拓海は、赤城最速の男・高橋涼介とのバトルを前にして、そう呟く。拓海の脳裏には高橋涼介の姿が広がっていた。自分は走り屋ではないといい、家業の豆腐屋の手伝いで乗っていたハチロクには興味がなく、峠のバトル に熱意を示さなかった青年は自分のなかの変化に気付いていた。一方、高橋涼介は FC3S の仕上げにかかっていた。彼の最終判断はマシンのスペックを下げること。340 馬力 から 260 馬力に下げ、パワーよりもトータルバランスを重視する。「屈辱だ」という涼介の口元からは笑みが消 える。秋名の峠を舞台に、ふたりの運命を決定づける伝説のバトルが始まろうとしていた。ひとりが勝ち、ひとりが負ける。どちらが勝つのも負けるのも見たくない。その場の誰もが不思議な気持ちを抱えていた。 公道に並んだハチロク、FC3S の間に涼介の弟、啓介が立つ。運命のカウントダウンが刻まれる。勝負の時は 拓海の未来とともに、今、走りだす!!
日高政光