【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭 Day2

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<5月18日>

18日、木曜日。6時半起床で15分パソコンをいじってからホテルの食堂に行ってみると昨年よりもグレードアップしている! いままでなかったハムや卵を頂いて、7時半に意気揚々と出発。本日の天気は曇りで、昨日よりはぐっと涼しいみたいだ。

毎年微妙に入場システムが変わるのと、今年はセキュリティーチェックが厳しくなって時間がかかることから、少し早めに会場に到着してみると、8時半からの上映が既に開場している。なるほど。それでも悪くないポジションの席が確保できたので、1時間前到着で十分かな。

メイン会場のコンペの上映にはチケットが必要で、事前に申し込むシステムが2年前から導入されている。チケットが取れたかどうかが上映の48時間くらい前にメールで知らされるのだけど、普通に抽選なのか、別の基準があるのかは全く不明。2年前はなかなか当たらず、逆に昨年はほとんど見られたのだけど、今年はいまのところ勝率6割くらいの感じ。んー、微妙だ。

とにかく今朝は取れているので、コンペの実質1本目となるトッド・ヘインズ監督新作『Wonderstruck』(写真)の鑑賞からスタート。いきなり個人的大本命だ! そしてその期待を全く裏切らない圧巻の出来栄えであった。20年代と70年代のNYで起きる2つのストーリーが平行して描かれ、前者は少女、後者は少年が主人公。ともに聴覚障害を持ち、それぞれの家族の問題を解決すべく故郷からNYへ向かう…。

実にたくさんの見どころがあるのだけれど、ふたつの時代のNYの姿が美しすぎて目眩がしそうになる。日本公開は確実なので書かないけれども、そのほかのキーとなる舞台の映像にも僕は完全に飲み込まれてしまい、我を完全に忘れてしまった。

トッド・ヘインズは過去作の異人種間恋愛や、同性愛、そして今回の聴覚障害者といった社会的マイノリティーが困難を克服する(とは限らないが立ち向かう)広義のメロドラマを濃密な映像美で流麗に語り、映画史を尊重しながら極めて現代的な視座を備えた作家だ。本作を見ただけでもう帰国してもいいな、と僕は半ば本気で思った。

完璧だな、今年ベストだな、と興奮しながら外に出ると、どうやら周囲の反応は僕ほど熱狂的ではないようだ。そこで少し冷静になってみると、確かに賛否の「否」の人の言い分も理解できる気がする。それはまだ書かないでおくとして、僕のトッド・ヘインズ愛は高まるばかり。

続けて12時からの上映に並び、これまた開場が早くて11時15分には良い席を確保。開演を待ちながらゆっくり座ってメールの返信をしたり作品のメモが書けたりするので、こういう時間はとてもありがたい。

見たのはコンペ部門で、アレクセイ・ズビャギンツェフ監督新作の『Loveless』。先日アップした「カンヌ映画祭予習ブログ」で、僕は「毎回静かなトーンで心を揺さぶるドラマを作り上げるズビャギンツェフ監督」と書いたけれども、まさにその通りの残酷な美しさに満ちた作品だった。

憎み合う夫婦と、ないがしろにされてしまう息子の物語。ぶつかり合う夫婦のエゴの描写が容赦ない。見ていて苦しいのだけれど、それはおそらく他人事ではないからだ…。物語はとてもシンプルながら、ディテールをしっかりと描き込むのでドラマのリアリティーが半端ではない。そして、凍った湖とそこに倒れるように被さる周りの木々をとらえた冒頭のショットに代表されるような、何よりも雄弁な風景ショットの積み重ねが言葉を失う人びととコントラストをなして映画を形作っていく。

ちなみに先の「カンヌ映画祭予習ブログ」には「なんとなくパルムドールを狙えるポジションにもいるような気がする」とも書いているのだけど、これまたあながち的外れでないかもしれない…。

朝から大ヒットの連続でボーっとしてしまう。本日はミーティングを入れておらず、少し時間があるので簡易中華屋さんで簡易ランチを頂くことにする。取り放題スタイルで重宝していた店なのだけど、2年前からシステムが変わってしまい昨年は悲しい思いをしていて、ひょっとして戻ってないかしらんと期待して行ったらやはり取り放題はなかった。もう行くことはないかな…。

少しスーパーで買い物をしてホテルに戻ってから、16時に劇場に行き、映画祭に出品されていないフランス映画の新作をマーケット試写で鑑賞。序盤は乗れなかったのが中盤からぐいぐいと良くなる作品で、ラストは実に巧みで感動的。これはなかなかの収穫。

次が問題で、「ある視点」部門オープニングのマチュー・アマルリック監督作と、「監督週間」部門オープニングのクレール・ドゥニ監督作の時間が完全にかぶっている。どちらかを選ばなければならない…。僕にとっては空気と水とどちらか選べと言われているようなもので、とてもそんな選択はできるはずもない…。

散々悩んでシミュレーションも繰り返した末、選んだのはアマルリック監督『Barbara』。ドゥニ監督は会期中に必ず別上映でキャッチアップするつもり。

後から聞いたところによるとドゥニ作品もかなり良かったらしいのだけど、『Barbara』も実に刺激的な出来栄えであった。マチュー自身が扮する映画監督がフランスの国民的歌手であるバルバラに関する映画を作っており、バルバラを演じる女優役にジャンヌ・バリバール。

映画の地の部分と映画内映画の部分、そこに実際のバルバラの記録映像も絡み、重層的で実験的な様相も呈する緻密な作品だ。なんといってもジャンヌ・バリバールが素晴らしく、時おり本物のバルバラと区別がつかなくなる。単に似ているというレベルではなく、伝説的存在を演じる女優を演じる女優のバリバールからは演技者の神髄が溢れ出るようで、神々しささや凄みが伝わってくる。マチューも会心ではなかろうか?

上映終わると、「ある視点」部門の審査員のひとりであるレタ・カデブさんがロビーに出てきたので、「去年は東京に来て下さってありがとうございました」と挨拶。「素晴らしい思い出になってます」とのお答えで、固い握手。とても嬉しい。

そして22時から同じく「ある視点」部門でドイツ映画の『Western』。ドイツの労働者がブルガリアの掘削現場で現地の村人との間に起こしてしまう摩擦を描くドラマで、現代的なテーマと淡々としたタッチに好感は持てるものの、いかんせん長過ぎた。残念。

ホテルに戻って0時半。強力な作品が続いた一日だったので簡潔に感想がまとまらないブログをこねくり回して、2時から日本のラジオ番組に電話で生出演してカンヌのレポートを10分ほど話し、それを終えてようやくビールを一口飲んで(失礼)ブログの続きを書き、そういえば今日は『無限の住人』の三池崇史監督と木村拓哉さんと杉咲花さんの記者会見が華やかに行われたのにまるでそんなことに言及できない自分の行動を、番組リスナーとブログを読んでくれているかもしれない人に心の中でお詫びしつつ、そろそろ3時。ダウンです。
《矢田部吉彦》

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