身を置く中で2人が得た“大切な記憶”も、どこか共通する答えが返ってきた…。

西島さん:「僕は、諏訪敦彦監督(『2/DUO』)や、黒沢清監督(『ニンゲン合格』)と出会った事が大きいですね。それまで僕は映画をたくさん観るタイプではありませんでした。本当に普通…普通に(映画を)観てる人間だったんです。おふたりとお仕事をしたことでたくさんの映画を紹介してもらって、すごく触発されたんですよね。それから『映画ってこんなにもとてつもないものなんだ』と見方が変わってきたように思います」

監督:「私はパク・チャヌク監督の助監督を長くしていたので、映画について単純に勉強になったということもありますし、いろんな角度から映画を観ることを学んだので、そういった面で彼は影響を受けた方ですね。

今回の映画は、石神という人物が最後まで映画を引っ張っていく人物なので、人としても西島さんに“頼らなきゃいけない部分”が多くありました。国籍の違う俳優と一緒に“2人で作っていかなければならない映画”だったわけですが、西島さんは作る楽しみをすごく感じさせてくれた人。これからもずっと記憶に残る俳優さんになると思います」


――“映画の見方、見せ方”についてはこんな言葉も。監督は、主人公の心理状況が分かるようなセリフを今回あえて「見せなかった」と語る。

監督:「セリフが少ない理由は、この作品が『情報を渡してはいけない映画』だったからなんです。数ある映画の中には、主人公は自分が置かれている状況を知らないのに、観客には展開が見えている、という映画がありますよね。

今回の映画では“主人公が知らないことは観客も知らないままでいて欲しい”という思いが強くありました。石神が感じている混乱を、観客にも一緒に感じて欲しかったという意図があったので、あまり情報を与えすぎないように、それでいて観客がストレスを感じないように、その線引きをどうするかが難しい所でした」


――監督の言葉通り、作品冒頭から謎が謎を呼び、観客は「何が起きているのか!?」と混乱する場面があるかもしれない。しかし、監督がいう“誠実に芝居をする俳優(=西島さん)”が「危ないシーンも自分で演じないと観客にリアルな感情は伝わらないから」と、手に汗握るカーアクションを自らこなし、危険と隣り合わせで屋根の上をよじ登るシーンなどに挑んだことで、観る者の心を、石神の心と一体化させることに成功させた。

西島さん:「クランクイン前から監督には『これは奇跡が起きている話だ』と言われていました。普通の男が暴力のプロに追いかけられて逃げるのは、ほぼ不可能なこと。でも『不可能を奇跡に変えているのはこの男の“妻を助けたい”という強い愛情が力になっているんだ。だからその気持ちを忘れないように演じてくれ』と言われたんです。

アクションも、カッコいい動きを求めてるわけじゃなくて、『気持ちのこもったアクションを、“エモーション”を感じさせるアクションにしてくれ』とすごく言われて。そこは僕自身も大切に演じていた部分でした」


――異なる国同士の合作とあれば、システムの違いや数々の困難もあったはず。たが、今作の日韓スタッフは互いを尊敬し合い、国の違いを乗り越えた素晴らしい関係だったと西島さんはふり返る。その中でも、13歳年下の共演女優キム・ヒョジンの芝居への姿勢には驚いたのだそう。普段日本語を全く喋れない彼女だが、劇中ではそれを感じさせないほど見事な芝居で石神と向き合う女性記者・ジウォンを熱演した。

西島さん:「ヒョジンさんはね…本当にすごい人なんですよ。撮影もかなりハードだったんですけど、撮影が終わってから夜通し日本語の勉強をして、ほとんど寝ずに翌日現場に入ってたんです。1日に8時間とか10時間位かな? 空き時間はとにかくずっと日本語の勉強をして撮影に臨んでました。演技や映画に対する姿勢の真摯さは本当に素晴らしかったですね。本当にすごいと思いました」


――そう彼女を褒め称える西島さんも、劇中では彼女に負けず劣らずの流暢な韓国語を披露しているのだが…?

西島さん:「僕は、韓国語の練習は1時間半位でフラフラになってしまって(笑)。僕は全然ダメですよ」


――そう笑いながら謙遜する西島さんの横で、キム監督が「ここは僕が話します!」と身を乗り出してきた。

監督:「日本の方にどこまで感じていただけるか分からないんですが、映画の中で西島さんが喋っている韓国語は、本当に完璧に近い韓国語です。釜山国際映画祭で初めてこの映画が公開されたとき、韓国の観客が、西島さんから韓国語のセリフが出た瞬間ウワッ! っと驚いて固まっていたのを僕は見ました。みんな本当にびっくりしていました。本当に上手だったんです。

劇中には、韓国の悪い言葉もあえてセリフに入れたんですが、外国の俳優が韓国人の役を演じ、韓国のスラングを演技で使うのは初めてじゃないかと思います。それを完璧にやってくださったので、そこは見どころの一つとして面白いんじゃないかと思います。韓国ではきっと男性ファンが増えると思いますね(笑)」

西島さん:「本当ですか。僕は正直、本当に韓国語の練習が大変だったんですよ(笑)。僕は以前、フランス映画(『メモリーズ・コーナー』)もやりましたけど、韓国語は本当に難しくて…。本当にね、監督にハラが立つくらいでした(笑)。通訳さんが撮影現場でずっとついてくれて練習してくださったり、録音部さんがアフレコで何回も何回もトライさせてくれたので、正直全然僕の力ではないです(笑)。本当にみんなで作った役だと思ってます」

監督:「僕は現場で西島さんの大変そうな姿を見ていたので、『ごめんね、でも仕方ないんだ』と思いながら、西島さんを見てるのが楽しかったです(笑)」

西島さん:「監督からは全然OKが出なかったですからね(笑)」

――インタビュー中、「西島さんはカッコいいから」と何度も口にし、「どうやってカッコ悪い西島さんを撮ればいいのか悩んだ」と話していたキム・ソンス監督。その横で、穏やかな表情を浮かべ、監督の回答に耳を傾けていた西島さん。

写真撮影中、黒いスーツ姿で椅子に腰掛け「家族写真みたい」と笑い合う2人からは、国を超えた男同士の信頼や絆が見えた気がした。作品はハードなアクションと、緊迫感漂うシーンの連続で、目の前の穏やかな状況とはかけ離れているけれど、この2人だからこそ撮れた、“記憶の一遍”が、スクリーンには刻まれている。その姿を、ぜひみなさんの目にも焼き付けて欲しい。
《<Text:Tomomi Kimura/Photo:Nahoko Suzuki>》

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