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【シネマモード】二階堂ふみ演じる「花」にみる恋する“女”とは…『私の男』

第138回直木賞受賞作『私の男』。桜庭一樹による衝撃のベストセラーが、ついに映画化されました。奥尻島を襲った大地震による津波で家族を失った10歳の花…

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-(C) 2014「私の男」製作委員会
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第138回直木賞受賞作『私の男』。桜庭一樹による衝撃のベストセラーが、ついに映画化されました。奥尻島を襲った大地震による津波で家族を失った10歳の花。彼女を引き取ったのは、遠い親戚だと名乗る淳悟。家族の愛を知らずに生きてきた孤独な彼は、突然の不幸により不安を抱え泣く花に、「今日からだ。俺は、おまえのもんだ」と告げます。しっかりと手を握り合う2人の運命は、ここから始まるのです。

ベストセラー小説ですから、物語についてよく知る方も多いことでしょう。孤独の中で出会った男女の魂は、必然のように寄り添い、他人を寄せ付けないほどの特異な絆で結ばれていきます。愛に飢え、それを理解し満たし合うことのできる唯一無二の関係となった花と淳悟。2人が抱えるやるせない孤独と、どうしようもなく離れられない関係性に、胸が締め付けられるよう。

でも、血縁関係にあり、歳が離れすぎている2人を、世間は“禁断の関係”にあるとみなすのです。世間ではタブーとされる関係に身を置き、後ろ指を指されると知りつつも、こんな風にしか生きられない、そんな痛みが印象的な作品。私たちは通常、見たいものだけみて、知りたくないことにはふたをして生きています。そして万事整っているふりをする。でも、現実を見つめようとすれば、そんなきれいごとは通用しないのだと、言われているような気がしました。

物語の持つ切なさ、花を演じた二階堂ふみ、淳悟を演じた浅野忠信らのやるせなさあふれる演技が素晴らしい本作ですが、「シネマモード」的視点で見てみると、花のファッションもとても印象的。彼女の身なりには、妙に女を感じるのです。

10歳で淳悟に引き取られた花が、やがて成長して登場するのが、その4年後。14歳になった彼女が、淳悟の恋人・小町と何度か会話を交わします。そのときの姿は、ぱつんと切られた前髪にツインテール、かわいらしい熊の耳あてをした無邪気な少女風。もしくは、白いスカーフを結んだ典型的な清純派セーラー服姿。でも、花の言葉には小町へのライバル意識がむき出しになっていて、とても無邪気とも清純とも思えないのです。大人びた言葉や時折見せる妖艶なまなざしと、ツインテール×熊の耳あてはあまりに似合わない。実は、そこに現れたちぐはぐさこそ、この物語が持つ痛みの根源とも思えるのです。

10歳で、突然現れた男(いくら縁者でも初対面のほぼ他人)に、「俺は、おまえのもんだ」という最上級の愛の言葉を囁かれた花は、すでにそのときから自分を淳悟の女として意識しはじめたのかもしれません。その後、成長していく花ですが、淳悟の前で見せるのは、幼さを強調するような姿と、甘えた態度。父親にとって娘が永遠に特別な存在であるように、淳悟にとって自分が永遠に特別な存在であることを、もうそれは否定しようもない事実であるにも関わらず、自分にも他人にも見せつけているかのようです。どうしても、相手にすがりつかずにはいられない思い。淳悟は自分無しでは生きられないと心の底では理解していても、一度愛する者を失ったことのある花は、その思いをむき出しにするしかないのかもしれません。

女性は、好きな男性の好みに変わっていくと言われています。いまは自分を堂々と主張する女性が増えていますが、やはり好きな男性の理想に近づきたいと思う人は多いはず。心はすっかり女である花が、いつまでも少女性にこだわるのは、自分が特別な存在であることを手放したくないからなのでしょう。特別な男の前で、特別な女であり続けようとする花の姿を、小町の視点から見れば耐えがたく感じるかもしれませんが、花が抱える喪失感と、喪失から生まれた執着、“私の男”を手放すまいとする動物的な本能に、切なさを感じる人もいることでしょう。

最終的にある決断を下し、永遠に少女ではいられなくなったとき、花は内なる女性とやっと一致したかのような大人のファッションに身を包むのですが、それは2人の関係を卒業するという意味なのか、それとももっと別の意味があるのか。そこには、女がある覚悟を決めたときの強さというものが表れていて、実に秀逸なラストシーンとなっていますので、2人の関係の行方とともに、ご自身の目で確かめてみてください。
《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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