【MOVIEブログ】2016東京国際映画祭作品紹介 「コンペ」(西欧編)

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『パリ、ピガール広場』(c) LA RUMEUR FILME - HAUT ET COURT DISTRIBUTION
  • 『パリ、ピガール広場』(c) LA RUMEUR FILME - HAUT ET COURT DISTRIBUTION
  • 『7分間』(c)  Goldenart Production S.r.l. -  Manny Films - Ventura Film - 2016
  • 『ブルーム・オヴ・イエスタディ』 (c) 2016 Edith Held / DOR FILM-WEST, Four Minutes Filmproduktion
東京国際映画祭の上映作品のうち、僕が選定に関わった作品をブログで紹介していこうと思います。映画祭まであと20日あまり。何本紹介できるだろうか? どうぞよろしくお付き合い下さいませ!

まずは、コンペティション部門から行きます。今年も昨年に引き続き、16作品になりました。日本映画2本と、外国映画14本。一応の基準としたのは、(1)秋の新作であること、あるいは秋の世界の映画祭サーキットに乗る作品であること、つまりはプレミア度が高いこと、(2)監督の個性が際立っていること、(3)なるべく世界を幅広く網羅していること、の3点です。

(1)は、なかなか難しいところで、クオリィティーが高く、プレミア度も高い作品を揃えるのは容易なことではないのだけれど、映画祭のステイタスはここにかかっているといっても過言ではないので、常に目指すところです。(2)については、映画祭というのは多かれ少なかれ「作家主義」を標榜するもので、僕も基本的にその考え方を尊重しています。作り手の個性が作品に刻印されているかどうかを重視したい。監督のキャリアとしては、中堅以上の実力派監督を揃えることをまずは目指している一方で、今年はかなり個性的なバックグランドを持つ新人監督も数名入り、実に刺激的な面々が揃ったと思います。

そして、(3)については、16作品で世界を網羅することは不可能とはいえども、西欧、北欧、東欧、北米、南米、西アジア、東アジア、をカバーするように意識しました。映画を楽しむだけでなく、映画を通じていま世界がどうなっているのかを知ることも、とても重要なのではないかという思いを強くしています。特にいまは世界が激動しているので(そして日本はいささか閉じているので)、映画の役割はとても大きい。ただ、お勉強モードになると一気に映画はつまらなくなってしまうので、あくまで映画としての面白さが十分に保証された上で、社会性も帯びた作品を優先していくということは、ここ数年意識していることです。

とにかく、今年は予備選考の段階で多くの作品を見ていく中で、つくづく「移民」「難民」を扱う映画が増えたと痛感しました。扱う深さや程度は様々ですが、全く触れない欧米映画のほうが少ないのではないかと思ってしまうほどです。それはここ数年の傾向ではありましたが、本当に今年は増えた。それだけヨーロッパを中心に世界中で移民問題が深刻化しているということであり、その事態がストレートに映画にも反映されているということだと思います。

ということで、地域別に紹介していきます。まずは、西ヨーロッパから始めます。

フランス映画を絞るのは本当に悩んでしまう作業ですが、今年は『パリ、ピガール広場』(写真)という作品をコンペでお迎えします。限りなくワールド・プレミアに近い、インターナショナル・プレミア(本国以外で初上映)です。監督は、アフリカ系フランス人の新人コンビで、主演がアルジェリア系2世のレダ・カテブ。もういきなり前述の状況が全開ですが、これがまあ実に腰の据わった堂々たるドラマで、新人離れした演出に驚かされます。

あらすじはあまり紹介しませんが、全く書かないと興味を持ってもらえないこともあるので、んー、毎年悩むところです。僕なりにギリギリの線で紹介すると、刑務所を仮出所している男がいて、兄が経営するバーで働いている。あくまで仮出所の条件として仕事をしているので、男は乗り気でない。兄は仕事に身を入れない弟に苛立っており、ふたりの仲はぎくしゃくしている。そして男は、本来やりたい仕事である音楽クラブイベントをビジネスとして立ち上げようとするが…。

という感じかな。舞台は、パリのピガール広場。ピガール広場は、パリの歌舞伎町、なんて形容されることもありますが、確かに有名なムーラン・ルージュを中心としてパリ有数の歓楽街である一方で、若者が住みたがるクールなエリアというイメージも近年は根付いてきました。要は、様々な人々が交差する街であるわけですが、本作はそこで移民系のフランス人がいかに生き延びていくかを描く社会派のドラマです。そして、兄弟の関係を見つめていく人間ドラマでもあります。

この作品で特徴的なのは、ともかくカメラが対象に近いこと。そしてカメラが人物に近いのに、圧迫感がない。これはなかなか稀有なことで、例えばある時期のダルデンヌ兄弟は手持ちカメラが人物の後頭部に密着し、それが息苦しさを演出して心理サスペンスを盛り上げていたのですが、本作の場合は、カメラが寄り添う人物が本当に身近に感じられ、観客は圧迫感を覚えずに、あたかもその場に一緒にいるような気分になる。リアリズムの映画ですが、突き放すのではなく、血が通っている。

これは大した演出力だと舌を巻いたのですが、監督は本作が長編第一作となる新人コンビ。しかも、彼らの本職は今年結成20周年を迎えるラップ・グループのメンバーで、ともにラッパー。You Tubeでクリップを見ましたが、社会派のメッセージを訴える硬派のラッパーのようです。正直言って、ルックスはかなり怖い。

しかし、というべきか、だからというべきか、この「血の通い方」はなんなんだ、と驚かされます。ことさら音楽を主題として強調する内容ではないですが、やはり音楽の使い方は上手い。クラブのシーンも上手い。しかし何といっても、特徴的なカメラの距離と、雑多な街で何とか生き延びようともがく人間の心の描写のきめ細やかさは、到底新人のレベルではないです。一体どういうキャリアのラッパーなのだろう?

現在のフランスと移民系フランス人の置かれた状況が、昨年来世界を揺るがしていますが、本作は真っ向からその状況を描くものではないです。しかし、底には分厚いものが流れています。その分厚いところを是非感じ取ってもらいたいし、そこをあまり意識せずとも、ストレートな兄弟ドラマとして心を打たれることもできる。まったく、なんというデビュー作だ、と唸るはずです。

主演は、現在フランス映画で(のみならず国際的に)引っ張りダコのレダ・カテブ。一見強面なので、チンピラや悪役で台頭しましたが、最初に注目されたのはジャック・オーディアールの『預言者』あたりかな。ある時期から、強面を逆手に取った優しい役も演じて、そのギャップで観客を魅了しています。今回は強面寄りですが、彼の演技と存在感にも大いに注目してもらいたい。ちなみに、最新作はヴィム・ヴェンダース監督作品で、主演です。

共演に、これまた演技と存在感で見せるスリマヌ・ダジ。去年のコンペの『フル・コンタクト』にも印象的な役柄で出演していたので、見たら「ああこの人か」と思う人もいるかも。そして、さらにメラニー・ロラン。美しいです。ともかく、一見異色のフランス映画かもしれませんが、見方によっては現代フランスのメインストリームの作品と呼べるかもしれません。いや、そんなことより、フランス映画だという思いを一回リセットして、ぜひ「素」で臨み、濃厚なパリの夜の世界を堪能していただきたいです。

ああ、1本目からこんなに書いてしまった! こんなことでは絶対に紹介が映画祭に間に合わない! 以下、文章が短くても、文章量と推薦熱度は比例しないと思って下さい!

西ヨーロッパが続いて、イタリアです。『7分間』という作品で、監督が役者としても有名なベテラン、ミケーレ・プラチド。かなり強面の俳優で、役者としてはマフィアなどの怖い役が多いですが、コミカルな役柄もこなし、幅の広い俳優です。トルナトーレ監督の『題名のない子守歌』などは、たいそう怖い役でしたが、ロバート・デ・ニーロと共演した『昼下がり、ローマの恋』などは軽い役で楽しかったですね。

監督としては、本作が12本目。今回はギャングものでも、コメディーでもなく、ガチの社会派です。労働問題、移民問題であり、そしてタフな女性映画でもあります。いや、何よりも、本作は人間の尊厳を問う強烈なヒューマン・ドラマであります。

地元に根付いたイタリアの工場が経営危機に陥り、フランスの資本が経営参加しようとしている。女性が中心となる労働者たちは、工場が閉鎖され、職を失うのではないかと恐れつつ、経営者たちとの交渉の席に臨む。そして経営者サイドが提示してきた条件に、労働者たちは揺れる…。

とにかく内容は書きたくないので書かないけれど、実話をベースにした物語です。経営者サイドの提示した「条件」についてどう考えるか、女性たちのディスカッションが映画を引っ張っていきます。そしてこの11人の女性たちのキャスティングが実に素晴らしい。共通しているのは、女性であることと、仕事を失いたくないことくらいで、あとは年齢も人種も背景も性格も全く異なる人々が、いかに議論を交わしていくか、その様子がスリリングに、そしてリアルに描かれていきます。

最大の見どころは、やはり女優たちの演技と、議論展開の妙を練り込んだ脚本、そしてスピーディーな演出、でしょう。これまた現代性が色濃く反映されていて、女性たちの集団は、まるでいまのヨーロッパが抱える問題の縮図のようにも見えます。しかしここでも映画はあくまで娯楽性を第一義として失わず、スリリングな集団劇として存分に楽しむことができます。

労働者たちのリーダー格に、オッタヴィア・ピッコロ。1970年にカンヌ映画祭の主演女優賞を受賞しているベテラン女優ですが、近年は映画への出演は少なく、舞台を中心に活動しているようです。そのピッコロの佇まいに実に味があり、同僚たちの意見の調整に苦悩する彼女の表情を見ているだけで、映画の醍醐味が味わえるほどです。

共演のひとり、フィオレッラ・マンノイアは、イタリアで有名なベテラン歌手ですが、実は演技経験はほとんどない。しかし全くそうは見えず、堂々たる態度で映画の骨格を支えている。そしてミケーレ・プラチド監督自身ももちろん、監督の兄弟や娘さんも出演していて、これが実にうまく映画に溶け込んでいる。資本家役で出演するアンヌ・コンシニーは、フランス映画ファンにはお馴染みの女優さんですが、今回はいままでにあまり無かった役柄で、彼女の作品が好きな人はちょっとニヤリとするはずです。

それぞれのキャラクターに個性があり、役者の演技を堪能する幸せに包まれます。それは監督が俳優だからでしょうか。しかし、91分間にぎゅっとドラマを濃縮させる演出も、さすがのベテランの切れ味です。この作品もインターナショナル・プレミアです。

そして、西ヨーロッパの3本目は、ドイツからで『ブルーム・オヴ・イエスタディ』。ドイツ映画がコンペに入るのは2012年の『ハンナ・アーレント』以来なので、4年振りになるのですね。もっとコンスタントに入れたいのだけど、16本という枠は本当に多いようで少ない(それにしても、『ハンナ・アーレント』が受賞無しに終わったのはいまだに信じられない…)。

『4分間のピアニスト』(’06)が日本でもミニシアター系でスマッシュ・ヒットを記録したクリス・クラウス監督の新作で、こちらはワールド・プレミア。

ホロコーストの記憶を題材にしたイベントを企画する男が主人公で、しかし彼は性格の悪さが災いして担当を外されてしまう。納得のいかない男は、エキセントリックなフランス人女性のインターンと独自に準備を進めるが、ふたりは衝突してばかり。やがて、ふたりはホロコーストを生き延びた貴重な人物に会いにいくが…。

まずは、ホロコーストというヘビーなテーマを、恋愛映画のテイストを加えて描く絶妙なバランス感覚に、監督のセンスが感じられる作品です。『4分間のピアニスト』も、ナチの病院に勤務していたときの心の傷を抱えた老女の物語でしたが、荒々しい少女との出会いと美しいピアノの旋律が混じることで、映画を単なるナチのトラウマものから別次元のものへと昇華させていく優れた内容でした。

そもそもが凄惨な内容を、凄惨でないスタイルで伝えることが映画にとって最も難しいことのひとつですが、ホロコーストの凄惨な記憶に、エキセントリックな現代の恋沙汰を結び付けようとする発想が大胆で、優れた俳優の存在も相まって、その試みは見事に成功しています。『ハンナ・アーレント』もそうでしたが、ナチスによるホロコーストというあまりにも重い過去を、あらゆる角度、あらゆるスタイルでアプローチし、いまだに自国の映画として製作し続けるドイツ映画人の姿勢には、本当に襟を正される思いがします。

しかし、『パリ、ピガール広場』が移民問題である前に兄弟ドラマであるように、そして『7分間』が労働問題である前に感動のヒューマン・ドラマであるように、『ブルーム・オヴ・イエスタディ』もホロコースト映画である前に、恋愛映画です。変わった形の恋愛ですが。強烈な個性を持ったふたりの男女がいかにぶつかり合い、いかに前に進むか(あるいは進まないか)。他者(異性)と向き合うと同時に、自身のルーツにも向き合わねばならないふたりの旅に、観客も同行することになります。

主演のラース・アイディンガーは、テレビ、演劇、映画と幅広く活躍している俳優で、舞台ではシェイクスピア劇をはじめとする古典にも積極的に出演しています。今年のカンヌ映画祭を席巻した『Toni Erdmann』(’16)のマーレン・アーデ監督が、世界的に注目されるきっかけとなった『Everyone Else』(’09)に主演したあたりから映画界でも頭角を現してきました。以来、ピーター・グリーナウェイやオリヴィエ・アサイヤスから声がかかるなど、国際俳優として存在感を発揮しています。まさにいまは脂の乗った状態といえるでしょう。

共演は、アデル・エネル嬢で、これまたフランス映画ファンにはおなじみですね。僕は彼女がデビュー作『クロエの棲む夢』で2002年のフランス映画祭に来日したとき、同映画祭のスタッフをしていたので会っているはずなのだけれど、残念ながら記憶が薄れている…。

そんなことはともかく、早くから注目され、『水の中のつぼみ』(’07)やベルトラン・ボネロ監督の『メゾン ある娼館の記憶』(’12)でセザール賞にノミネートされ、現在はフランスきっての売れっ子女優のひとりです。子どもっぽくあどけない一面と、とても大人びて斜に構えたような一面、あるいはひたすら男女間でとっくみあいのケンカをするケッサク『Les Combattants』(これは結局公開されなかった?)のようなエキセントリックな面など、実に多彩な顔を持った女優です。今年はカンヌ映画祭のコンペに出たダルデンヌ兄弟の新作『The unknown girl』に出ずっぱりの主演にも起用されています。本作『ブルーム・オヴ・イエスタディ』でも、彼女のキャラクターが新鮮で惹き込まれます。

以上、西ヨーロッパの3本でした。自分で書いていてナンですが、本当に3本とも面白くて深いので、改めて興奮してきました。次は北欧と東欧に行きます!
《矢田部吉彦》

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