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【MOVIEブログ】2015カンヌ映画祭 Day10

22日、金曜日。7時起床。目覚めてみると、窓の外は快晴。清々しい気分で、いよいよカンヌ映画祭の終盤戦へスタート。もうミーティングはないので、残り少なくなった公式上映と、見逃した作品の再上映を見るべく予定を確認し、外へ。

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22日、金曜日。7時起床。目覚めてみると、窓の外は快晴。清々しい気分で、いよいよカンヌ映画祭の終盤戦へスタート。もうミーティングはないので、残り少なくなった公式上映と、見逃した作品の再上映を見るべく予定を確認し、外へ。

まずは8時半から、「批評家週間」部門のフランス映画で『Learn By Heart』という作品へ。フランスの郊外にある低所得者用団地に暮らす黒人の少年が、不本意ながらもドラッグ売買に関わり、しかし本来の真面目な性格が未来を切り開く様を描く物語。治安の悪い郊外とマイノリティー社会、というのはもはやひとつのジャンルを形成していると言っても過言ではなく、本作もそのフォーマットに則り、商業ベースにも乗れる見易さを備え、可もなく不可もなし、といったところ。

会場を移動すべく歩いていると、足元にお札が落ちていて、思わず拾ってみると20ユーロ札だった。日本だったら届けるところだけど、カンヌに交番もないし…。生まれてからいままで、小銭はともかくお札を拾ったことなどないので、ちょっと動揺。さて、どうしよう。

どうしたかは想像にお任せするとして、11時からコンペ部門のジャック・オーディアール監督『Dheepan』。もはやカンヌコンペの常連作家であるオーディアールの新作は、スリランカの内戦を逃れてフランスに渡った疑似家族が、治安の悪い郊外の低所得者用団地に住み、チンピラやくざの抗争に巻き込まれていく物語。期せずして2本続けて同じような舞台の作品が続き、改めて「移民もの」の数の多さを自覚させられる。それだけこのテーマが世界において日常化していることの証であり、日本との温度差は大きい。

僕は処女作の『Regarde les hommes tomber』(94)からオーディアールのファンで、これまでの全ての作品を愛しているけれど、本作はいささか凡庸であったかもしれない。いや、凡庸という言葉は言い過ぎかもしれないけれど、犯罪ものや刑務所ものなどの既存のジャンルに常に新しい風を吹き込んでいたオーディアールにしては、物足りなさが残ってしまった。

物語を引っ張っていく演出力に疑いはなく、凡百の映画よりは圧倒的に見せる力はある。スリランカ人の新人俳優も素晴らしいと言っていい。それでも、それ以上を期待してしまうのがオーディアールであり、ジャンルを突き破る脚本の粘りがもうひとつ欲しかった。ただし、オーディアール作品の全てを貫くテーマである「タフネス」は今作もいかんなく発揮されており、その意味では満足だ。

上映終わって宿に戻り、映画会社とのミーティングで溜まった資料の山をまとめてマーケット会場に持って行き、国際宅急便で日本へ送付の手続き。

すぐに上映の列に並び、14時からこれまたフランス映画のコンペ作品『Valley of Love』(写真)へ。監督は、近年進境の著しいギヨーム・ニクルー。主演がジェラール・ドパルデューとイザベル・ユペール。スターの競演に、フランス人の観客がどっと押し寄せる。会場内のスクリーンにレッド・カーペットの模様が映され、ドパルデューが登場すると場内がどよめく。さすがだ(ナマで見られず残念!)。

ドパルデューとユペールの元夫婦が、自殺した息子の遺言に従ってアメリカのネバダ州で再会し、息子の指定した場所を訪れていく物語。ふたりの演技合戦を見ているだけで幸せな気分になれるのだけれど、決して幸せな内容ではなく、失ってしまった息子と、失われてしまった彼らの人生に対する悲痛な思いが伝わってくる。真夏の強い陽射しと、暗い影で覆われた物語のコントラストが効果的で、作風は明るいのだけど内容は暗いという絶妙さが上手い。やはりギヨーム・ニクルーは注目作家だ。

次の作品まで時間が空いたので、同僚とレストランに入ってピザを食べることにする。暖かい食事を食べるのは、9日振りだ! 生き返った!

生き返ったついでに腹が膨れて何とも疲れてしまったので、宿に帰って15分昼寝休憩。慌てて起きて19時半からの上映を見るべく18時半に会場に行ってみると、超長蛇の列。もうあまり上映が多くないので、数少ない上映にみんな殺到するのだった。ああ、そんなことに気付かないなんて、まったく何度カンヌに来ているのだ!

と自分を責めつつ列に並ぶこと1時間半。列は動いたけれど、あと10人くらいで入れるというところで止まってしまった。開映時間もとっくに過ぎているし、もはや無理かと諦めかけた20時過ぎに、ようやく入場が叶う。そうか、見ようとしている「監督週間」部門のセレモニーが上映前にあり、セレモニーだけ見た観客の席が空いたらしい。ギリギリ滑り込みで入ったわりには通路沿いの最高の席が確保でき、今日は何だか運がいい?

見たのは『Dope』というアメリカ映画。90年代のヒップホップをこよなく愛するマルコム少年の奮闘を描く青春もので、実に楽しい作品! 黒人高校生たちの校内ヒエラルキーを描く青春映画って、あるようであまり無かったかも? ドラッグや犯罪はてんこ盛りなのだけれど、基本的に青春コメディーなので作りはポップで明るく、音楽と友情と恋愛と冒険と成長とが完璧に配された痛快作。カンヌでこういう作品が見られるのは嬉しいな。

若い俳優たちが揃いも揃って瑞々しく、プロデューサーにフォレスト・ウィテカーがクレジットされている。

本作はサンダンス映画祭で話題になった作品でもあり(編集賞)、ということは昨年この部門で話題になって日本でもヒット中の『セッション』と同じパターン。『Dope』、『セッション』に続いて日本での公開が期待できるだろうか?

熱狂の拍手喝采が渦巻く会場を後にして、22時からの「ある視点」部門の作品にダッシュ。ギリギリ間に合って見たのは、『The Fourth Direction』というインド映画。これがなかなか難解な作品だった!

80年代のパンジャブ地方を舞台に、ふたつの物語がゆるく交差する(たぶん)。ひとつは、終電後の貨物列車に乗ってどうしても目的地に行こうとするふたりの男のエピソード。もうひとつは、人里離れた家で、飼い犬を殺せと武装集団に脅される家族のエピソード。こうやって書いていると、大抵は「そうか、あそこが繋がっていたのか」と気づくものなのだけれど、この映画に関してはどうにも分からない。分かるのは、政府と反政府テロ集団が衝突していた時期だということで、テロリズムに対する深い洞察が込められた作品だったのかもしれない…。

もはや2時を回り、『The Fourth Direction』のタイトルの意味(何が「第四の方向」だったのだろうか)、内容の示唆するところを判断する能力も無くなってきたらしい…。そろそろ限界。ダウンです。
《矢田部吉彦》

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