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【MOVIEブログ】2017ベルリン映画祭 Day8

16日、木曜日。7時起床でルーティンをこなして外へ。またもや晴天の朝。気温はぐっと和らいで、8度くらいありそう。

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Kim Jinyoung (c) 2017 Jeonwonsa Film Co. "On the Beach at Night Alone"
16日、木曜日。7時起床でルーティンをこなして外へ。またもや晴天の朝。気温はぐっと和らいで、8度くらいありそう。

9時からコンペ部門のプレス試写で、ホン・サンス監督新作『On the Beach at Night Alone』からスタート。ホン・サンスの多作ぶりには毎度感嘆させられるけど、早々に独自のスタイルを確立し、それを再生産し続けてもクオリティーが落ちないのは一体どういうわけか。飽きのこないマジックを今回も堪能。

日本公開は確実だろうから内容の記述は控えるけれど、訳ありの女性がドイツ在住の友人を訪ねる第一部と、彼女が韓国に帰ってからの日々を描く第2部に分かれた構成。確かにいつものホン・サンスなのだけど、いつもの鑑賞後のニヤリとする感覚に加えて、今作ではヒロインの内省に近くで寄り添っているからか、余韻の残り方が深い。謎めいた描写も多く、深読みを誘う。ここ数作の中で僕は一番好きかもしれない。

主演のキム・ミニが素晴らしい。ホン・サンス特有の長廻しのシーンで、実にチャーミングな表情から、内面の闇を吐露する姿まで、様々な顔を瞬時に出し入れする技量に見惚れてしまう。どうやら今年のコンペは主演女優賞が激戦になりそうで、『Felicite』と『A Fantastic Woman』のそれぞれの女優さんと、キム・ミニ嬢の三つ巴の争いになるのではないかな?

そして、あまり知らなかったのだけれど、巷ではホン・サンスとキム・ミニ嬢のゴシップも話題になっているらしく、なんと本作は確実に火に油を注ぐ内容になっているので、その確信犯(?)ぶりたるや、人を食ったホンス・サンスの面目躍如たる作品なのかもしれない。んー、色々と考えていると頭がごちゃごちゃになってくる。とにかく、面白いです。はい。

続いて12時から、同じくコンペでブラジルのマルセロ・ゴメス監督新作『Joaquim』へ。18世紀のブラジルでポルトガルからの独立運動の先駆けとなり、後に処刑され、現代では国民的英雄となっているチラデンテス(これは通称で、本名はJoaquim Jose de Silva Xavier)が、運動に目覚めるようになるまでの前半生を描く作品。

もっとも、上記は鑑賞後に調べて知ったことで、事前に何の情報も仕入れずに見てしまった者としては、いまひとつ乗れない仕上がりになっていて残念。プロダクションのクオリティーも高いのに、どうして面白くないのかなと自問しながら見ていたのだけど、なるほど人物について事前に知っていたら事情は変わっていたかもしれない。内容について事前知識が無いことが映画を楽しむ最善の策だと信じているけれど、たまにはこういうこともある。

しかし、人物の背景について字幕なりの情報提供がないということは、本作の狙いは伝記映画ではないとも解釈できるわけで、そこで人物に対する知識が無ければ楽しめない結果になっているとしたら、それは映画としては失敗していると判断していいのかもしれない。んー、これは何とも難しいところだ…。

つらつらと思考を巡らせながら、マーケット会場に移動する。ベルリン映画祭に併設の映画マーケットであるEuropean Film Market(通称EFM)は本日が最終日で、もはや会場はほぼ無人。最後のミーティングを3件。

懇意にしているトルコの映画関係者に会い、4月のイスタンブール映画祭に参加しようか迷っているんですと伝えると、「4月は、大統領に権限を集中させる憲法改正の賛否を問う国民投票が実施されるので、国がカオス状態に陥っているかもしれず、あなたの身の上が心配です。避けたほうがいい」と真顔で言われ、軽く考えていた自分にショックを受ける。

トルコの情勢と国民投票のことは知っていたはずなのに、どこかで感覚が緩んでいた。日本にいながら極めて不穏ないまの世界情勢を頭では分かっていても、やっぱり皮膚感覚では分かっていないのだ。投票日直前に決行されるイスタンブール映画祭の無事を祈らないではいられない。映画祭と政治は決して無縁ではいられず、映画祭関係者の心中を察すると胸が苦しくなり、そして自分の呑気さを戒める…。

17時45分に上映に戻り、「特別上映部門」で『Devil’s Freedom』というメキシコのドキュメンタリーへ。過去数年のメキシコでは、ドラッグ戦争で数十万人が死んだとされており、その被害者と加害者のインタビューで構成される。身元が分からないように証言者全員がマスクを被っている様に現在進行形の事態の恐ろしさが伝わってくる。しかし、内容は極めて重要なのだけれど、映画としての出来はまた別であるところが難しいところで、僕は演出に違和感を覚えてしまう。「作品の内容は作品の出来を正当化するか」という古くて新しい問いがここにある…。

19時半から、「パノラマ部門」で『Honeygier Among the Dogs』というブータンの作品へ。ブータンに映画産業と呼べるものはほとんど無いはずなので、とても貴重な1本だ。釜山映画祭や香港映画祭が支援元としてクレジットされており、自国だけでなく、辺境を含めたアジア全体の映画を支援していこうとする映画祭の役割の重要性が際立つ。ここはトーキョーの今後の大きな宿題。

映画自体は、山間の村で起きた事件を捜査する真面目な警察官と、謎めいた美人容疑者女性との関係を巡るとてもまっとうなドラマで、前半は素晴らしく、後半は少し失速。132分はいかにも長過ぎたか…。でも、林家たい平師匠に似ているハンサム警官と、橋本愛似の美人ヒロインの絡みが個人的にとても楽しい!

21時50分終映で、ただちに会場を移動して22時から「フォーラム部門」の『Crossing the Seventh Gate』というモロッコのドキュメンタリーへ。 Ahmed Bouanani(1938-2011) というモロッコの映画人の活動を振り返る内容で、とても刺激的。あらゆる国にあらゆる映画史が存在する。そのすべてを知りたいし、それが不可能だとは分かっているからこそ、このような作品との出会いはとても嬉しい。

上映は23時20分に終わり、珍しく0時前にホテルに帰還。ゆっくりブログが書けると思いきや、どうも随所に重い内容になってしまい、こねくり回していたら2時になってしまった。変なこと書いてないといいなと思いつつ、そろそろ寝ます。
《矢田部吉彦》

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