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【MOVIEブログ】2016東京国際映画祭 プレ日記的報告

9月26日に今年の東京国際映画祭のラインアップが発表になりました。僕の業務にとってはひとつの区切りで、少しだけほっとしています。それにしても、今年もここに来るまで長かった!

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9月26日に今年の東京国際映画祭のラインアップが発表になりました。僕の業務にとってはひとつの区切りで、少しだけほっとしています。それにしても、今年もここに来るまで長かった!

さあ、これから気持ちを切り替えて、5月のカンヌ総括以来更新が止まっているブログを再開して、作品紹介など書いていこうと思います。

その前に、ここ数か月何をやっていたか、去年も書いたけれど(そして今年もほとんど変わらないけど)作業の流れを報告します。でも、このブログは映画祭公式ではなく、あくまで個人ブログとして勝手なことも書いているので、はみ出した内容があったら、どうか映画祭ではなく僕をお叱り下さいね。

さて、僕の業務は、東京国際映画祭(以下TIFF、あるいはトーキョー)で上映される作品を選定することで、担当部門が「コンペティション」「ワールドフォーカス(の欧米作品)」「日本映画スプラッシュ」です。ただ、他部門にもちょっかいは出しているので、全体を統括するような立場でもあります。

映画祭の作品を探し求める作業自体は1年中行っているのですが、具体的に本格化するのが4月末からです。GW前にウェブ上での作品公募を始めて、連休明けるとすぐにカンヌ。カンヌでは作品を見つつ、映画会社やプロデューサーなどとミーティングを重ね、帰国すると公募作品がざくざく届き始めており、いよいよ本番モードに突入します。

僕個人は、東京国際映画祭事務局に連日(サラリーマン的に)出勤しつつ、5月のイタリア映画祭や、6月のフランス映画祭の司会のお手伝いをしたりして(そして合間を縫って落語教室に行って稽古したりして)、まだ少し気持ちにも余裕がある感じです。しかし気持ちには余裕があっても、時間的には既にきつくなっていて、休日はすべて応募作品の鑑賞に充てることになります。ただ、映画祭の選定とは直接関係なくても見ておかなければいけない日本映画があるので、業務の合間に時おり劇場に公開作品を見に行く、という感じで6月は終わります。

7月になると、完全目の色が変わる、というのが例年なのですが、今年はチェコのカルロヴィ・ヴァリ映画祭から審査員として招待してもらったので、7月上旬の10日間は美しい映画祭で過ごすことになりました。もっとも、審査対象作品を劇場で見る以外は、ホテルの部屋に戻って自分の映画祭への応募作品を見続けなければいけないので、カルロヴィ・ヴァリを堪能するというところまでは出来なかったけど…。

帰国して10日ほど東京で過ごして、7月下旬は例年通り、最後の欧州出張。まずパリに入って、フランスの映画機関の試写室に行って、一日中試写をしてもらう。それからローマに行って、イタリア映画を片っ端から見せてもらう。ひとりで閉じこもって朝から晩まで映画を見ているだけだし、しかも何の映画を見たかを言うのもあまりよくないので、せっかくパリやローマに行ってもブログやSNSに何も書くことがないのも、例年通り。

あ、ローマでは『神様の思し召し』のエドアルド・ファルコーネ監督に再会したのが唯一のイベントで、それは楽しい出来事としてSNSにアップしたんだったな。

で、7月31日に帰国して、8月。いよいよ大本番。これを書いている今が9月27日なのだけど、8月の異常な状態はもはやノド元過ぎてうまく思い出せないくらい。今年もしびれる夏でした。

去年までは、TIFFでは応募者にはDVDの送付をお願いしていて、その結果、応募登録はあるけどDVDが届かなかった(結果、選定審査の対象にならなかった)作品も少なからずありました。しかし今年から、オンラインで試写できるURLリンクの送付も受付可能としたところ、やはり検討対象作品が大幅に増えることになったのでした。

もらった以上はちゃんと見る。あたり前のことだけど、ここは映画祭の生命線なので、絶対に守る。20名ほどのチームを組み、1作品を最低2人は見るようにしながら、最終的には1,500本を超えることになった作品を回していく。1作品が2時間として、2人が見るとなると、全体の必要時間としては1,500本×2×2=6,000時間。これは1日24時間映画を見たとして、250日分。これを約3か月かけてチームに振り分けていくのが大作業で、その大詰めがやってくるのが8月というわけです。

もちろん僕ひとりで1,500本を見られるはずもないけれど、やはり1本でも多く見たいし、見ないと不安で仕方がない。かくして、時間のある限り見続けることになります。土日の時間をどう過ごしているかを人に言ったら確実にひかれてしまうので、これは言わない。ハハ。年初から8月末までに見た本数は650本くらいだと思うのだけど、やっぱり人間としてあまり正常なことをしていないなあと自覚はしつつ、異常なゾーンに入っているのが8月でした。

これは何度も書いていることだけど、僕の仕事の目的はたくさん映画を見ることではなく、良い作品を見つけることなので、そこを決してはき違えてはいけない。これだけ勉強したのだからいいだろうと満足して、試験に落ちたら元も子もない。なので、見た本数を吹聴して回ることはしないのだけど、インタビューなどで本数を言うと驚いてもらえるので(記事のフックにも利用してもらえる)、ついネタとして使ってしまうことがあって、でも本当にそんなことをしてはダメだと本気で思っています。こんなネタではなく、選ばれた作品の魅力で反応してもらわないといけない。

あるいは、多く見て絞り込むのではなく(いや、これも絶対に必要な作業であると信じて疑わないのだけれど)、ピンポイントで優れた作家の優れた新作を持ってこられるような、仕組みというか、ネットワーク作りをしなければいけない(そもそもそんな「仕組み」なんて存在しない)。以前よりは少しだけマシだけれども、でも全然足りない。ここが、課題です。

さて、8月中旬に一度選定を巡るピークがやってきます。それは釜山映画祭が選定を締め切る時期で、こちらが検討している作品が釜山からも招待を受けていて、応募者からこちらの判断を求められるケースです。釜山映画祭に出品された作品はトーキョーのコンペには選べないので、ここの決断はとても重く、難しい。もちろん作品にとって一番いい形になることを第一に考えなければならないのだけど、映画祭にも事情があるので、胃がキリキリと痛む思いをします(実際には僕は胃が丈夫なので痛まないけど、色んな種類の悪夢を見る)。

じゃあその「映画祭の事情」って何だよ、ということなのですけど、これは説明していると1冊の本になってしまうので割愛します。と、書いたり言ったりすることがよくあって、だったら本を書きなよと内なる声が聞こえ、ちびちび書き始めたのですけどね、こんな内容誰が興味を持つんだと思ったり、でもこんな経験誰もしていないだろうから記録に残すことに少しは意味があるかな、と思ったり。果たして書き続けることができるかどうか…。

閑話休題。8月末を第一次の目標としつつ、最終的には9月の上旬まで選定業務を続けます。何を基準に選ぶのか的なことは、作品紹介の際に触れるつもりですが、叩いて叩いて、絞りに絞って、僕が担当する40本程度の作品が決まったときには、もうすっかり夏も終わっていました。オリンピックを1秒も見ることもなく、例年通りの不思議な夏でした。

そこから、一気に物書きモードへ。チラシやパンフレットの解説原稿の締め切りがすぐさま襲ってくるので、資料の少ない作品について頭を悩ましながら、ゴリゴリと原稿を書く。それに平行して、残念ながら招聘に至らなかった応募作品へのご挨拶メールを書き続ける。日本映画でも、外国映画でも、とても評価しながら最終的に残らなかった作品については、率直な感想と今後のご縁を祈る旨を書き添える。これは書いても書いてもキリがないけど、大事なことなので、ひたすら書く。

そうして選定業務が一応ひと段落した、9月18日。1年で一番うれしい日で、5月のGW以来、ほぼ4か月ぶりの完全オフ! 仕事は一切しない! 応募作品も見ない! もう数日前から浮足立ってしまい、何をしようかと妄想してばかり。

本当はずっと寝ていたいのだけど、それはあまりにもったいないので、もう、詰め込むだけ詰め込んだ。新宿で『怒り』を見て、恵比寿で「杉本博司展」を見て、国立新美術館で「ヴェネチア・ルネサンスの巨匠たち展」を見て、三菱一号館美術館で「ジュリア・マーガレット・キャメロン展」を見て、上野の鈴本演芸場で桃月庵白酒師匠のトリを見て、最後は水道橋に行って「ラクーア」でぐったりと浸かった…。至福の休日でありました。

翌日からは、切り替えて仕事モードに復帰し、19日は朝からJ-WAVEの休日特番で少しお話し。広報モードに切り替えなければいけないのだけど、まだ作品アピールがスムーズに出てこない。やばい。事務局へ行き、上映スケジュールを固める作業へ。上映スケジュールは、外国作品ゲストの来日スケジュールと密接に関わってくるので、とても難しい作業です。相手の予定がコロコロ変わることもあるので、それに合わせて上映スケジュールも調整しなければならないのだけど、どこかで割り切らなければならない。その締め切りが、おそらく今週いっぱい。これもかなり緊張する日々です。

ここで僕にできることはあまりないので、ゲスト招聘業務や、上映素材の速やかな入手に対して非常に専門的なやりとりを昼夜続けるスタッフたちを応援するばかり。自分は、主に原稿書きの続き。映画祭の刷り物や、取材に対して文書で答えるものなどをせっせと書く。そして仮上映スケジュールを見ながら、今年はどのくらい司会ができるだろうかと、自分の予定の仮組みも始める。平行して、発表会見日の9月26日が近づいてきたので、コンペの作品説明の練習をしてみる。何度やっても持ち時間をオーバーしてしまい、むむーと悩みつつ、9月26日を迎えたのでした。

会見は始終穏やかな雰囲気に包まれて、とてもいい場になったのではないかな? 蒼井優さんが素敵なエピソードを披露してくれたし、細田守監督のミニ・トークコーナーもとてもよかった。ただ僕のコンペ16作品の発表に関して言えば、またまた早口でまくしたててしまい、反省ばかりが残るけれども…。でも会場のみなさんも慣れているのか(?)、温かく見守ってもらえた感じでした。ありがとうございました! (写真は、ブルガリアで撮影中のため来場できなかった杉野希妃監督に敬意を表し、コンペ作品『雪女』を解説中の場面!)

というわけで、一区切り。ここから切り替えなおして、本番に向かってあとは走り続けるのみ、です。各部門に素晴らしい作品が揃っているので、その魅力を少しでもこのブログで伝えていけたらと思います。

あ、ついでに言えば、これまた例年恒例の「真夏のプレッシャー・ダイエット」(業務のストレスに空腹をぶつけると互いに相殺されてそれぞれが気にならなくなるという、夢のマゾヒスティック・ダイエットのこと)も大成功し、スーツもするりと着られるし、よかったよかった。

以上、長文失礼しました! ブログを頻繁に更新しますので、しばらくよろしくお付き合い下さいませ!
《矢田部吉彦》

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