【MOVIEブログ】2017東京国際映画祭 Day3

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『シップ・イン・ア・ルーム』
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27日、金曜日。4時就寝の9時起きで、5時間寝られれば大丈夫。かつては1~2時間睡眠という年もざらだったから、かなりの進歩だ。外に出ると本日も快晴。この天気が続かないことは薄々聞いているけど、エンジョイできるうちに好天をエンジョイしよう。

スターバックスでコーヒを買ったら、店員の女性が「映画祭バッグ、カッコいいですね!」と言ってくれる。コーヒー10杯もかなわないくらい目が覚める! さすがスタバ!

9時40分に劇場に行き、本日朝の特別記者会見に潜入する。エリック・クー監督新作『ラーメン・テー』の完成報告的な会見で、シンガポールと高崎市を舞台にしたバクテー(シンガポール料理のポークリブ・スープ)とラーメンをモチーフに、青年のアイデンティティ探しの物語。

登壇したのは、エリック・クー監督、主演の斎藤工さん、別所哲也さん、そして松田聖子さん! 松田聖子がナマで見られるとあったら、僕ら世代は絶対に行く。睡眠の有無に関わらず絶対に行く。

僕はこの会見に全く関わっていないので、完全に一般客モードで客席から参加。記者会見を見て、同じ空間に松田聖子(どうしても一般人的な呼び方になってしまうことをお許しいただきたい)がいることがシュールに思えてならない。彼女がデビューしたのは僕が中1の時のことで…、と書くと長くなるので割愛するけれど、時代を画したヒーローであり、しばし感慨に浸る…。

たっぷりと会見を見学してから事務局にもどり、予定を確認しながら午後のスピーチの練習などして、11時50分に早弁して(牛のしぐれ煮弁当、まだ暖かくて感激)、12時15分に劇場へ。

12時半から「クロスカット・アジア」部門で『ポップ・アイ』のQ&A司会。シンガポール出身のカーステン・タン監督はNY在住の女性で、本作が初監督作であるけれども、とても完成度の高い素敵な作品だ。監督は主演のタネート・ワラークンヌクロさん(通称タネさん)とともに登壇し、中年おじさんと象のロードムービーがいかにして完成したかを語ってくれる。失意の男が象と過ごす時間を通じて人生を取り戻していくドラマに相応しく、Q&Aも温かい雰囲気に包まれて楽しい。タン監督、間違いなく才人で、将来が楽しみ。

13時半から、MPA(Motion Pictures Association)という映画業界団体の主催するシンポジウムセミナーに行く。5分だけスピーチをすることになっていて、というのは、この団体が主催のひとつに名を連ねるAPSA(Asian Pacific Screen Award)という映画賞があって、僕が恐れ多くもその審査員のひとりを務めることになり、来月その仕事でオーストラリアに行くことになったのでした。本業で目が廻っているので、とても来月のことなど考えられないのだけど、ともかくその関連のことを5分くらい英語でスピーチ。原稿を暗記する時間がなく、結局原稿を棒読みするだけになって手抜きだった…。悔しい。

スピーチの内容はともかく、当初は13時35分くらいの出番ですぐに済むと聞いていたのだけど、関係者の開幕の挨拶が続き、いつまでたっても順番が回ってこない。ん? 聞いていないぞ。14時に会場を出ないと次の司会に間に合わない。結局スピーチが終わったのが14時10分で、次の登壇が14時17分。かなりギリギリだった!

「スプラッシュ」部門の『飢えたライオン』のQ&A司会。いくつかの出来事から少しずつ映画の構想を固めていったという緒方貴臣監督の話が面白い。当初はうまく話せるかどうか分からないと言っていた緒方監督だけれども、実際に始まるとストレートに丁寧に話してくれる。答えにくいときは一泊置いて真剣に考えてから、改めてちゃんと答える姿勢がとてもいい。デリケートな題材を扱っている作品なだけに、受け答えにも気を遣うと思うのだけど、言いたいことは映画で表現しているという自信も垣間見える気がした…。よい緊張感の漂うQ&Aだった!

映画のリアルと非リアルに関する最後の質問の下りが僕にはとても同感できたのだけど、ネタバレになるので書くのはよそう。映画とは何かを突き詰めて考えている人なのだと思う。

監督とのQ&Aが終わると、続いて舞台挨拶という今回は変型版。主演女優の松林うららさんはじめ、共演者の日高七海さん、加藤才紀子さん、菅井知美さん、小木戸利光さん、根岸憲一さんが登壇し、Q&Aとはがらりと雰囲気が変わってこういうのも楽しくてとてもいい。女優さんたちの役作りの苦労や、撮影の根岸さんの緒方監督評などが披露される。根岸さんによれば、数十年に及ぶキャリアで最初は何がやりたいのか全然分からないが結果を見ると唸らされたという監督は、緒方監督が二人目だそうな。ちなみに一人目は深田晃司。んー、ますます今後が楽しみな監督だ!

15時半に事務局に戻り、15分間ミーティング。

16時に劇場に戻り、夕方の登壇の打ち合わせ。

16時50分から、コンペの『ザ・ホーム - 父が死んだ』のQ&A司会。アスカー・ユセフィジャド監督と、主演のモハデゼ・ヘイラトさんが登壇。本作はイランのトルコ系コミュティーの社会を背景に撮られており、その理由を尋ねるところからQ&Aはスタート。

このQ&Aが実に独特な雰囲気だった。監督がかなり一気にたくさんしゃべるので、劇場はじっと理解できないペルシャ語を聞くことになるのだけど、なんというか、雰囲気がダレない。少なくとも僕にはそう感じられた。監督は長く映画批評家をしていた人だけあって、語る内容の骨子がしっかりしていて、重要なことを話しているという空気が伝わってくる感じ。その長めのコメントを通訳のショーレさんが的確に訳してくれて、いちいち頷ける。

イラン映画における長廻しについて、エモーションの持続を必要とする場合と、そうでない場合の撮り分け方、人の死を利用して自身の生をアピールしたい人たちについて、そしてイランにおける現在の宗教観について。客席からの質問もとてもいい。聞けば聞くほどもっと聞きたくなる話し方をする監督で、まさにあっという間に予定時間を迎えてしまった。

ドカンと盛り上がったわけでもなく、かといって冷めているわけでもなく、んー、なんというか、のめりこんでしまうようなQ&A。僕にはとても新鮮で、これは監督の個性かなあ。次のQ&Aも楽しみだ。外に出ると、面白かった! と話しかけてくるお客さんがいて、やはり響いたのかも。嬉しい。

17時45分に事務局戻り、少し早めの夜のお弁当をぺろり。なんだったかな? ちょっと覚えてない。

18時5分に劇場に行き、「スプラッシュ部門」の『うろんなところ』の上映後舞台挨拶とQ&A。まず出演者とスタッフのみなさんがずらっと並んでご挨拶頂いて、フォトセッション。続いて池田暁監督と碓井千鶴プロデューサーに残ってもらって、Q&A、という段取り。

夢の断片を繋ぎ、シュールな日本情緒も漂う摩訶不思議な作品である『うろんなところ』は外国人の関心もひいたようで(なんといっても池田監督はロッテルダム映画祭のWinnerなのだ)、最初の質問は英語の方。小津の影響は? という質問から始まり、つげ義春や水木しげるの話、そして「うろん」という言葉や、池田監督の映画の作り方まで、映画の内容が不思議だらけなので、質問が途切れることもなくとても楽しい。

ひょっとして、あるシーンの意味に関する質問に対し、「夢に見たのだからしょうがないというか、説明がつかないんですよね」と答えられることが許されるのは、映画監督にとってひとつの夢かも? 『うろんなところの』が持つ個性の突出ぶりは、もう見てもらうしかないのだけど、自分や他の人の夢の断片を繋ぎながらひとつの統一感のある世界を作り出すなんて、相当な底力が無いとできない芸当であるのは言うまでもない。池田監督の受け答えはとても真面目で、作品から受けるイメージとは少し違う。只者でないことが、本日始めて池田作品に接した人にも十分に伝わったのではないだろうか?

19時に事務局に戻り、30分ほどしばし休憩。

19時50分に劇場に戻り、ミュージカル作品のトークゲストで来場されていた小西未来監督にご挨拶。

20時から、ワールド・フォーカス部門『ライフ・アンド・ナッシング・モア』のアントニオ・メンデス・エスパルサ監督をお迎えしてのQ&A。5年前の『ヒア・アンド・ゼア』の時と全く変わらない、温かいお人柄にひたすら癒される!

フロリダで作品を作ることになった背景、いかにして劇中の人々と出会ったか、演技経験の無い人たちとどのように物語を作っていったか。そして自分たちの物語を包み隠さず語ってくれる人々の寛容さに感動したと監督は語り、映画作りの原動力になっていく…。ラストシーンのあり方をめぐる質問など、僕も気になる部分だったのでとても充実。

20時40分に終わり、急いでパーティー会場へダッシュ。主に海外ゲストを中心にしたプライベートなウェルカム・パーティーで、駆け付けてみると店はゲストでぎっしりで、とても盛り上がっている! ここ数年で最高の雰囲気かもしれない。ちょっと泣きそうになる…。

僕は大声で各テーブルにどういう作品がいるかをほかの参加者に紹介し、そして僕が音頭をとって日本式にカンパイ! いやあ、雰囲気最高。自分がウーロン茶なのが恨めしい!

大きな手ごたえと幸せを噛みしめながら、21時半に店を出て、21時50分からコンペ部門の『シップ・イン・ア・ルーム』のQ&Aへ。これまた『ザ・ホーム』に続き、独特な雰囲気のQ&Aだった!

監督たちは口数が多くなく、ぼそぼそと話すタイプなので、なかなか「盛り上がる」ことがない。でも「盛り上がる」ってなんだっていう話で、作品のタイプによっては様々な空気のトークがあっていいんだということを改めて実感する。

この映画の最大の難点は、映像を見ることの意義や効果を映像そのものを使って伝えようとしている作品なので、その作品の映像が持つ意味について言葉で説明を求めても、それはヤボにしかならないということなのだ。僕がそれを壇上で口にすると、なんとなく会場も同意してくれたような気がしたのだけど、どうだっただろう。

監督がブルガリア語でコメントしている中、ジガ・ヴェルトフという単語が聞こえた気がして、通訳の方が訳さなかったので監督に「いまジガ・ヴェルトフって言いました?」と聞くと、「いかにも」との答え。なるほどと思うものの、瞬時に整然と解説する自信がなかったので、客席には「ジガ・ヴェルトフ、重要なロシアの作家なので、ググっておいてくださいね」と僕が言うとちょっとウケたので安堵する。

これを書いている現在AM3時なので、映画史におけるジガ・ヴェルトフの意義を書くのは不可能なのだけれど、『シップ・イン・ア・ルーム』を読み解くカギはそこにある気がしてならない…。ともかく、30分強の時間の中で、徐々に、少しずつ、会話が重要な方向に向かっていくことが実感できるQ&Aで、とても難しいQ&Aだったけれども、極めて意義深くて思い出に残るQ&Aになりそう。観客のみなさんも、ちょっと貴重な空気を感じられたとしたらいいのだけど。

EXシアターからシネマズに移動して、23時からはワールドフォーカス部門のイスラエル映画『隣人たち』のQ&A。主演も兼ねるツァヒ・グラッド監督をお迎えして、こちらは勢いに乗ったトークが展開。ユダヤ人のアラブ人に対する恐怖心が愚かしいほどの域に達している様を描いたドラマは、ユーモアをも兼ね備え、その背景を説明する監督は豪快にして繊細、柔にして剛のお人柄で、なんともスケールの大きさを感じさせる。

映画の中のエピソードの多くは現実から取られており、それらを面白おかしく語ってくれるけれども、冷静に聞いたとしたらかなり深刻な話であり、そしてそれは決して他人事ではなくどこでも起こりうるなのだというコメントに頷くしかない。嫌いな人がいることと、人を差別することとの間の境界線はとても細い、というコメントにも…。

とても重要な作品であり、今年映画祭で見た作品の中で最も面白いとおっしゃるお客さんもいて、23時を過ぎたにもかかわらず充実の時間。怖くて考えさせるけど楽しいという稀有な作品。ツァヒさん、お迎えできてよかった!

事務局戻って0時。至急メールと懸案事項が数件重なり、1時半からブログ叩きはじめ、かなりの殴り書きになってしまったけれども、ここまで書いて3時。それにしても、聖子ちゃんに始まって、イスラエル・パレスチナ問題で締めるとは、何という一日。そして全てのQ&Aが様々な意味で有意義だった。本当はもっと書きたいけれど、そろそろ限界。推敲すらしないでアップしてしまいます。ごめんなさい!あがります!
《矢田部吉彦》

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