【MOVIEブログ】2017 豪州APSA出張日記(上)

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東京国際映画祭が終了してからちょうど1週間。まだ疲れが取れるどころか、映画祭後の時差ボケに似た状態が継続していて、何をしても雲の上を歩いているようなフワフワしている状態だというのに、今年は無謀にも出張を入れてしまいました。しかも2週間!

行き先はオーストラリアで、シドニーとメルボルンに次ぐ第三の都市、ブリスベン。Asian Pacific Screen Award(通称「APSA/アプサ」)という映画賞の審査員をやらないかという打診が9月にあり、自分が関わる映画祭の本番直後なだけにちゅうちょはしたのだけど、滅多にない機会でもあるので引き受けたのでした。

APSAはいわゆる映画祭ではなく、アジア太平洋地区おいて今年を代表する秀作に賞を与える映画賞という位置づけです。つまり、一定期間映画祭を開催して最終日に賞を発表、というものではなく、授賞式だけが存在するアカデミー賞のスタイルに近いものです。ノミネート委員会が候補作を選出し、任命された審査員が候補作を鑑賞して賞を決定し、11月23日に華やかな授賞式を行ってそこで発表するという形をとっています。今年で11回目を迎える賞です。

アカデミー賞やカンヌ映画祭がどうしても欧米偏重になる中で、アジア映画にも権威のある賞を設けようという試みは各地で行われています。香港のAsian Film Award(AFA)も存在感をアピールすべく頑張っています。AFAにも僕は少し関わっていますが、APSAにしてもAFAにしても日本における認知度はまだ高いとは言えないため、微力ながらこれらの賞について伝えていけたらと思います。

もっとも、審査員業務をどこまで公表していいのかよく分かっていないので、日記は書き溜めつつも、様子を見ながらアップします。以下、リアルタイム日記で行きます。

<11月12日(日)>
東京国際映画祭が終わったのが11月3日。以来、Q&Aに遅刻する悪夢にうなされ(毎年のこと)、連日午前4時頃に汗だくで目覚めるという日々を過ごしていて、例年ならばゆっくりと実社会に戻っていく時期に充てるはず。なのに、長期出張の支度をせねばならないことが信じられない。残務処理が残っている(どころか、始めていない)というのに、海外なんぞに行っていいのだろうか?

などという思いにかられながら、11日(土)は角川シネマ新宿にこもってジャン=ピエール・メルヴィル監督特集の『影の軍隊』、『仁義』、『いぬ』を3本連続で堪能する。映画祭本場が終わったあとは、どんな映画を見ても寝てしまうのに、さすがメルヴィル、一瞬たりとも眠くならない。特に撮影のピーエル・ロムによる『影の軍隊』の暗い画面はスクリーンでこそ味わいたいものなので、光と影の世界に狂喜しながらメルヴィル世界の細部に酔う…。

明けて12日。出張前に見ておかなければならない作品をオンラインで見たり、オーストラリアは初夏らしいので新しいTシャツを買いに行ったりしてから、パッキングを終わらせて夕方に家を出て、16時過ぎの成田エキスプレスに乗り、成田第2ターミナルへ。

僕にとって初のオーストラリアで、初のカンタス航空。やはり初めての行き先というのは軽く緊張するもので、飛行機に乗ってから現地での予定を今更ながらに確認してみる(あまりちゃんと調べる時間がなかった)。

11月23日(木)のAPSAの発表に向けて、審査員はその10日ほど前に集まり、集中的に試写を見て、討議をして、各賞を決めていくことになっている。それで僕も12日に出発しているわけだけれども、みんな13日に豪州入りして、試写の開始は14日から。

ほかの審査員は次の通り。審査員長がオーストラリア人で編集のジル・ビルコックさん(『ムーラン・ルージュ』でアカデミー賞編集賞ノミネート)、フィリピンの映画監督のアドルフォ・アリックスJrさん(僕も大好きな監督なので会うのが楽しみ。だけど東京フィルメックスのコンペに新作が入っているけど、ブリスベンで審査員やっていていいのだろうか?)、中国の女優のヘ・サイフェイ(何賽飛)さん、カザフスタンの監督のアディルカン・イェルザノフさん。つい数日前まで、審査員の方々をお迎えする立場であった身としては、逆の立場になることがとても不思議でうまく整理がつかないけれど、ともかく楽しい出会いになりますように。

決めなければいけない賞は、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞そして女優賞と男優賞。さらに、ユネスコ文化多様性賞という賞も決めることになっている。

ノミネート作品はもう発表されていて、以下の通り(末尾の映画祭名はプレミア上映された場所):

【作品賞】
・『Angels Wear White』(中国/ヴィヴィアン・チュイ監督/2017年ベネチアコンペ)
・『A Gentle Creature』(ロシア/セルゲイ・ロズニツァ監督/2017年カンヌコンペ)
・『A Man of Integrity』(イラン/モハマド・ラスーロフ監督/2017年カンヌ「ある視点」)
・『Foxtrot』(イスラエル/サミュエル・マオズ監督/2017年ベネチアコンペ)
・『スウィート・カントリー』(オーストラリア/ウォーリック・ソーントン監督/2017年ベネチアコンペ)

【監督賞】
・『Scary Mother』(ジョージア/アナ・ウルシャズデ監督/2017年ロカルノ映画祭)
・『Loveless』(ロシア/アンドレイ・ズビャギンツェフ監督/2017年カンヌコンペ)
・『三度目の殺人』(日本/是枝裕和監督/2017年ベネチアコンペ)
・『Marlina the Murder in Four Acts』(インドシア/モーリー・スーリア監督/2017年カンヌ「監督週間))
・『セクシー・ドゥルガ』(インド/サナル・クマール・シャシダラン監督/2017年ロッテルダム)

【撮影賞】
・『Ghost in the Mountains』(中国/ヤン・ヘン監督/2017年ベルリン「パノラマ」)
・『Scary Mother』(ジョージア/アナ・ウルシャズデ監督/2017年ロカルノ映画祭)
・『Lady of the Lake』(インド/ハオバム・パバン・クマール監督/2016年プサン映画祭)
・『The Bottomless Bag』(ロシア/ルスタム・カムダモフ監督/2017年モスクワ映画祭)
・『スウィート・カントリー』(オーストラリア/ウォーリック・ソーントン監督/2017年ベネチアコンペ)

【脚本賞】
・『Arrhythmia』(ロシア/ボリス・クレブニコフ監督/カルロヴィヴァリ映画祭)
・『A Father’s Will』(キルギスタン/ダスタン・ザパール&バキト・ムクル監督/2016年モントリオール映画祭)
・『スウィート・カントリー』(オーストラリア/ウォーリック・ソーントン監督/2017年ベネチアコンペ)
・『三度目の殺人』(日本/是枝裕和監督/2017年ベネチアコンペ)
・『Newton』(インド/アミト・マスルカーアル監督/2017年香港映画祭)

【女優賞】
・『Emma'マザー』(インドネシア/リリ・リザ監督/2016年プサン映画祭)
・『Clair Obscur』(トルコ/イエシム・ウスタオール監督/2016年ハイファ映画祭)
・『I Can Speak』(韓国/キム・ヒョンソク監督/2017年9月韓国公開)
・『Scary Mother』(ジョージア/アナ・ウルシャズデ監督/2017年ロカルノ映画祭)
・『Our Time Will Come』(香港/アン・ホイ監督/2017年上海映画祭コンペ)

【男優賞】
・『三度目の殺人』(日本/是枝裕和監督/2017年ベネチアコンペ)
・『Wajib (Duty)』(パレスチナ/アンヌマリー・ジャシール監督/2017年ロカルノ映画祭)
・『No Date, No Signature』(イラン/ヴァヒド・ジリルヴァンド監督/2017年ファジル映画祭)
・『ダイ・ビューティフル』(フィリピン/ジュン・ロブレス・ラナ監督/2016年東京国際映画祭)
・『Newton』(インド/アミト・マスルカーアル監督/2017年香港映画祭)

今年のベルリンやカンヌ映画祭出品作から、昨年と今年の東京国際映画祭でワールド・プレミアされた作品まで、色々と揃っていて実に興味深いラインアップだ。ノミネートの選考作業の苦労のほどがうかがえる。最終審査よりも、ノミネート作業の方が大変。そしてそのノミネート作業よりさらに大変なのが、全ての作品の上映素材を揃え(DCP取り寄せとKDM対処を乗り越えて)、我々が鑑賞する試写を準備するスタッフのみなさん。頭が下がる。

事前に聞かされていたのは、もし既に見ている作品があったら、ブリスベンで組まれている試写に参加する必要はないとのこと。僕は上記のうち三分の二程度を見ているけれど、基本的にはすべてきちんと見直すつもり。審査員なので、厳粛な心構えで見直していかなければ。

以上を、飛行機の中で書く。

<11月13日(月)>
13日(月)の5時にブリスベン着陸。どうやら機内食とあわせてワインを飲み過ぎたらしく、二日酔い気味で到着してしまい、とても気持ちが悪い。飛行機を降りるときに二日酔いとは、始めての経験だ。バカ者だ。やはり映画祭本番直後の海外行きは慎重に行かないと、体がどう反応するか分からない…。

APSAが用意してくれた車に乗り、ぐったりしていると爽やかなオーストラリアの初夏の日差しが差し込んでくる! 美しい!

ホテルにチェックインし、早々にベッドに倒れ込む。3時間ほど寝て、ようやく気分爽快で回復し、改めて自分を戒める。APSAのスタッフとロビーで会って簡単に打ち合わせ。つい数日前まではこちらが審査員に対して行っていたのと同じ説明を、今度はこちらにされることが不思議でたまらない。僕がこちら側で間違っていないよね?

本日は審査員の到着日なので、早く着けば着くほどオフ時間が長くなる。そのままホテル近くの河沿いを2時間かけて散歩する。なんという爽やかな気候であることか! 夏の暑さはまだそれほどでもなく、22~23度だろうか。湿気もなく、本当に最高の気分。東京で残務処理をしている同僚たちに心から申し訳なくなる…。

夕方から、パソコンに向かって仕事して、ホテルのレストランで夕食をとり、なんとなくぼやぼやしてから0時過ぎには就寝。

<11月14日(火)>
7時起床、のつもりが7時半になってしまった。映画祭後の疲れがしつこいらしく、まだまだすんなりとは起きられない。それでも、爽やかな朝を期待してベッドから這い出てみる。

というのも、今回の出張の目的のひとつにランニング生活の復活があるから! しばらく前から左ひざがとても痛んでしまい、かれこれ1年以上ランニングをしていない。かつてはトライアスロンまで挑戦したというのに、ここ最近の体たらくが自分でも許せない。なので、オーストラリアの爽やかな気候を期待して、ランニングシューズとウェアを持参し、競技生活復帰への道を歩みだすことを誓っていたのだ…。

昨日散歩で下見した道を、今度はゆっくりと走ってみる。左側には美しい河が広がり、やがて眼の前に巨大な植物公園が見えてくる。河沿いに延々と遊歩道が整備されていて、歩行者とランナーと自転車乗りが共存している。素晴らしい環境だ。幸いなことにヒザの痛みがほとんどない。これはいけるかも? と思うものの調子に乗らないようにして、初日のランニングは30分で切り上げる。最高に気持ちいい。

シャワー浴びて食堂に行き、ビーンズやらベーコンやらソーセージやら卵やらを山盛りで頂ける見事なイングリッシュ・ブレックファストを堪能。ついかつてのロンドン生活を思い出してしまい、感傷的な気分になる…。まったく、朝食から何を考えているのだ。

そして9時半にロビー集合。ここで他の審査員のみなさんと初顔合わせだ。さすがに少し緊張したけれど、みなさんとても良い人ばかりのようで、心の底から安堵する。これは楽しくなりそうだ!

ホテルから車で10分ほど行ったところにGriffith Film Schoolという映画学校があり、その建物内に立派な試写室がある(試写室どころか、セットが組めるスタジオもあるし、かなりの規模の映画学校だ)。まず審査員全員でミーティングをして、色々な方針を確認しあう。審査員長のジルさんもとても気さくな方で、審査員チームを巧みに仕切ってくれる。

いよいよ11時から試写開始で、1本目の作品を鑑賞。しかし何を見たのかは、書かない方がいいのだろうな。うっかり感想も書いてしまいそうだし、さすがにそれはまずいはず。ともかく、自分としてはノーマークだった作品で、あまりの面白さに唸ってしまった。ノーマークというのは、映画祭プログラマーの自分としては仕事上の怠慢を意味してしまうのでとてもまずいのだけど、いまは落ち込んでいる場合ではないので、感想を急いでノートに書き留める。

続いて意見交換をしながらランチ。まだ少し硬さは残っているけど、徐々にみなが打ち解けてきた感じ。

14時過ぎから2本目。僕は2度目の鑑賞で、1度目よりも細部が理解できて助かった。

いったんホテルに戻り、19時からみなで夕食。APSAのスタッフが昼も夜も食事に連れて行ってくれる。なんという厚遇…。ひたすら恐縮してしまう。向かったのはカジュアルな中華だったのだけど、最初に中華を入れてくれたのが体調的に助かった(最初からオージービーフとかだったら、ちょっときつかったかも)。そしてこれがびっくりするくらい美味しかった!

堅苦しくならない雰囲気を作ってくれるAPSAのスタッフの心遣いがとてもありがたい。21時台にはホテルに戻り、パソコンでメールの返信を書いているうちに睡魔に襲われ、ダウン。

<11月15日(水)>
6時15分起床。ちょっと辛いけど、窓の外の青空に勇気づけられ、今朝もランニング決行。昨日とは逆方向に河沿いを走り、まるで河の上を渡るような遊歩道の素晴らしさを堪能しながらゆっくりジョグ。本日も無理せず35分で切り上げ、せいぜい3キロくらいかな。

朝食をアドルフォ・アリックスJr監督と一緒に食べ、東京フィルメックスのコンペに入っている新作の話や(僕と同じ便で日本に行って、フィルメックスでの上映には間に合うとのこと)、それに関連して現在のフィリピンの政情について話してもらい、朝から何とも興味深い。

本日のロビー集合は8時半。これはなかなか早い! それでも全員時間前に集合完了。えらい。

9時から本日1本目。これはちょっとしんどい。

11時から2本目。これは素晴らしい。

ああ、何も書けないな。こうなると、今後のブログに書くことが無くなってしまいそうだ…。

13時半から昼食で、カジュアルなトルコ料理屋さんへ。ここがまたまた美味しくて、ラムのひき肉の焼き物(ラム・バーグ?)が5つも乗った大皿をペロリと平らげてしまう。ブリスベン、カジュアルなレストランでも味の質が高い!

話題に上がったのが、本日オーストラリアで実施された同性婚の賛否を問う国民投票のこと。早々に賛成が大多数との結果が出て、みんな喜んでいる。僕も嬉しくなってくる。昨年来の世界情勢で「国民投票」に国民がナーヴァスになっていたとのことで、本当に良かったと地元のスタッフが安堵している。もっとも、国会が選挙結果を承認する必要がさらにあるそうで、まだ完全に安心はできないとのこと。それでも、オーストラリアにとって歴史的な日に立ち会うことが出来てとても光栄だ。

14時45分から本日3作目。上映終了後、どうにも内容に納得のいかない審査員どうしで顔を寄せ合い、話し合う。小さな円陣が組まれる。しかしどうやら全員が納得できていないようで、意見の齟齬はない。まだまだ序盤だけれども、おおよそ同じ価値観を審査員チームは共有しているようだ。しかし、それがいいことなのか、そうでもないことなのか、まだ分からない。

少なくとも現時点では穏やかな雰囲気で推移しているので、とてもやりやすいのだけど、作品や賞にとってそれが幸せなことなのだろうか? 意見が割れた方がいい場合もあるだろう。どうも映画祭を主催する身からすると、余計なことも考えてしまう…。それでも穏やかに進むことに越したことはないという本音も絶対ある。

色々な思いを抱えながらいったんホテルに戻り、感想を整理する。

19時からASPAスタッフが審査員チームを夕食に連れていってくれる。今宵はメキシカン的なバーで、僕はタコス。これまた美味。特にオーストラリアのBALTERというビールがとても美味しい!

ほろ酔いで21時半に戻り、シャワー浴びて、そろそろブログをアップすべくパソコンに向かう。見た映画の感想を書けないのが辛いけれど、明日からも何らかの日記を書いてみます。ということで、本日はそろそろ23時半。寝ます!
《矢田部吉彦》

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