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【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭予習(3/5)

【ある視点】

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【ある視点】

カンヌの「公式部門」で「コンペティション」に次ぐ第2コンペ的存在なのが「ある視点」部門です。本来コンペに入っても不思議でない実績と実力のある監督たちと、新人監督たちが競演する部門で、ここもまた豪華で刺激的な作品が並びます。

マチュー・アマルリック監督(仏)『Barbara』
ローラン・カンテ監督(仏)『L’atelier』
セルジオ・カステリット監督(伊)『Fortunata』
ミシェル・フランコ監督(メキシコ)『April’s Daughter』
モハマド・ラスロフ監督(イラン)『Dregs』
黒沢清監督(日本)『散歩する侵略者』
カウテール・ベン・ハニア監督(チュニジア)『Beauty and the Dogs』
ヴァレスカ・グリーゼバッハ監督(独)『Western』
ステファン・コマンダレフ監督(ブルガリア)『Directions』
サンティアゴ・ミトレ監督(アルゼンチン)『The Summit』
テイラー・シェリダン監督(米)『Wind River』
リー・ルイジン監督(中国)『Walking Past the Future』
セシリア・アタン監督&ヴァレリア・ピヴァト監督(アルゼンチン)『The Desert Bride』
カンテミール・バラゴフ監督(ロシア)『Closeness』
ジョルジ・クリストフ監督(スロバキア)『Out』
カリム・ムサウイ監督(アルジェリア)『The Nature of Time』
レオノール・セライユ監督(仏)『Jeune Femme』
アナリタ・ザンブラーノ監督(伊)『After the War』

コンペのときは一気に順不同で紹介してしまったので、「ある視点」では実績や知名度のある監督と、数本撮っている期待の若手、そして1本目の新人、に分けて紹介してみます。

<実績・知名度がある監督>
まずはマチュー・アマルリック監督新作『Barbara』(写真)で「ある視点」は開幕します。2013年に東京国際映画祭に来日してくれたときも、とにかく「やりたいのは監督業であって、俳優業はそのための資金集めも含む準備」なのだと何度も発言していたマチュー。『青の寝室(Blue Room)』(2014)以来3年振りの監督作が完成して本当によかったです。

フランスの国民的歌手であったバルバラの役を舞台で演じることになる女優と、その演出家の男性の物語。バルバラがふたりに憑依していく様がどのように描かれるのか、見てのお楽しみですね。主演はジャンヌ・バリバールとマチュー自身。ふたりがかつてパートナーどうしであったのは周知の事実で、作品からは幾層にも重なる意味合いがこぼれてきそうです。今年のカンヌで最も期待がつのる1本です。

同じフランス勢、『パリ20区、僕たちのクラス』で2008年のパルムドール(最高賞)を受賞したローラン・カンテ監督は、今年は「ある視点」で参加です。僕は『パリ20区』はもちろん、労働問題を扱ったドラマ『ヒューマンリソース』(1999)や『タイムアウト』(2001)にも感銘を受けていたのですが、近年は少しご無沙汰してしまった気がしてます。新作『L’atelier』は、犯罪小説を書くべく執筆ワークショップに参加した青年が社会情勢と呼応するかのように荒れていく様子を描く内容であるらしく、ドラマ性と現在性の融合に冴えを見せるカンテ監督の力量に期待したいところです。

イタリアの人気俳優セルジオ・カステリットの6本目の監督作となるのが『Fortunata』。僕は俳優としてのカステリットは大好きだけれども、監督としてはいままでの作品がいささか大味に感じられてしまい、きちんと評価できていないだけに新作は楽しみです。美容院開業を目指すシングルマザーの奮闘記、なのかな? 主演にジャスミン・トリンカ。

メキシコのミシェル・フランコ監督はもはや説明不要かもしれません。姉弟がセックスを強いられる衝撃的な『Daniel & Ana』(2009)以来カンヌの常連となり、いじめを描いた『父の秘密』(2012)で「ある視点」部門賞、そして介護士を主人公とした『或る終焉』(2015)はコンペで脚本賞を受賞し、日本での公開も実現しました。

毎回題材の選び方に強烈さがありますが、新作『April’s Daughter』は、妊娠した17歳の少女と母親の物語、としか分かりません。果たして、どれだけフランコ印のインパクトを与えてくるのか、覚悟して臨みたいです。怖いものみたさで見る前にゾワゾワするという意味では、ルーベン・オストルンドと共通しますね。

モハマド・ラスロフ監督はイランでもっとも重要な監督のひとりで、検閲に抵触して逮捕され、国内での作品の上映はほとんど叶わない中、監督を続けて国際映画祭で評価を得ています。同じく軟禁状態にあるパナヒ監督とは共同で製作していた作品の最中にともに逮捕され、同志であると言っていいのでしょう。

ラスロフ監督は『Goodbye』(2011)がカンヌ「ある視点」部門の監督賞受賞、『Manuscripts don’t burn』(2013)も「ある視点」部門に出品されて国際批評家連盟賞を受賞しています。後者はテロ行為の顛末を描いた強度の高い衝撃作でした。新作『Dregs』の内容は分からないのですが、心して臨むべき作品であることは疑う余地もありません。

そして我らが黒沢清監督、一昨年の『岸辺の旅』に引き続き、新作『散歩する侵略者』が「ある視点」部門に出品です。僕は未見なので何も内容については分からないのですが(というか、あえて情報を入れないようにしている)、主演は長澤まさみさん、松田龍平さん、長谷川博己さん。フランスの観客は黒沢監督が大好きなので、観客と一緒に見るのが楽しみです。

<2~3本目の期待の若手監督>
カウテール・ベン・ハニア監督はチュニジア出身の女性で、日本ではアンスティチュ・フランセでデビュー作の『チュニスの切り裂き魔』(2013)が上映されていますね。新作『Beauty and the Dogs』が3本目の長編のようです。若いチュニジア人の女性が自らの権利と尊厳を賭けた一夜を過ごすことになる…。社会派なのかスリラーなのか、確かなところは分からないところが興味をそそります。

ヴァレスカ・グリーゼバッハはドイツの女性監督で、長編3本目となる今回の『Western』が初カンヌです。1本目『Mein Stern』(2001)がトロントで批評家連盟賞を受賞して注目され、2作目の『Longing』(2006)はベルリン映画祭のコンペに入り、その後世界中の映画祭を回っています。『Longing』は結婚に満足している男がウェイトレスに恋してしまう話だったはずで、僕は見ているはずなのだけど記憶がもはや曖昧になってしまった…。

なので、今回グリーゼバッハを「再発見」しないといけないのだけど、新作はブルガリアの辺境地の建設現場で地元と折り合うのに苦労するドイツ労働者たちの姿を描くとのことで、ひょっとしてEUの危機的な状況に対する目配せがあるのかしらと、期待が高まります。

ブルガリアのステファン・コマンタレフ監督は、2本目の作品『さあ帰ろう、ペダルをこいで』(2008)が日本公開されていて、新作『Directions』が長編フィクション監督作としては4本目になります。現在のブルガリアを舞台にしたロードムービーとのことで「ブルガリアは楽観的である。なぜなら現実主義者や悲観主義者はみんな去ってしまったから」とのリード文が泣かせます…。

アルゼンチンのサンティアゴ・ミトレ監督は、前作『Paulina』(2015)がカンヌの「批評家週間」の作品賞を受賞していて、新作『The Summit』がステップアップして「ある視点」入りを果たしています。しかし僕は『Paulina』が全く性に合わず、当時のブログを読み返してみたらかなりうんざりしたコメントが書いてあって冷や汗ものなのですが、果たして今回はどうか。重要な国際会議に臨むアルゼンチンの大統領の姿を描く内容であるとのことで、辺境の地でレイプ被害に合う女性を題材にした前作とはかなり雰囲気が違う様子です。

アメリカのテイラー・シェリダンは俳優としてキャリアをスタートさせていますが、いまや脚本家としてのほうが有名かもしれません。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるド迫力の麻薬戦争映画『ボーダーライン』(2015)の脚本を手掛け、翌年の『最後の追跡』(2016)ではアカデミー脚本賞にノミネートされています。そのテイラー・シェリダンの2本目の監督作が今回の『Wind River』で、もちろん自らの脚本です。

ワイオミングのネイティブアメリカン居住地で女性の死体が発見され、事件に派遣されるのが若手の未熟なFBI捜査官で、彼女の捜査を追跡のプロが手伝う…。これだけで興奮しますね。いまにも大自然が眼前に広がるようです。主演にエリザベス・オルセン。本作は必見中の必見ではないか?

中国から2年振りのカンヌ参加となる『Walking Past the Future』のリー・ルイジン監督は、2014年の東京国際映画祭のコンペ部門に『遥かなる家』という作品で参加してくれた監督です(写真/右が監督、左で愉快に笑っているのはプロデューサーのファン・リーさん)。同作が3本目の監督作で、残念ながら受賞は逃したものの、僕は中国の新たな才能に間違いないと考えていました。同じように感じた配給会社の方がいらっしゃって、その後作品は『僕たちの家に帰ろう』というタイトルに変えて日本で劇場公開を果たしました。そのルイジン監督の新作がカンヌの「ある視点」に入るとは、本当に興奮します。

考えてみれば、『僕たちの家に帰ろう(遥かなる家)』が受賞を逃した14年の東京のコンペでグランプリを受賞したのが『神さまなんかくそくらえ』のサフディー兄弟で、彼らは既述のとおり今年のカンヌのコンペに新作が入っています。もはや他人事ではないというか、彼らの飛躍を心から祝福しているのですが、それ以上に僕らが励みをもらって興奮しまくっている状態です。

それはともかくとして、昨年のカンヌは中国映画が1本も入らなかったので、新たな才能が中国から現れたことは客観的に見ても興奮すべきことだと思います。大バジェットをかけた商業映画が席巻する中国映画界で、検閲をクリアしながらクリエイティブな創作活動をすることは難しくなっています。そこを突破しようとしているリー・ルイジン監督に、世界中が注目することを願ってやみません。

<1本目の新人監督>
セシリア・アタン監督とヴァレリア・ピヴァト監督はアルゼンチンのコンビで、この作品『The Desert Bride』が第1作目。54歳の家政婦の女性が長年勤めたブエノスアイレスを離れ、遠く離れた地に旅をして新しい人生を発見していく内容とのことで、アルゼンチンの荒涼とした砂漠が広がる映像が浮かんできます。アルゼンチンからの新人は少し久しぶりな気がするので、これはかなり楽しみにしたいです。

ロシアのカンテミール・バラゴフ監督も『Closeness』がデビュー長編。監督は91年生まれなので、25~26歳ですね。若い。カンテミールという名前は男性かな? ほかに情報がないので、これはまさに発見系になるでしょう。

スロバキアのジョルジ・クリストフ監督は本作『Out』が長編1本目。失業した50代の男が職探しの旅の過程で人生哲学が変わり、海で大魚を釣ることを夢見るようになる…、という物語とのこと。リアリズムなのか、ファンタジー仕立てなのか、まったく想像つかないところに期待が煽られますね。

アルジェリアのカリム・ムサウイ監督も今作『The Nature of Time』が長編初監督作です。現在のアルジェリアを舞台にした3人の人物による3つの物語で構成されているヒューマンドラマとのことで、はたして現代アラブ社会の魂の在り方にどこまで迫っているのか、見届けたい。

レオノール・セライユ監督はフランスの新人監督で、出品作『Jeune Femme』が1作目。壊れた心を抱えてパリで奮闘する地方出身の女性の姿を描くもの、とのこと。フランス映画のほとんどがカンヌを目指して作られていると言っても過言ではない状況の中で、フランス映画で1作目が「ある視点」に入ってくるのは至難の業のはずです。つまりカンヌ選考において一番競争が激しいのがフランス映画であり、カンヌにはフランス映画が多いと腐すのは全くの間違いで、フランス映画だからこそ見るべきだと思います。

イタリアのアナリタ・ザンブラーノ監督も本作『After the War』が長編デビュー作。2013年の短編『Ophelia』がカンヌの短編コンペにノミネートされていて、やはり短編時代に縁を作っておくことが長編デビュー時にカンヌに絡む近道なのでしょう。

2002年のボローニャで労働法の拒絶が学生運動に発展し、判事が殺される事件が起きる。その事件の首謀者と見られたのが、政治亡命者としてフランスに滞在している旧活動家の男で、イタリアは彼の引き渡しをフランスに要求する…。かなり骨太の政治ドラマと思われ、新人監督がどのように料理しているのか、お手並み拝見です。

以上、「ある視点」は18本。1本たりとも無視できないですね。実績ある監督の現在を見つめるとともに、近い将来必ずコンペに名を連ねてくるであろう新人たちを発見して興奮する場が「ある視点」です。ある意味コンペ以上に重要かもしれないです。いったい何本見られるだろうか…。がんばりましょう。

次回は「監督週間」をチェックします!
《矢田部吉彦》

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