【MOVIEブログ】2017 TIFF作品紹介スプラッシュ部門(2/2)

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『神と人との間』
  • 『神と人との間』
  • 『おじいちゃん、死んじゃったって』
  • 『二十六夜待ち』
  • 『地球はお祭り騒ぎ』
東京国際映画祭の作品紹介、「日本映画スプラッシュ」部門の後半です。

まずは内田英治監督新作『神と人との間』からスタートします。内田監督は『下衆の愛』以来2年ぶりの「スプラッシュ」に参加です。道を踏み外した人々の物語をワイルドなタッチで描き、日本の底辺をリアルに見せてくれる内田監督ですが、新作の『神と人との間』は意外や意外、谷崎潤一郎の原作の映画化です。

谷崎の原作は1923年(大正12年)から翌年にかけて執筆され、実体験を小説の形で語ったものです。谷崎潤一郎が妻の千代を佐藤春夫に「譲渡」すると約束したものの、のちにその約束を破ったために佐藤から絶交された一連の経緯は「小田原事件」とも呼ばれますが、その三角関係をベースに執筆されたのが「神と人との間」という小説です。そして今回の映画『神と人との間』は、設定を現代に置き換え、視点や人物関係を少し変更し、泥沼の三角関係を描いていきます。

町医者のホズミと漫画家で親友のソエダはともにアサコが好きだったが、ホズミはソエダにアサコを譲る。しかしソエダはアサコと結婚後、豹変する…。三角関係に大正も平成もないというか、実にありえそうな現代の物語として見る者の胸に迫ってきます。

表向きは平静を装いながらも内面はグラグラと煮えたぎっているホズミの心情が映画の柱となり、内田監督は普段は表に出す激しいエネルギーを今回はホズミの内面深くに沈め、作品に異様な迫力をもたらすことに成功しています。内田監督の新境地であると言ってもいいでしょうし、活火山を描いてきた内田監督が今回は地中うごめくマグマを描いたという見方も出来るかもしれません。谷崎文学のエッセンスに内田監督的情念をぶつけた迫真の愛憎ドラマです。

もっとも、現代の物語としてなんら違和感がないので、谷崎云々を知らなくても全く構いません。見どころはたくさんありますが、まずは何と言っても主演のホズミ役の渋川清彦さんでしょう。初めて見たとき、僕はしばらく渋川さんと気づかずに見ていました。監督がホズミの外見で「遊んでいる」ようで楽しいのですが、ここは画面で確認してもらいたいです。ホズミの心情はかなりしんどいので、少し楽しい外見でバランスを取る必要があったのかもしれません。ここら辺のキャラクター設計は絶妙です。

親友のソエダに扮する戸次重幸さんも表と裏の顔を自在に使い分けて、物語の原動力になっていきます。そして、映画の肝になる難役であり、「譲られる」運命に翻弄されるアサコを演じる内田慈さんが見事です。内田さんは映画出演の度に自己最高を更新していくようで、本当に毎回楽しみな女優です。内田さんと渋川さんの絡みは実にスリリングであり、今年のスプラッシュのハイライトのひとつでしょう。

続いて、森ガキ侑大監督作『おじいちゃん、死んじゃったって』です。今年のスプラッシュ部門9作品のうち、唯一の監督デビュー作が本作です。CMやMVを多く手がけ、満を持しての初長編監督。高い完成度を誇るデビュー作です。

祖父が死去し、集まった親族の間で起こる悲喜こもごものドラマを描く、「お葬式もの」ジャンルと呼んでいいでしょう。認知症の祖母、父と仲の悪い叔父、すこし問題を抱えた従弟たち、経済的に成功して派手な叔母など、個性的な親族の面々が家族のドラマを彩ります。悲しい出来事なのに思わず笑ってしまうお葬式のツボもしっかり押さえ、設定もユーモアもとても上手くてお見事。原作と脚本を手掛けているのは山崎佐保子さん。様々なエピソードを織り交ぜながら、家族とは何かを問いかけていきます。

ユーモア担当(と言ったら失礼かもしれませんが)が父親の光石研さんと叔父の岩松了さんで、この芸達者なおっさん(失礼!)二人の絡みがサイコーです。仲は決してよくないけれど、それでも兄弟の血は争えず、やはりどこかで繋がっているふたり。お二人を見ているだけで幸せになれます。

作品のポイントは、ヒロインの心情にあります。祖父が死んだときに自分がしていた行為に罪悪感を覚え、終始ふさぎ込んでいる。祖父の死を乗り越えることが、彼女の人生のターニングポイントにもなっていきます。ヒロインを演じるのは岸井ゆきのさん。一昨年の『友だちのパパが好き』(山内ケンジ監督)、昨年の『太陽を掴め』(中村祐太郎監督)に続き、3年連続の「スプラッシュ」登場です。もはやスプラッシュのミューズですね。本作でも少女にも大人にもなれるという幅の広い存在感を発揮しています。

すくすくと正当派のドラマを描く監督になっていくのか、コメディー・ドラマを手掛けて行くのか、どちらの道もありそうな森ガキ監督の今後に注目していきたいです。

そしてスプラッシュの8本目は、越川道夫監督新作 『二十六夜待ち』です。配給会社経営者、及び映画プロデューサーとして映画業界歴の長い越川さんですが、近年は監督業が続いています。監督デビュー作『アレノ』(15)を「スプラッシュ」部門にご招待したとき「映画監督に転向したわけではない」とおっしゃっていましたが、翌年に『海辺の生と死』(本年Japan Now部門でも上映)、そして『二十六夜待ち』と毎年作品が続き、創作意欲は高まるばかりのようです。

佐伯一麦著「光の闇」に収められている短編「二十六夜待ち」を映画化したもので、映画を見てから原作にあたった僕はその短さに驚きました。原作が短い文章に込めている感情や心象風景を映画は丁寧に掬い取り、小説では簡略化されていたエピソードを膨らませて物語の骨格を大きくし、立派な長編映画に姿を変えています。脚本も越川監督が手掛けていますが、短編原作のエッセンスを生かしながら長編映画に翻案する技術はプロデューサー業で鍛えられたのかもしれません(映画祭中にご本人に聞いてみます)。

記憶を失った板前の男と、震災で家族を失った若い女性が出会い、互いの欠損部分を埋め合うかのように愛し合う大人の恋愛映画です。薄れてゆく震災の記憶を、あらかじめ記憶を失っている男を介して描く繊細な主題を持ちますが、核には肉体的欠損(物理的な障害、あるいは肉親の消失)を埋めるように体を寄せ合うふたりの男女の愛の行為があります。

越川監督は粘度の高い作家であると感じています。『アレノ』には犯罪映画特有のドライなタッチがありましたが、エロスとタナトスを強く意識させる作品でした。『海辺の生と死』は題名通りに死と隣り合わせであるがゆえに生が生々しさを増していきます。『二十六夜待ち』はセックスが愛の行為なのか、喪失を埋めるための手段なのか、それを確認するかのような男女の姿を、腰を据えて描いていきます。エロスとタナトスに対する腰の据え方を「粘度」と呼んでみましたが、一貫性のある作家の作品を見続ける歓びを越川監督は与えてくれます。

こう書くと性愛映画みたいに思えてしまうかもしれませんが、決してそんなことはなくて、粘度は高いのに、一方でさらりとした印象も与えてくれるのが本作の魅力でもあります。男と女が少しずつ距離を縮めて行く前半は奥ゆかしく、心が温まっていくのが実感できるはずです。これは越川監督の演出意図もありますし、山崎裕カメラマンのピタリとはまるフレームワークが心地良いからでもあると思います。

そして最大の魅力は主演のふたり、井浦新さんと黒川芽以さんにあると言っても過言ではないです。井浦さんの所在なげな表情は何よりも雄弁ですし、板前姿の似合うことといったら! 佇まいが絵になり、無言でも語ることができ、記憶を失った男を演じるにはまさに適役。黒川さんは苦しみを封印して自立を図っているようでいて、人生を諦めているようにも見える複雑な役どころに挑んでいます。ともにかなりの難役ですが、二人のケミストリーがどのような効果を上げているか、注目して下さい。

クセ者ぞろいのスプラッシュ作品の中では正統派ドラマと呼んでいいでしょう(いや、十分にクセ者か…)。大人のドラマを堪能したい方におすすめです。

そして「スプラッシュ」部門ラストの9本目は、 『地球はお祭り騒ぎ』です。昨年『プールサイドマン』で作品賞を受賞した渡辺紘文監督の新作です。作品賞受賞監督が受賞の翌年に新作を寄せてきたのは初めてのことで、改めて大田原愚豚舎(渡辺監督を中心にした製作集団)のフットワークの軽さに驚かされました。そして作品がやはり面白いので、受賞監督であることに左右されることなく、ご招待となった次第です。

この文章を書いている現在、『プールサイドマン』(16)は都内の劇場で公開中で、見た人に驚きを与えているようです。海外の映画祭にも多く出品され、渡辺監督の世界が広まっていくのは極めて痛快ですね。美しいモノクロ画面の中、反復の毎日の中で現代の孤独を描いた『七日』(15)、その孤独に加え日本人と国際問題の距離感を測った『プールサイドマン』と、孤高の美学を貫く渡辺監督の姿勢が昨年作品賞という形で報われたことに、僕も受賞式でもらい泣きしてしまったものでした(深田晃司監督に見られて恥ずかしかった)。

その結果にあぐらをかくことなく作られた『地球はお祭り騒ぎ』は、『プールサイドマン』で獲得したフォーマットをさらに発展させた形の作品です。『七日』+『プールサイドマン』=『地球はお祭り騒ぎ』という趣で3部作的な様相を呈しています。『プールサイドマン』をご覧になった方にこれ以上の説明は不要と思いますので、とにかく必見でお願いします。

渡辺兄弟(弟の雄司さんが音楽家)を知らないという方のために少し解説をします。『地球はお祭り騒ぎ』は、地方の町工場で働く職員の日々を淡々と描き、郊外の孤独という渡辺紘文監督作品を貫く主題の一つが語られます。その語り口が抜群に個性的なのですが、モノクロのスタイリッシュで美しい画面の中、寡黙な男と饒舌な男のコンビが車に乗って東京ドームに向かいます。目的は、ポール・マッカートニーの来日公演…。

おそらく(というか間違いなく)実際にポール・マッカートニーのコンサートに行く機会を得た監督が、その道中を映画にしてしまおうと企んで作られた映画であるでしょう。当然ドキュメンタリーの要素は挟まれていきますが、即席感はなく、きっちりメタフィクションとして作り込んでいる感触を与えます。『プールサイドマン』と同じ人物が登場しますが続編ではなく、同作で開拓した寡黙男と饒舌男のコンビというフォーマットを発展的に利用してみようという試みです。饒舌男のひとり語りが今回も抜群に面白く、映画に見事にはまっています。

渡辺監督の孤高のスタイルはますます洗練が進み、この先どこに進んでいくのか予想が付きません。映画祭は彼らの芸術活動の証人であり続けています。ハイスピードで進化を続ける愚豚舎とリアルタイムで並走する歓びを、多くの観客に味わってもらいたいです。

以上の4作品と前回ブログの5作品を合わせ、「スプラッシュ」部門の9作品の紹介でした。今年のラインアップの面白さが少しでも伝わったらよいのですが! 各上映回には監督や俳優たちも駆けつけ、舞台挨拶やQ&Aも行われます。僕も各作品最低1度は司会で参加するつもりです。とっても楽しみです。会場でお会いしましょう!

ということで、14日(土)から順次チケットが発売になりますが、チケット発売後も作品紹介ブログは続けます。次回はワールドフォーカスに行きます!
《矢田部吉彦》

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