【MOVIEブログ】ベルリン2015 Day9

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『Atomic Heart Mother』
  • 『Atomic Heart Mother』
13日、金曜日。ベルリン出張最終日。今年はロッテルダム映画祭に行けず、欧州滞在が例年より短くなってしまったので、どうにも寂しい。いつもはベルリンの終盤になると日本に帰るのが楽しみになるのに、今年は本当に寂しくて去りがたい…。

気を取り直して、本日も9時からコンペ部門の上映に赴き、ベトナムの『Big Father, Small Father and Other Stories』という作品へ。ベトナム映画が、ベルリンやカンヌといったメジャーな国際映画祭のコンペに入るのは、おそらく史上初めてではないかな?

サイゴン(ホーチンミン?)に暮らす青年たちの姿を描く青春群像劇。全体を貫く太い物語はあるようで無く、エピソードの断片がコラージュされていくようなスタイル。絵に力はあるものの、キャラクターの掘り下げが足りず(というか、人物が全く描けていない)、どうにもメリハリに欠けてフラストレーションが溜まってしまった。残念。

続いて、昼からケネス・ブラナーが監督する『シンデレラ』の特別上映があって、行こうかどうしようかと悩んでしまう…。だって、ケイト・ブランシェットの魔女に、いじわるな母役にはヘレナ・ボナム・カーター。誰だって見たいはず!

しかしまあ、出張で来ているベルリンで(仕事で関わることが無いであろう)『シンデレラ』をのんきに見ているというのは、あまりよろしくはないよなあ、とオトナの自覚を動員して諦め、会場を移動し、見逃していたコンペ部門作品の追加上映へ。

シンデレラを犠牲にして見たのは、ドイツのアンドレアス・ドレーセン監督の『As we were dreaming』という作品。僕はこの監督の作品を好きになったことがなく、あまり期待もしていなかったのだけれど、やはり今作もダメだった。東ドイツ時代のバカげたティーンたちが酒やドラッグで道を踏み外していく、ノーフューチャーな物語。新鮮味が微塵もなく、一瞬たりとも面白くない。こんなことなら、やっぱりシンデレラを見るんだったなあ。

もやもやした気持ちを抱えて、1時間ほどお土産などを買ったりしてから、14時からブラジルの映画祭の関係者、そして14時半からアルゼンチンのプロデューサーと、2件続けてミーティング。

15時半から上映に戻り、「フォーラム」部門で『Atomic Heart Mother』(写真)というイランの作品へ。ピンク・フロイドの「原子心母」をタイトルに持つイラン映画、否が応でも期待が高まる。つまらないはずがない…。

という予感に、見事に応えてくれる作品だった! 2人の美しい若い女性が、深夜のテヘランを車で走る中で遭遇する出来事を描く内容で、前半はセンスの良いオフビートなコメディと思いきや、途中から怪しい男が登場し、映画は一気に不穏な空気に包まれていく。前半と後半の転調が楽しくも恐ろしい逸品。まったく、近年のイラン映画の幅広い魅力には驚かされてばかりだ。

続けて、17時15分から、日本でも特集上映が組まれたことのある、アルジェリア出身のラバ・アムール・ザイメッシュ監督の新作で、『The story of Judas』という作品へ(「フォーラム」部門、製作国はフランス)。イエス・キリストの生涯のいくつかの場面を描く内容で、難解な作品を予想していたら、意外にもストレートで見やすいものだった。

姦通の罪を着せられた女性を連れてきた集団に対し、「罪の無い者から先に石を投げよ」とイエスが告げるエピソードなど、誰もが知る場面がシンプルに描かれていき、その時々のイエスの苦渋に満ちた表情や、ユダの取る行動に、監督の演出意図が反映されていく…。

13日の金曜日に本作を見るのも何かの因縁か、というのは不謹慎かもしれないけれど、予想以上に面白く見ることが出来て、なかなか満足。

そして19時半から、またまた「フォーラム」部門で、『Exotica, Erotica, Etc.』というギリシャの監督によるドキュメンタリー作品へ。非常に地味なドキュメンタリーであるにも関わらず、300人は入りそうな劇場は、今回も満席だ。

今さら書くようだけれど、ベルリン映画祭は本当に市民に深く浸透していて、一般上映はどの回も満席で素晴らしい。個々の作品を吟味して選択して見るというよりは、「とにかくベルリン映画祭に行くのだ」という意識が浸透しないと、なかなかこうはいかない。

昨日乗った地下鉄では、車内の宣伝モニター画面にベルリン映画祭の作品紹介動画が流れていたし、トーキョーと同様の都市型映画祭であるベルリンから、トーキョーが学ぶべき点はとても多い…。

さて、『Exotica, Erotica, Etc.』は、巨大なコンテナ船で長い旅をする船乗りたちの姿を、長年彼らを港で相手にして来た娼婦が愛情を持って語っていく内容。人間味が溢れて、何とも言えず良い作品だ。

上映終わり、20時45分に人と会う用事を済ませ、22時から、僕にとっての今年のベルリン映画祭最後の上映へ。

見たのは、コンペ部門の最後の作品として登場した、Sabu監督による『天の茶助』。ベルリンに来て、日本でも見られる日本映画をわざわざ見ることもないだろうという躊躇は一瞬あったものの、これが最後だし、シンデレラも我慢したし、まあ許されるかなと自分で勝手に判断した次第。

Sabu監督や主演の松山ケンイチさんなども登壇し、場内はかなり盛り上がる。よかった!

0時半に宿に戻り、同僚と軽い打ち上げでワインを飲み、これにて終了。

さて、コンペの賞の行方はどうなるだろう…? 今年は、大本命となるような作品は、どうやら無かった。数年前の『別離』や『ニーチェの馬』のような超ド級の作品、あるいは、昨年の『薄氷の殺人』や『6才のボクが、大人になるまで。』のような突出した作品はない。言い換えれば、どの作品にも可能性はあるのではないかな?

そんな中で強いて金熊賞(グランプリ)を予想するとしたら、僕はパナヒの『Taxi』に一票、だな。年初から「表現の自由」を巡る議論が世界中で白熱する状況の中で、『Taxi』はまさに象徴的な作品であり、受賞するにふさわしいという気がする。あとは、『45 Years』や、『Victoria』が絡んでくるはず。個人的には、ポーランドの『Body』も推したいところ…。

これを書いている現在は14日の午前3時。受賞結果を楽しみに待つことにしよう。4時間後の7時には起きてパッキングして空港に向かわなければならないので、そろそろ寝ることにします。今年も体調万全のままベルリンをこなすことが出来てよかった! お疲れ様でした!
《矢田部吉彦》

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