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【インタビュー】M・アザナヴィシウス監督が語る、“立ちたい場所”にある作品

長身でモデルになれそうなくらいスタイリッシュなのに、カメラマンにクールなポーズを求められると、照れて笑い出してしまう。フォトセッションでそんな素朴な一面を見せるミシェル・アザナヴィシウス監督。

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ミシェル・アザナヴィシウス監督/『あの日の声を探して』
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長身でモデルになれそうなくらいスタイリッシュなのに、カメラマンにクールなポーズを求められると、照れて笑い出してしまう。フォトセッションでそんな素朴な一面を見せるミシェル・アザナヴィシウス監督。『アーティスト』(11)でアカデミー賞5冠を成し遂げた彼の待望の新作『あの日の声を探して』が4月24日(金)より公開される。

1999年に起きた第二次チェチェン戦争で両親を亡くし、姉弟と生き別れた9歳の少年と難民キャンプで聞き取り調査を行うEU職員のフランス女性の交流、軍に強制入隊させられた19歳のロシア兵の物語は、強い衝撃で重く胸に迫る。

『アーティスト』でもモノクロ&サイレントという大胆な手法を選んだチャレンジャー、アザナヴィシウスは本作について「監督として立ちたい場所にある作品」だと語る。

「映画界の市場から期待されるのは、過去に大ヒットした作品と似たものです。そういう作品なら、もう1度作っても成功するだろうとプロデューサーや出資者は考えます。監督にとっても、それは安全というか居心地のいい状況ですが、クリエイティブではありません。僕は資金を集めやすい王道でありつつ、同時に驚きのある映画を作りたいんです」。『アーティスト』の大ヒットという実績で必要な資金の調達に成功し、製作の実現にこぎつけたのだ。

これまで手がけた作品はコメディが多かっただけに、戦争という題材は確かに驚きだった。「観客からコメディを求められているかどうかはわかりません。出資者側は確実にそうでしょうけれどね」と笑ってから真顔になる。そして「戦争ではなく、チェチェン紛争について描きたかったのです」と明言した。

「僕は2004年にルワンダについてのTVドキュメンタリーを作りましたが、その頃からチェチェン紛争については語るべきだと考えていました。20~30万の犠牲者の出た暴力性の高い紛争が、国際社会の無関心の中で起きていた。それについて、敗れた側のチェチェンの人々によって語られることがないままであったことも、この映画を作ろうと思った理由の1つです」

映画には3人の少年と少女が登場する。チェチェン共和国の寒村で、ロシア兵によって目の前で両親を殺され、ショックで声を失った9歳のハジ、姉のライッサ、そして平穏な日々から突然戦場に送り込まれたロシア兵・コ―リャだ。

「映画はグルジアで撮影されましたが、コーカサス山脈を隔てた向こうにチェチェンがあります。山脈の麓に10以上のチェチェン人のコミュニティがあり、姉弟役はそこで暮らす子供たちをオーディションして選びました。コーリャを演じたマキシム・エメリヤノフはモスクワ出身のプロの俳優です。実力もあるし、インスピレーションも豊かで、彼との仕事は楽しい作業でした。ハジとライッサ役の2人については、もう少し混沌としていましたね。彼らはプロではないから、僕の演技指導や演出でいろいろ作っていく感じになりました。彼らには演技力はないかもしれないけれど、体験があります。素人ならではの真実というか」。

確かにその通り。2人とも、自らの体験ではなくとも身近な人々の味わった悲しみを追体験しているのでは? と思わせる、真に迫った嘘のない表情を見せる。とはいえ、経験ゼロで歳若く、言葉も通じないキャストとの作業には、監督としてかなり苦労したのでは? と尋ねると「通訳がいてくれましたから(笑)」とまず一言。「現場で音楽を流して雰囲気を作ったり、目で会話することもできました。ハジを演じたアブドゥル(・カリム・ママツイエフ)は撮影時9歳で、気分が乗らない時もあったりはしました。でも、人物の感情は僕が演出するまでもなく、彼らがストーリーの中に身を置くことで出てくる。とても自然に感情を出してくれました」。

嘘のなさという点では、プロの俳優たちも凄まじい。コーリャに度を超した残酷な仕打ちを繰り返す先輩兵士たちの壊れっぷりは、見ていて恐怖を覚えるほどだ。ロシア俳優たちの強烈なリアリズム演技について監督は「とても本気です。役になりきるんです」と言い、「半分冗談ですが」と前置きして、平手打ちのシーンの演技に出るお国柄を説明した。「フランス人は、普通に殴られたふり。アメリカ人はスタントマン4人を動員して撮って、さらに編集に凝りまくる。誰1人、指1本ふれていません。ロシア人は本気で殴って、殴られる(笑)」。

そうした本気は作品の隅々にまで浸透している。そこに大きく貢献しているのが35ミリフィルムでの撮影だ。「子供相手の撮影なので、たくさんテイクも重ねるだろうから、と最初はデジタルでの撮影を考えました。でも、いざ撮ってみると、フィルム撮影はやっぱり違う。肌理の精度がより高く、印影のつき方もデジタルにはないものです。それに映画撮影の伝統というか、35ミリで撮ると重みも違う。『アクション!』『カット!』と声がかかる時、誰もが集中します。デジタル撮影には、そういう“聖なる”瞬間はない。フィルムで撮る大切なワンカットという重み、緊張感、空間はデジタルでは作れないものです」。

劇中、スタンリー・マイヤーズの「カヴァティーナ」が流れる場面がある。マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』のテーマ曲として知られる名曲だ。あえてこの曲を選んだのは、ベトナム戦争の帰還兵を描いた同作が「戦争によって深く傷つけられた人々を描いているからです」と言う。戦闘ではなく、人を描くことで戦争の悲惨を伝える。これは本作にも踏襲されている。それゆえなのか、映画のラストは希望だけを強調した脚本執筆時とは違うものになった。「脚本通りに編集してみたら、結末が作為的になってしまったので」と語る。戦争の現実により踏み込んだラストをぜひ劇場で見届けてもらいたい。監督は言う。「私たち1人1人は無力で、戦争を止めることはできないかもしれません。でも、無関心であることをやめ、行動することはできます」。
《冨永由紀》

好きな場所は映画館 冨永由紀

東京都生まれ。幼稚園の頃に映画館で「ロバと王女」やバスター・キートンを見て、映画が好きになり、学生時代に映画祭で通訳アルバイトをきっかけに映画雑誌編集部に入り、その後フリーランスでライター業に。雑誌やウェブ媒体で作品紹介、インタビュー、コラムを執筆。/ 執筆協力「日本映画作品大事典」三省堂 など。

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