【MOVIEブログ】2016ベルリン映画祭 Day3

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イタリアのジャンフランコ・ロッシ監督の新作で『Fire at Sea』
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13日、土曜日。少し寝坊してしまい、6時50分に起床、バタバタと支度して朝食をたらふく詰め込んで、8時に外へ。本日も快晴なり! キリっと冷えた空気と澄んだ青空がとても気持ちいい。気温は2~3度くらいかな。この天気が続きますように!

本日も、9時のコンペのプレス試写からスタート。イタリアのジャンフランコ・ロッシ監督の新作で『Fire at Sea』という作品(写真)。ジャンフランコ・ロッシ監督は、前作『ローマ環状線、巡りゆく人生たち』が2年前のヴェネチア映画祭で同映画祭初となるドキュメンタリー映画での金獅子賞(グランプリ)受賞を果たし、一躍世界の注目を集めたドキュメンタリー作家で、前作のローマ近郊から舞台を移し、今回は地中海に浮かぶ小さな島に焦点を当てている。

現在の欧州を揺るがす大問題である難民問題がひとつの柱となっていて、連日数百人の難民を乗せたボートがこの島の沿岸で保護される様が映し出される。保護時にはすでに息絶えている人々も多く、最前線の悲痛な現場の状況が生々しく伝わってくる。ただし、映像はどこか端正な佇まいを崩さず、いたずらに感情的になることを抑制するような、冷静で客観的なスタンスが保たれているので、逆に生々しさが増していく。これだけでもロッシ監督が優れたドキュメンタリー作家であることに疑いの余地はない。

しかし、この作品を単なる現状報告的な社会派ドキュメンタリー以上の存在にならしめているのは、難民の状況と並行して、島で暮らす12歳の少年の日常が描かれていることで、この構成が実に素晴らしい。少年の日常の描写の中に、難民問題は全く挿入されない。木の枝を切ってパチンコを作り、無邪気に遊び、学校に通い、おばあちゃんのパスタを美味しそうにすすり、そして視力が低下してしまった左目の治療に心を悩ませる。世界的大課題の最前線である島が、無垢な少年が素朴に暮らす島でもあるという並置の中から、現代社会の縮図が浮かび上がってくる…。

タイムリー、という形容は不謹慎かもしれないけれど、2016年を象徴する作品になる可能性すらあるし、本当に優れた作品だ。そして、社会派ベルリン映画祭の面目躍如的な作品でもある。これは賞に絡むのではないかな? ジャンフランコ・ロッシは、世界を代表するドキュメンタリー作家の地位を確固たるものにした感があり、んー、興奮が止まらない。

ところで、プレス試写では審査員も見ていることがあり、この回では、僕の3列斜め前に審査員長のメリル・ストリープが座っていた。ちょうど横顔がバッチリ見える角度だったので、どうしてもチラチラ見てしまう! 映画で笑いが起きるシーンがあると、思わず「お、メリル、笑ってる、笑ってる」と確認してしまい、一体オレは何をやってんだか…。それにしても、映画史を代表する大女優のひとりであるメリル・ストリープの横顔を2時間見続けられるとは、なんともシュールな環境だ…(そんなには見てないけど)。

続けて12時から、これまたコンペ部門のプレス試写で、ミア・ハンセン=ラブ監督新作の『Things To Come』。僕は正直言って、いままで同監督の熱心なファンではなかったのだけれど、今作はいままでで一番しっくり来た作品かもしれない。

高校の哲学教師に扮するイザベル・ユペールが主演で、既に子どもたちも独立し、人生の次のステージに進もうとする年齢になった女性の姿を淡々と、そして丁寧に描いていく人間ドラマ。派手なクライマックスを排し、生活のディテールを積み上げ、等身大の女性の姿を描いていく作風にとても好感が持てる。何より、ほぼ全編出ずっぱりのユペールの感情表現が絶妙に巧みで、彼女の新たな代表作になるのではないだろうか。映画祭実質2日目にして、早くも主演女優賞の最有力候補であると断言したい!

前作の『エデン』もそうだったけれど、ミア・ハンセン=ラブは、ヒーローになれない(ならない)人間を見つめる視点に特徴があるのかもしれない。今作では野外の陽光を美しく採り入れた画面も素晴らしく、ちょっと彼女の作品について考え直していかないといけないかもしれないと、遅ればせながら思った次第…。

14時に、「フォーラム」部門で桃井かおり監督の『Hee 火』の一般上映へ。これはとても考えさせられる作品だった。有名スター女優が自らの主演作品を監督してはいけないという法は無いけれど、映画史を考えて見ても、ほとんど例を思いつくことが出来ない。田中絹代は自分の主演を監督はしていないはずだし、アンジェリーナ・ジョリーもしかり。ミア・ハンセン=ラブは「有名女優」という存在ではなかった。レニ・リーフェンシュタールは人気女優だったけれど、全盛期の自分の姿を監督したわけではない(晩年はあったとしても)。

それこそ、ジュリー・デルピーくらいしか思いつかない。ウォーレン・ビーティー、クリント・イーストウッド、ロバート・レッドフォード等々、男の俳優ならいくらでも例があるのに、女優監督の少なさは一体どういうことだろう? 映画業界における男社会の壁の厚さなのか? これは本当に検証に値するのではないだろうか…。

ということを、桃井監督作品を見ながら考えてしまった。堂々たる主演作。主演どころか、全編の9割近く本人が画面を占める。これはこれだけで画期的な作品だ。映画を越え、アーティストによるパフォーミング・アート作品であるとも呼べるかもしれない。映画史に真っ向から挑んだ桃井監督のスピリットに、深く敬意を表したい…。

監督によるQ&Aも見たかったのだけれど、ミーティングがあったので断念し、マーケット会場へ。今日と明日の週末がマーケットのピークのはずで、会場は大勢の人で大混雑。活気があって嬉しい。飛び込みや、出会い頭の立ち話を含め、4時間ほどノンストップでミーティング。

19時15分に上映に戻り、「フォーラム」部門のハンガリー映画へ。これがかなり実験的要素も含む観念的な作品で、映像に迫力があるにはあったのだけれど、暴力的な睡魔に抗うことが出来ず、不覚。

濃いコーヒーをがぶ飲みし、外の冷気(かなり冷えてきた!)で頭をスッキリさせてから、22時からメイン会場で『Mahana』という作品へ。ニュージーランドを代表する監督のひとりであるリー・タマホリ監督新作で、部門はコンペだけど、賞の対象にはならない「アウト・オブ・コンペ」扱いの作品。

きちんと予算をかけた商業映画。60年代を舞台に、マオリ族の対立する2つの家族の確執を軸としつつ、抑圧的な祖父に抵抗し、力強く育って行く青年の姿を描くドラマで、これが予想を上回るフィールグッドでウェルメイドな出来栄えで、長い一日の最後を飾るにふさわしい作品! 22時台にこういう作品があると、眠気や疲れも吹き飛ぶ。オセアニア地域での大ヒットは間違いないのではないかな?

今日は色々と充実したなあ、とリー・タマホリのおかげで爽やかな気分でホテルに戻って、0時半。ブログをパタパタ書いて、ああ、そろそろ2時半だ。寝ます!
《矢田部吉彦》

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