[cinemacafe.net BACKNUMBER] バックナンバー

『ブロークバック・マウンテン』が、文化や環境、年齢も性別も違う人々を魅了する最大の理由は、主演のヒース・レジャーが言うように、それが純粋で美しいラブストーリーであること。恋愛映画は数々あれど、20年にも渡ってたった一人の最愛の人への想いを貫いた男たちの物語は、そうそうお目にかかれないもの。さまざまな事情から、皆の祝福を受けることのない

二人だが、その愛の切なさと強さゆえに、多くの人が彼らの愛を羨ましく感じ、心奪われてしまうのかも。実は、アニー・プルーの原作に惚れこんだスタッフたちは多くの壁にぶつかりながらも、7年の歳月を費やしてやっと映画化に漕ぎ付けた。本作には、そんな愛あるエピソードも潜んでいる。

1963年の閉鎖的なアメリカの西部を舞台に描かれる禁断の愛。男性同士の恋愛は今でこそ結婚まで発展することだってあるけれど、当時はリンチの対象にもなったほど忌み嫌われるものだった。本作では、そんな時代に人目を忍ばなければならなかった禁断の愛の真実が繊細なタッチで描かれている。声高に相手への愛を叫べないものの、心には計り知れない情熱が渦巻く。それでも、社会的にはカップルと認められるわけでもなく、愛の結晶を残せるわけでもなく、一緒に暮らせるわけでもない。会うことができるのも、年に数回。そんな二人に訪れる結末をどう受け取るかは観る人の判断によるが、彼らの間に本当の愛が芽生えていたのは紛れもない事実。その確かな軌跡を、巨匠アン・リーが見事に描写している。

人は孤独では生きていけないと言うけれど、愛さえあれば人はどんな困難にだって立ち向かっていけるのかもしれない。例え愛する人と遠く離れ、毎日会えないのだとしても、愛する誰かが存在していて、自分を想っていてくれているのだとわかっていれば、

それだけで強くなれるもの。だからこそ、この映画が示してくれる、そんな愛の強さに多くの人が心惹かれるのは当然なのかも。確かな愛がありさえすれば、孤島でもたった一人で生きていけるのではないか。そんなことを思わせてくれる『ブロークバック・マウンテン』。主人公の名前イニスは、島という意味を持つ。

主人公たちが出会い、愛を育んだのは美しい自然が広がる“ブロークバック・マウンテン”。そこは、現実社会や、女性との現実的な生活からも隔離された、二人だけのパラダイスである。そんな楽園で、人生に一度の愛を手に入れてしまったイニスとジャック。

だが、現実社会に戻ったとき、彼らはパラダイスが永遠に失われてしまったことを悟る。楽園に戻りたいと生涯を通じて熱望し続けるものの、もう、あの愛は二度と戻ることがない。それはまるで、もう二度と取り戻すことのできないピュアな初恋の儚さを、観る者に思い起こさせる。

これまで、男性同士のシリアスな恋愛を正面から捉えた作品は、ハリウッドのメインストリームにはなりえなかった歴史がある。それは、題材があまりにデリケートすぎるから。

つまり、今回『ブロークバック・マウンテン』がアカデミー賞に絡んだことはアメリカ映画史上画期的なこと。これを“ゲイ映画”だとジャンル分けすることはできるが、そこに描かれる喪失や痛み、後悔といった愛にまつわる感情はあまりに普遍的。物語の中に存在している愛の本質が、セクシャリティに関係なく、人の数だけ愛のカタチがあるということを観る者に理解させてくれるからだろう。

CINEMAINFO 『ブロークバック・マウンテン』
監督:アン・リー
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホールほか
配給:ワイズポリシー
劇場情報:3月4日シネマライズにて先行公開、18日より全国拡大公開
© 2005 Focus Features LLC/WISEPOLICY

【STORY】
アメリカ西部、ワイオミングのブロークバック・マウンテン。イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)は、 ごく自然ななりゆきで肉体関係を持つ。戸惑いつつも激しく惹かれ合う二人だったが、許されぬ愛ゆえに再会の約束もなく山を下りる。 やがて二人はそれぞれに家庭を持つが、年に数回の逢瀬は続いていた。そしてこの関係はこの先もずっと続くかと思われた。 しかし別れは思いがけず突然にやってくる…。