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【MOVIEブログ】2018ベルリン映画祭 Day5

19日、月曜日。本日は少し遅めの7時起床、朝食を食べて外へ。本日は晴天なり。

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『In the Realm of Perfection』
『In the Realm of Perfection』
  • 『In the Realm of Perfection』
19日、月曜日。本日は少し遅めの7時起床、朝食を食べて外へ。本日は晴天なり。

本日も9時のコンペ部門の上映からスタートで、ノルウェーのエリック・ポッペ監督新作『U-July 22』。2011年7月22日、オスロの北西に位置するウトヤ島で銃乱射事件が勃発し、サマーキャンプで夏休みを楽しんでいた若者たち数十名が犠牲となった。本作は、妹とともにキャンプに参加していたハイティーンの少女の視点から、70分間に及ぶ恐怖の体験を描いていく。

正体の分からない相手から攻撃される72分間という時間が、どれほどのものなのか。それを見る者にも体感させるべく、映画はカットを割らずに、リアルタイムの72分間をワンカットで撮影している。突然の襲撃からパニック状態に陥り、森に駆け込んで木の下で伏せ、海沿いの岸壁の隙間に身を隠し、懸命に攻撃から逃げる若者たちの恐怖が伝わってくる。一瞬も息を抜くことが許されない完璧な演出だ。

しかし上映が終わると、会場内には拍手とともにブーイングも聞こえてくる。犯行の背景やテロリズムの遠因、あるいは救助が遅れた理由や実行犯のその後の処分を巡る議論など、他に語るべきことを全て排除して一種のパニック・スリラー的エンターテインメントに仕立ててしまったことに対するブーイングだと考えられる。もちろん、犠牲者の視点に寄り添って恐怖を描く自由が製作側にあることは当然で、これはブーイングしたところで平行線だろう。とはいえ映画の倫理に関わる問題でもあり、この作品の賛否は分かれるはず。

上映が終わり、直ちに次のマスコミ試写のマーケットパス用の列に並んでいると、日本の知人に話しかけられて「ヤタベさん、プレスパス申請すればいいのに。こんだけブログ書いているんだから」と言われ、ああそうなのかと思ったりする。でも、こんなへなちょこ日記ブログでプレス申請するなんて、あまりにもおこがましい。とはいえ、大量のプレス登録者が余裕で入場していくのを目の前で指をくわえて眺めているのは、確かにもううんざりだ…。

プレス登録は来年検討するとして、11時45分の回には無事入場。ドイツの『3 Days in Quiberon』という作品で、僕はブログの「予習編」で本作のことをドキュメタンリーと書いてしまい、これまた大間違いだった。ごめんなさい。見始めるまでドキュメンタリーと信じて疑わなかったのだから、思い込みというのは恐ろしい。

実際にロミー・シュナイダーに対して81年に行われた取材をベースにしたドラマで、彼女が保養滞在した西フランスのキブロンのホテルを舞台に、記者相手に本音を語る女優の姿が綴られる。

ロミー・シュナイダーを演じた女優はかなり似ていて感心するけれど、成功の裏でプライベートの問題に苦しむ女優の内面を描くにあたって新たなアプローチが試みられているわけではなく、いささか新鮮味に欠けていて退屈してしまう。一時代を築いた大女優であり、名声に伴う苦しみは深刻であったはずとはいえ、題材としては使い古されてしまっている感を与えるのが辛い。この作品を機に人々がロミー・シュナイダーを久しぶりに思い出すならば嬉しいのだけれど。

なんとも複雑な思いを抱えて会場を出て、ショッピング・モールの地下の簡易中華屋さんに行く。山盛りプレート+ドリンクで9.5ユーロ。コスパもいいし、店は広くて机も大きくてとても便利。食べてからパソコンを少し叩く。

15時から18時半までマーケット会場でミーティング。週が明けて、マーケット会場も少し人が減ってきた印象だけれども、予定していたミーティングは充実してとても満足。

今夜はマカオ映画祭のディレクターが夕食会に招待してくれたので、マーケット会場からタクシーに乗って10分ほど東に行った場所にあるドイツ/オーストリア料理のレストランに行く。アジアの映画関係者が15名ほど集まったプライベートな会で、とても親密で楽しい時間を過ごし、巨大なウィンナー・シュニッツェルを頂いて大満足。

21時15分くらいに座を辞して、韓国の映画機関が主催するパーティーに出席する。15分ほど滞在して、挨拶すべき人に挨拶し、22時からの上映を見るべく映画祭会場に戻る。

夕食会とパーティーのはしごだったので、22時の上映はやめておこうかと一瞬思ったのだけど、行ってよかった!

見たのは「フォーラム部門」の『In the Realm of Perfection』(写真)というフランスのドキュメンタリー作品。フランスに70年代からテニスの教則映画を撮っている監督がいて、その監督が残した大量のフッテージを本作のジュリアン・ファロー監督が再構成し、映画とテニスを巡る刺激と興奮に満ちた作品に作り上げた。

映画は、(テニスファンとしても有名な)ジャン=リュック・ゴダールによる「映画と違って、スポーツは嘘をつかない」という言葉の引用とともに始まる。これだけでもうしびれる。そして中心となるのは、全仏オープンのジョン・マッケンローだ。全盛期のマッケンローの試合をテレビにかじりついて見ていた身としては、サンプラスもフェデラーも関係ない。やはりマッケンローが最高だと信じている人は僕だけでないはず。

もっとも、マッケンローの偉業を追う映画ではまったくない。「教則映画もまた映画史の一部である」という冒頭の宣言から、これは映画に関する一種のメタ映画であることが分かる。TVの中継映像の素材ではなく、あくまで教則映画用に別途16mmで撮影された大量のフィルムを、ファロー監督は新たな映画として再構築する。つまりは、映画についての映画なのだ。そして、テニスというスポーツが持つ様々な側面が語られ、「サッカーやラグビーと違い、テニスが映画と共通しているのは、プレイヤー自身が時間を決めることだ」というセルジュ・ダネーの言葉が引用されてこれまた興奮する。

そのテニスの技術を極めた人物としてマッケンローが登場する。コースの読めないサービス、芸術的なドロップ・ショット、他の追随を許さないネットプレー、どんなボールにも追いつく脚力…。

そして、当然ながら、悪童マッケンローのメンタリティーにも踏み込んでいく。映画のクライマックスとなるのは、伝説的な84年の全仏の決勝、相手はイワン・レンドル。試合展開の興奮と、映画的な興奮とがせめぎ合う。ああ、これは素晴らしい。

トリッキーな映像の繋ぎ、ソニック・ユースを始めとしたセンスのいい音楽、マチュー・アマルリックによるナレーション、どこを切り取っても刺激的。これは今年の嬉しい出会いの1本となった!

上映後に監督が登壇し、たっぷりとしたQ&Aが終わると0時半を回っている。帰り際に監督に感謝のご挨拶をして、ホテルに帰って1時。もっと書きたいことがあるのだけれど、ああもう2時半。ダウンします!
《矢田部吉彦》

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