【MOVIEブログ】7日~9日/ベルリン Day2~4

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『'71』
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7日から9日までのベルリン日記。

【7日(金)ベルリン Day2】
天気は、どんより、一瞬晴れ、一瞬小雨。気温は5~10度くらいかな。何だか春みたいだねえ、と同僚とつぶやきながら、8時過ぎに外へ。

本日は9時から、コンペティション部門のドイツ映画『Jack』のプレス試写でスタート。僕はプレス登録をしていないけれど、一応コンペのプレス上映はマーケットパス保持者も空席があれば入れる仕組み。ということで会場に行ってみると、列はあってないような感じでぐちゃぐちゃ。毎年、最初はこんな感じなので、慌てず流れに乗り、無事入場。

愛はあるけど犯罪的に責任感の欠如した母親の元で苦しむ少年ジャックの物語。現代の育児放棄の救いの無い状況を描く内容で、いたいけな少年ものは少し飽きたなあ、と思いながら見始めると、テンポ良くぐいぐいと見せていく演出が巧みで、引きこまれていく。

絵にかいたような不幸の連続を、作り過ぎのフィクションと考えてうんざりするか、これこそ現実と感じて胸を痛めるか、ふたつの思いに揺れているうちに、一気に見てしまう。少年の行動に合わせた慌ただしいカメラと編集の動きも効果的で、いや、これはなかなか上手い。コンペの1本目から、全く悪くない。

11時から、業界で最大の影響力を持つ会社のひとつであるワイルド・バンチ社の「プロモ・リール集」へ。

12時からは、マーケット会場に行き、数社とミーティング。会場は、昨日よりは人が増えてきたかな。それでも、例年よりスロースタートか?

15時半に上映に戻り、「フォーラム」部門で『She’s lost control』というアメリカ映画へ。人との接触や親密さに対して恐れを抱く患者たちに、セックスを用いた治療を施す「セックス・セラピー」に従事する女性のドラマ。スキャンダリズムを排した丁寧で繊細な描写はいいのだけれど、設定上いささか展開が読みやすいので(予想を裏切ってくれない)、まずまずといったところ。

上映終わり、ベルリンに来るたびに楽しみにしているソーセージとザワークラウトとベイクド・ポテトが食べられるファーストフード店でお腹を満たし、急いで次の上映へ。

向かったのは、17時15分から「フォーラム」部門の韓国映画で『10 Minutes』。本作も昨年のプサン映画祭で受賞して話題になった作品で、なるほど素晴らしい。

夢を抱いて勉強中の青年が、バイト先の会社で正社員のポストをオファーされ、夢を追うか、平凡だが安定した生活を選ぶかを迫られるうちに、残酷な大人の世界に翻弄されていく力強いドラマ。韓国社会の現状がベースにはなっているものの、上下社会や、家族から寄せられる就職へのプレッシャーなど、日本人でも100%感情移入できるはず。主人公が徐々に追い込まれていく展開に隙がなく、細かい伏線も効果的で、感情描写も素晴らしい。終始高いテンションを保ったまま、全くダレることがない。全く、韓国の若手監督のポテンシャルには本当に驚かされてばかりだ…。

続いて19時半から、これまた「フォーラム」部門で、カナダのドゥニ・コテ監督の新作『Joy of Man’s Desiring』へ。ドゥニ・コテは現在最も刺激的なアーティストのひとりであり、本作は今年のベルリンで最も楽しみにしていた1本。

ドゥニ・コテ監督は、純粋アートなドキュメンタリー的作品と、フィクションドラマの両方を手掛ける才人で、2年前の東京国際映画祭で上映した『檻の中の楽園』は前者のタイプ。この『Joy of Man’s Desiring』も同じ路線で、工場の機械と労働者の動きをじっと観察しつつ、要所に細かい演出を挟んでいくもの。そこに搾取や資本主義批判という狙いは全くなく、機械の美しさと労働そのものを抽象度を高めた演出で描いていくもので、極めてアート性が高く、素晴らしい。一般上映だったので監督のQ&Aもあり、話が抜群に面白い。本当にドゥニ・コテ監督からは目が離せない。

本日最後は22時から、コンペ部門のイギリス映画で『’71』(写真)という作品へ。北アイルランド紛争が激化していた71年のベルファストを舞台に、軍からはぐれてしまった新人兵士が過激派の住民から殺されそうになりながら必死に逃げる様を描くサスペンスフルなアクションドラマ。緊迫感溢れる演出は堂々としたもので、これで新人監督というのだから恐れ入る。

宿に帰って0時。昨日の隣席ゴホゴホ女性の効果はてきめんだったらしく、鼻水が出てきた…。くそー。気合いで治すぞ。

【8日(土)ベルリン Day3】
8日、土曜日。起きてみると、東京では大雪とのニュース。FBや送られてくるメールの内容がみんなどこか浮かれていて、立ち会えないのが少し残念…! 逆にこちらベルリンはよく晴れて、本当に春みたい。こんなベルリン、ここ数年で記憶がないな。

本日は8時半からの上映に間に合わせるべく、朝イチからバタバタと準備して、急いで外へ。見たのは、コンペ部門の『Beloved Sister』というドイツ映画で、監督は本作が8年振りの新作長編となるドミニク・グラフ。

ドイツを代表する詩人の一人であるシラーと、彼の妻とその姉の3人の関係を巡る、愛憎のコスチューム・ドラマ。格調のある美しい時代劇で、現代性もそれなりに備えているのだろうけれど、僕はどうしても18世紀末のブルジョワ的三角関係に興味が持てず、退屈してしまった。とはいえ、ヨーロッパのシニア層にはしっかり訴える出来にはなっているのだろうな。それにしても、3時間は長いぜ…。

続けて、11時から某社のプロモリール集を少しだけ覗いてみる。

12時から、「フォーラム」部門で1本見るものの、全く共感できずにがっくり。

14時から、同じく「フォーラム」部門で、『Velvet Terrorists』というスロヴァキアの作品へ。これが、なかなか変わっていて面白い。チェコスロヴァキア時代、つまり共産主義の時代にテロ行為で逮捕され服役したことのある3名の男性の現在を描くもので、積極的に演出を取り入れたドキュメンタリーのスタイル。

ドキュメンタリー的要素を取り入れたフィクションや、ドキュメンタリーに見せかけたフェイク・ドキュや、ドラマのようにドキュメンタリーを仕立て上げるドキュ・ドラマなどはたくさんあるけれど、ドキュメンタリーの登場人物に演技をさせて抽象性を高める試みが取られている本作のようなタイプは珍しい。ドキュメンタリーの定義を巡る議論は不毛であるということは百も承知だけれども、僕はあれこれ言い合うのが結構好き。

男たちは自分たちが犯したテロ行為を画面に向かって語ったあと(共産主義反対を掲げた爆弾行為で5年服役、など)、現在の婚活や、後継者育成で女性をトレーニングする(?)ことなど、自分たちの現状を改めて再現ドラマのように自らが演じていく、というややこしい設定で、これがなかなか新鮮で面白い。でも、こうやって書くと分かりにくいな。

16時から、数件ミーティング。コロンビアの映画機関の人とミーティングしていたら、お互いサッカーW杯で同じグループに入っていることの話題でめちゃくちゃ盛り上がり、30分のミーティングのうち20分以上はサッカーの話になってしまった。これこそ正しい国際交流!

夜は、『ハンナ・アーレント』を大ヒットさせたC社のY社長が食事に誘って下さり、とても素晴らしいレストランで素晴らしい食事。久しぶりの美味しい食事を満喫するものの、いよいよ鼻水がひどいことになってしまい、ひょっとしてこれは花粉なのか?

0時に宿に戻り、今日はベッドに直行。

【9日(日)ベルリン Day4】
起きてみると、気分はスッキリ。鼻水も収まったみたいで、よかったよかった。朝食を詰め込んで、慌ただしく外へ。美しい青空!

9時からコンペ部門で『Stations of the Cross』というドイツの作品。厳格過ぎるカトリックの教義に縛られて育つ少女の受難の物語で、章立てされた14のシーンから成るワンシーン・ワンショット映画。これがかなり効果的で、少女を抑圧する母親像も実に恐ろしくていい。朝から収穫。

11時から、1時間列に並び、12時から待望のラース・フォン・トリアー監督新作『Nymphomaniac Volume1』(コンペ)にそれでもギリギリで入場。やはり人気だ。本作は2部作で、第1部に続いて既に第2部もパリで劇場公開されていたけれど、このベルリン出品バージョンは、第1部のディレクターズ・カットで、少し長いとのこと。

感想は…。これは第2部を見ないとなんとも言えないな…。両方見てからの判断ということで、今は保留しよう。

あとは、今日は駆け足で。

・15時から「フォーラム」部門で『To Singapore with Love』。監督はタン・ピンピン。シンガポールから海外へ移住を余儀なくされた人々に取材し、現在のシンガポールの非民主主義的な側面に焦点を当てるドキュメンタリー。響く。

・17時から「フォーラム」部門で『The Darkside』というオーストラリアの作品。スピリチュアルな体験をした人々の証言を集め、役者にそれを語らせる、というユニークな内容で、なかなか面白い。

・19時半から「フォーラム」部門で『Nagima』というカザフスタンの作品。映画的な趣があり、それなりに見せるのだけれど、「本年ベルリン映画祭不幸大賞」を授けたいような、不幸のどん底の、ホープレスな物語…。

・22時半からコンペ部門で『History of Fear』というアルゼンチン映画へ。これがまた極めて難解で抽象的な作品で、おそらく恐怖のエッセンスを描いているのだろうけれど、リニアな物語があるようでなく、スケッチの連続を積み上げていくスタイルに、いささかお手上げ。

なかなかヘヴィーな作品が続いた6本立ての一日だったけれど、あまり疲れていないのはどうしてだろう? ブログをつらつら書いて、そろそろ2時。何故か眠くないけど、ちゃんと寝ることにしよう。
《矢田部吉彦》

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