【MOVIEブログ】映画祭本番に向けて「モグラ脱出記」

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【MOVIEブログ】映画祭本番に向けて「モグラ脱出記」
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地中深く潜ったモグラ生活がついに終わりました。今年も長かった! 本日(9月26日)記者会見を行い(写真はラインアップ説明中)、これから積極的に外に出るべく切り替えて行きます。ということで、ブログも再開します。映画祭本番までどうぞよろしくお願いします!

今更ではありますが、初めて読んで下さっている方もいらっしゃるかもしれないと期待して書きますと、僕の仕事は東京国際映画祭の「コンペティション」部門、「日本映画スプラッシュ」部門、「ワールドフォーカス」部門(の欧米作品)、及びその他いくつかの部門の上映作品を選定することで、夏の間はひたすら応募作品を見て、見て、見まくって、遊びに行かず、社交もせず、時間がある限りひたすら家か職場で映画を見る日々を約3か月送り続けます。

これをモグラ生活と呼んでいるのですが、まあ映画祭の作品選定には別のやり方もあるのだろうとは思っています。しかしどうやら僕にはこのやり方しかできなくて、納得行くまでとことん見るという姿勢でかれこれ10年ほど過ごしてきています。

最後に書いたブログがカンヌ映画祭出張ブログなので、それからの動きをちょっとふり返ってみたいと思います。

まず、カンヌから帰国したのが5月30日。翌週の6月5日にロシア関連イベントでアンドレイ・コンチャロフスキ監督が来日して『パラダイス』が特別上映されたので、その司会を担当したのでした。上映会は大盛況でトークも盛り上がり、成功のイベントでありましたが、もう遥か昔の気がする…。

6月中旬からフランス映画祭モードになってきて、試写に行ったりパーティーに出席したりしつつ、6月22日と23日はフランス映画祭に合わせて来日したセールス会社の人々とミーティング。23日にはフランス映画祭が始まり、いきなり超緊張物件で、『エル ELLE』のポール・ヴァーホーヴェン監督とイザベル・ユペールとのQ&A司会。

手帳を見ながらここまで書いて、あれ? 本当にやったんだっけ? と自信が無くなっていることに気づいて焦る。全く記憶から飛んでいる! ウソみたいだけど、ネットで検索して自分が司会で写っている写真を見つけて、ようやく本当のことだと確信できると、徐々にQ&A当時のことを思い出してきた…。夏の業務にあまりに没頭していたので、なんだか宇宙人に拉致されて過去の記憶を消されてしまったみたいな感じ。ポール・ヴァーホーヴェンとイザベル・ユペールの記憶を無くすとは…。

翌日の24日は、『夜明けの祈り』のアンヌ・フォンテーヌ監督とのQ&A司会。これはよく覚えています(と書くのもおかしいけど)。アンヌ・フォンテーヌ監督とは一昨年アップルストアで1時間トークをしたから、監督も僕のことを覚えていてくれて、こういう場合はとてもやりやすくていいですね。そして25日は昼に『エタニティ』のトラン・アン・ユン監督のQ&A司会、午後は銀座アップルストアでトラン・アン・ユン監督と橋口亮輔監督の対談の司会、夜は『チェイサー』の上映後にアラン・ドロンを語るトークショーに出席、という週末でした。

7月に入ると、東京国際映画祭の予備選考業務もいよいよ本格化。モグラと化して地中深く潜ることになります。7月1日(土)の手帳を見ると、すでに5時半に起床していたらしいので、そこから23時までノンストップで映画を見る生活がスタートしています。

平日は基本的に職場に出勤しているので、日中は会議も多いしあまり見ることは出来ませんが、朝や夜に見る。あと平日に1日だけノー会議デーを自ら設けて、ひたすら見る日に充てたりしています。検討対象作品数が千本近くあるため、チームを組んでなるべく効率よく見て行こうとしてはいるのですが、なんせ相手は千本。どの選定スタッフにどの作品を見てもらうのか、というオペレーションだけでも大仕事になります。

7月5日は昨年の東京国際映画祭で最も好評だった作品の1本『ダイ・ビューティフル』のプロデューサーであるペルシさんが来日したので、試写会でペルシさんとトーク。なんと、『ダイ・ビューティフル』のスピンオフ作品が製作中とのことで、これは大興奮。TVシリーズらしいのですが、来年の映画祭で一挙上映したいなあ。

7月18日から、映画祭前の最後の出張へ。夜、職場から直接空港に向かいパリに4日間、ローマに3日間に滞在し、フランスとイタリアの映画機関でひたすらフランス映画とイタリア映画を見まくりました。土日を挟みましたが、当然一歩も外に出ず宿にこもってパソコンで応募作品を見続ける…。

イタリア出張で印象的だったのが、ナポリを舞台にした作品がとても多かったことです。ナポリは風光明媚な南の街ですが、カモラ(マフィア)の本拠地として悪名も高まってしまった場所でもあります。そしてその状況を背景に用いた映画の多いこと! イタリアの映画機関の人ですら、ナポリ映画多いな! と驚いていたくらい。今年のコンペに選ぶことになった『ナポリ、輝きの陰で』も、そんなナポリを背景にした映画です。マフィア映画ではないですが、やはりナポリの陰を描いています。ここについては、作品紹介ブログで詳述する予定です。

7月28日早朝に帰国し、そのまま空港から出勤。同僚と溜まった情報を交換し、18時から重要な日本映画の試写へ。絶対に眠くなってはならないので、強めのドリンク剤を飲んだはず。ドリンク剤なんて5年に1本くらいしか飲まないから、いざという時に効きますね。無事に覚醒して作品をきちんと見て、家の近所の銭湯行ってから、早々にダウンしたのじゃなかったかな。

8月に入ると、さらに本格的に予備選考に入り込んでいきますが、7月と違うのは焦り始めること。これは何年やっても絶対に慣れないですね。残された時間が限られているという事実に直面し始め、そしてまだ見なければならない作品の多さに絶望し(いや、その中に良い作品があるはずだという希望が同居)、つねに時間に追い立てられるようになります。

しょっちゅう書いていることだけれど、この仕事は映画と向き合う仕事であることはもちろんですが、戦う相手は映画ではなくて時間だったりします。100分の映画を見るには100分かかるというこの動かしがたい事実を前に、こちらが出来ることといったら睡眠時間を削るくらいしかありません。

遠くで聞こえる花火や祭り太鼓に耳を澄ますことが唯一の夏らしい体験ですが、それでも夏が続いている限りはいいです。お盆が明け、甲子園が終わると、完全に「テンパって」いる状態に陥っていきます。

8月最終週から9月第1週が本当に最後の勝負。今年は日本映画に優れた作品が多く、本当に絞り切れず、各方面を拝み倒して作品決定の締め切りを伸ばしてもらい、議論に議論を重ねてきました。今年ほど「日本映画スプラッシュ」の選定で苦労した記憶はないと思います。それほど、優れた作品が多かった…。

自分たちの選択が正しかったかどうかは、当然判断が付きませんし、そもそも正解などはないのでしょう。審査員が変われば賞の結果も変わるように、選定者が変わればセレクションも変わるでしょう。開き直るわけではないですが、どこかで自分たちの判断が正しかったと思わないことには先に進めない。懸命に作品を作っている人たちに失礼のないようにするには、自分たちも懸命に作品に向き合うしかない、という青い気分を、僕と同僚たちは共有しています。

一方、外国映画の競争率は日本映画よりもさらに激しく、コンペで言えば外国映画が13本のところに絞りに絞った候補作が40本くらいあるわけで、この状態が8月末だととてもヤバイです。どんなに良い作品でも、似たタイプの作品が重なるのは避けたいし、地域やジャンルのバランスもとりたいし、有力監督やワールドプレミアはちゃんと追いたいし、ともかく、選定作業には変数がとても多いので、ひたすらシミュレーションを重ねていくのですが、これも正解が見えなくなり、精神的にはやや異常なゾーンに突入していくことになります。

ということで、今年も結局9月初旬までかかってしまい、綱渡りの選定作業となりました。

そういえば、尾籠な話で恐縮ですが、8月末近くのある日、シャワーを浴びていたら、尻の周辺に違和感がある。なんというか皮膚が荒れていてヒリヒリと痛い。なんにもしてないのに何だろうと思ったら、ふと気づいた。これは「尻ずれ」ではないか? 「床ずれ」ならぬ「尻ずれ」! 確かに、週末は17時間連続で事務椅子に座って応募作品を見ている。そりゃあ尻もすれるか…。長年この仕事をしているけれど、尻ずれは初めてなので喜び勇んで同僚に報告したら、あまり笑ってくれない。呆れているのか、心配しているのか、単にリアクションに困っているだけなのか…。

余計な話でした。9月第2週までには作品決定。それから一気にオープン準備をしているWEBサイトや、入稿作業が進行している「映画祭ガイド」(スケジュールチラシ)用に邦題を決めて、解説文を書く。それが終わると、次は公式パンフレット用の長めの解説文を書く。作品を決めたばかりなのであまりいい文章が書けず、毎年苦労します。

もう少し時間があれば、書いてからいったん寝かせて、それから推敲して書き直す、というブラッシュアップの作業が出来るのだけど、現状では作品決定の直後から一気に書いて一気に提出というスケジュールなので(作品を早く決めない自分が悪い)、どうにも後で読み直して後悔したりしてしまいます。担当本数が40本近くあるので、選定が終わっても原稿書きで週末は完全につぶれて行きます。

さらに、残念ながら落選のお知らせをしなければならない応募作品に返事を書く必要があります。これは1年を通じてもっとも重要な作業で、何と言っても今回限りのお付き合いでなく、今後も作品を寄せてもらいたいし、そして作品の感想も出来る限り伝えたい。ご招待する作品はもちろん重要だけれども、ごめんなさいする作品は同じくらい重要なので、なんというか、これは映画祭の未来(だけでなく映画作家の未来も)がかかる作業だと思っています。なので、1週間は集中してメールを懸命に書きます。

それが終わると9月の第3週になっていて、9月26日の記者会見に向けて一気に準備を進めていきます。予備選考を手伝ってくれた内外のスタッフに協力感謝のメールを書き、そして会見資料の校正や、自分の話す内容をまとめたりする。そして、作品ゲストの来日スケジュールや稼働スケジュールが出揃い始めるので、それに合わせて上映スケジュールをガガーっと組んでいくウルトラ重要作業がもはや待ったなしのタイミングになっています。

9月23日(土)は、今日こそ6月以来の完全オフ日にするぞと意気込んだものの、上映スケジュール周りや、原稿書きが終わらず、泣く泣く出勤。それでも18時には職場を出て、半日、いや四分の一日でもいいから休もうと水道橋に向かい、心の底から楽しみにしていたラクーアに行ってみると、なんと改装中でお休み…。もうあまりにもがっくりして、腰から砕け落ちそうで、ちょっと本気で泣きそうになってしまったのだけど、ああ今年の神様はなかなかに手ごわいなと思いながらとぼとぼとドームシティを歩く…。

翌9月24日(日)は「サヤマdeシネマ」と題した上映会に参加すべく、狭山へ。映画祭をインターンとして支えてくれている西武文理大学の学生たちが、映画祭に刺激を受けて自分たちで企画した上映イベントです。『神様の思し召し』(15年TIFF観客賞)、『ヒトラーの忘れもの』(15年TIFF主演男優賞)の2本を上映し、僕はトークに呼んでもらったので実行委員の学生たちと壇上で話をして、実に楽しい時を過ごしました。お客さんもたくさん入り、大成功のイベント。西武文理大のみなさん、おめでとう! 東京国際映画祭でもまたよろしくお願いします!

週が明けて25日、月曜日。コンペ作品のDCP素材が届いたのでそのチェック試写が2本。1本はスクリーンで見るのが初めてで(オンライン試写で判断したので)、やはりとても面白くて安堵して大興奮。もう1本は数回見ているのだけど、ラストでボロボロと泣いてしまった…。うん、2本ともとてもいい映画だ。会見への自信になる! そして職場に戻り、会見での作品紹介を何度か練習してみる。

そして、いよいよ9月26日、本日の会見を迎えました。コンペ15本について、持ち時間の10分をフルに使って(ちょっとオーバーしたかも?)しゃべりました。どうしても超早口になってしまうのが心配なのですが、それでも会見が終わったら解説が面白かったと言ってくれた人がいたので、少し安堵。少しでも伝わったとしたらいいのだけど!

6月から今日に至るまで、長いような短いような、なんせ宇宙人に拉致されたような状態なので時間の感覚が完全におかしいです。しかし、毎年夏恒例のダイエットも成功し(選定業務で最も精神的に辛い時期に空腹の辛さをぶつけると、辛さが相殺しあってそれぞれが気にならなくなるという、究極のドS、いやドM? のダイエット)、すっきりとスーツも着られるし、すがすがしい気分で会見に臨めたような気がします。

何といっても、上記のような過程を経て、お世話になることに決めた作品については、どれも本気で面白いと思っています。それらの作品を、次からのブログで紹介していきたいと思います。お付き合い願えましたら嬉しいです。よろしくお願いします!
《矢田部吉彦》

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