【MOVIEブログ】2017ベルリン映画祭 Day6

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14日、火曜日。バレンタインおめでとうございます! ということで、本日も7時起床であたふたと支度して外へ。今年のベルリンは本当に天気に恵まれて素晴らしい。朝の気温はマイナス7度。冷たく晴れた冬は大好きなので、とても気持ちがいい!

9時からの上映は、今回のベルリンで最も楽しみにしていたアキ・カウリスマキ監督新作の『The Other Side of Wind』(写真)。長編作品は2011年の『ル・アーヴルの靴磨き』以来だから、6年ぶりになるのか。結構待ったことになるけど、この希代の才能と同時代を生きられている幸運を天に感謝したい気持ち。いちフレームだけ切り取っても誰の作品か間違いなく分かる映画作家が、古今東西でどのくらいいるだろうか? 小津か、あるいはジャズのセロニアス・モンクのような存在だと思う。

新作も、純度100%のカウリスマキの世界。相変わらずのテンポ、人を食ったユーモア、スポットライトのような照明、ブルーを基調にした美術、フィルム撮影の質感、そしてたまらく魅力的な老人たちが奏でる「いなたい」ロック。もう冒頭から体中の細胞が痺れっぱなしになる。なんという至福!

疲れた中年男がレストラン経営を始めるエピソードに、シリアから逃れてフィンランドで難民申請をする青年の物語が絡んでいく構成。前者が旧来のカウリスマキの世界だとすれば、後者は『ル・アーヴル』の延長線上にあるカウリスマキの新境地の世界だ。両世界が見事に融合し、独自のファンタジーの中で現実社会が照らし出される。至福のカウリスマキ・ワールドであるのだけれど、根柢には怒りがある気がする。カウリスマキは怒っている。

受賞するかしないかはもはや問題ではなく、2月にして個人的本年ベストの最有力候補決定。ふうー。もうこれで帰国してもいいや、と高揚した気分をコーヒーで落ち着かせつつ、鑑賞メモを書いたりしているうちに次の上映が近づいてきたので列に並び、12時45分の上映へ。

コンペで『Beuys』というドイツのドキュメンタリー作品。現代美術家として著名なヨーゼフ・ボイスを巡る作品で、彫刻家であり教授であり活動家でもあった彼のひととなりを紹介していく内容。60年代からパフォーマンス・アートを含めて挑発的な作品を発表し、時代の寵児となっていく様子が描かれるので、十分に面白いはずなのだけど、フッテージ映像の処理や編集の演出が凝り過ぎていて、どうにも焦点が定まらない印象を受けてしまう。少なくとも、ボイス初心者にはハードルが高い作品になってしまったのではないか。

上映終わり、即座にマーケット会場に移動してミーティング開始。会場は人が少なくなってきたようで、マーケットは昨日がピークだったのかな。おかげで落ち着いた雰囲気の中で17時まで数社と会談。

17時15分に上映に戻り、「パノラマ部門」で『Ghost in the Mountains』という中国の作品へ。Yang Heng監督の4本目の長編で、僕はそのうちの(今作を含め)3本を見ているのだけど、もう少し情報を仕入れたいと思ってググってみたら、前作『Late August』について3年前に書いた自分のブログがヒットする始末。んー、まだ日本に紹介されていなかったか。書いたことすら忘れていた自分の文章を読み返してみると、見事に本作にもあてはまる。手抜きで引用すると、「ワンシーン・ワンショットで淡々と綴っていくテンポがとても心地いい。ゆっくりとした長いパンショットで、フレームの外の設定を取り込んでいく手法も効果的で、説明を排除したアンチドラマチックな展開にも全く飽きることがない」。

究極的にミニマルで、アート映画の極北のような作品だけれども、その美しさたるやただ事ではない。殺人事件を発端とする物語の全容を、2時間強をかけてゆっくりと、それはもう本当にゆっくりと、長廻しの中で静かに語ってゆく。幽玄たる世界とリアリズムが同居する。あえて比べるならばツァイ・ミンリャンが浮かぶけれども、「あちら側」に行ってしまったツァイ・ミンリャンより、いまなら僕はYang Hengを推したい(両者の比較論は刺激的なものになる気がする)。

上映後に登壇した監督は、独自の美学で貫かれたスタイルについて尋ねられ、曰く「私は中国の絵画に強く影響を受けています。そこでは空間が大きな要素を占めています。私の映画における『空間』は重要な登場人物のひとりなのです」。場内から拍手。Yang Heng監督、そろそろ日本で紹介しなければいけないのではないか?

またまた興奮を沈めつつ、朝から何も食べていないことを思い出し、20時半にモールの簡易アジアンでグリーン・カレーを食べてみたら、なかなか悪くない。奥歯の違和感は続いているけれど、昨日のような激しい痛みはなく、一応かめることはかめるので、少し安心。

続いて22時から、コンペ部門だけど賞の対象にはならない「アウト・オブ・コンペティション」扱いの『The Midwife』というフランス映画へ。最近では『ヴィオレット‐ある作家の肖像‐』が日本でも公開されたマルタン・プロヴォ監督の新作。主演はカトリーヌ・フロ、共演(というかダブル主演)にカトリーヌ・ドヌーヴ。プロの助産婦(フロ)が、30年振りに父の愛人(ドヌーヴ)に再会し、過去の確執を乗り越えていく人間ドラマ。プロヴォ監督がさすがの職人技を発揮し、完成度の高い大人の商業映画に仕立て上げていて、満足。こういう作品が普通に日本で公開されるといいのだけどなあ…。

上映後に監督とキャストが登壇。久しぶりに生ドヌーヴ様の元気なお姿を拝し、彼女がいまだに最前線で活躍していることは映画の奇跡だと改めて心から感嘆しつつ、果たしてドヌーヴは『ラ・ラ・ランド』を見たのだろうか、見たとしたら何としても感想が聞きたいなあ、などとつらつら考えながら帰路へ。

カウリスマキからYang Hengを経てのドヌーヴ。何という一日だろうと振り返りながら、ワインをすすりながら(ごめんなさい)ブログを書いて、2時を回りました。ダウンです。
《矢田部吉彦》

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