公開が待ち望まれる『イノセンス』。その制作を終えたばかりの押井守監督が「六本木ヒルズ朝まで文化祭」に登場。トークショー直後のひと時、インタビューをお願いすることに成功! 少佐、草薙素子が電脳ネットワークの世界に行ってしまった前作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』から9年。素子の行方は依然わからないまま、公安九課の刑事で、生きた人形(サイボーグ)であるバトーが主人公になった今回の『イノセンス』に関しての感想を伺ってみた。
■ 映画を作り終えての感想は?

疲れました。映画はひとりでは作れないので、人間関係が一番疲れました。今は、早く(スタッフと離れて)ひとりになりたいって思いますね。

■ 今回の映画のテーマは?

この映画で、生き方の提案をしたんです。人間は必ずしも人間と一緒に生きなくてもいいんじゃないかと。孤独でもいいんじゃないかと…。好きな人、大事に思っている人、そういう人と必ずしも一緒に生きなくてもいいんじゃないかな。(そういう人たちがいるという)気配があるということを感じているだけでもいいんじゃないかなと…。

今の世の中は、若い女の子と50歳を過ぎたおじさんたちが同じことを考えているんじゃないかと思うんだよね。若い女の子はこれからどう生きればいいのかと悩んでいて、五十過ぎのおじさんたちはこれで良かったのかと悩んでいる。両者共に切ないんじゃないのかなあ、生きることを意識しないで生き抜くということが。
若い男はいいんだよ。女の子の顔色を伺って生きてるだけだから。
五十を過ぎたおじさんは女の子の顔色を伺わなくてもよくなるからいろんなことがよくわかるようになってくるんだよね。

若い男は家族を作ったり、猫を飼ったり犬を飼ったりして自分を満たしてくれるものなら何でも良いって思っている。でも女の人やおじさんたちは自分の満たされない部分を何で満たしていけばいいのか、ということを真剣に考えている。実は自分を満たしてくれるのは直接的な何か(犬とか猫とか家族とか)とは違うんじゃないのかなって…。


■ タイトルと主題歌について

随分良くなったと思うよ。映画に足りなかった部分がうまく補われて補完されたっていう感じで。歌によって映画が途切れるのが嫌で、自分の作品では歌を使わなくなったんだ。でも今回、どうしても聞いてもらいたいって言われた曲が自分の作る映画の欠落している部分を補完してくれた。

■ 今後も、犬を使っていくんでしょうか?

今回の映画で何のためにいままで犬を出してきたのか、やっと意味がわかるようになった。だから今後は許されればだけど(笑)、もっとたくさん犬を使っていきたいね。
深夜4時にも関わらず、次々に溢れてくる真剣な言葉の数々。ほぼサイボーグと化した男が「生きるとは何か?」と純粋に考える姿に込められたのが押井監督のメッセージなのだ。いろいろなことがあやふやになった今だからこそ、真剣に“生きる”ことについて考えるきっかけになってほしい、そう提案する監督からのメッセージをしっかりと受け止め、考えること。それが映画を観る私たちに課せられた使命なのではないだろうか。

押井守 Oshii Mamoru

1951年生まれ。1981年TV「うる星やつら」でチーフ・ディレクターとして、3年間に亘り高視聴率を獲得、一躍脚光を浴びる。しかし、1985年OVA『天使のたまご』以降、既成の大衆娯楽路線には背を向け、独自の世界観を基に数々のアニメーション・実写映画を発表。1995年『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』はむしろアメリカや欧州から高い評価と賞賛を得た。世界中が注目する『イノセンス』はアニメーション監督作品としては9年ぶりとなる。主な監督作品はこちらから。無類の犬好きとして知られ、ガブリエルの憂鬱 〜押井守公式サイトには愛犬ガブリエルの可愛らしいイラストが描かれている。

 
『イノセンス』のプロデューサーで、『イノセンス』を制作したプロダクション I.Gの社長でもある石川光久氏。今回、“社運を賭けて”挑んだ『イノセンス』だが、プロデューサーとしてどのような思いを抱き制作に臨んだのか、そして実際出来上がってきた今、何を感じているのか、出来立ての『イノセンス』を観た直後の石川氏にインタビューを試みた。
■ 映画を作り終えての感想は?

制作スタッフが本当に良くやってくれたなと、感謝の気持ちでいっぱいです。今回、作り手側(制作スタッフ)、送り手側(宣伝スタッフ)共にすごいチームが集まったんです。これを作ったスタッフは世界に誇っていいと思います。この熱気が送り手にもうまく伝わってきているので、これからすごく頑張っていかねばと思うところです。

■ 社運を賭けてと伺いましたが…

確かに人生最大のピンチですね(笑)。『イノセンス』は中途半端ではできない、思いを込められる作品なんです。今回、このピンチという状況がみんなの思いを集結させ共存させ、その中心に押井守監督いたからうまくやってこれた。僕は押井監督のことを“ビー玉監督”と思ってるんです。元々押井監督がビー玉が好きっていうのもあるのですが、宝石は美しいけれど、宝石箱に入ってて手に触れることは難しい。でもビー玉は美しいのに身近で手に触れて楽しむことができる。押井監督はそんなビー玉の気持ちで挑んでくれる数少ない監督のひとりですし、今後もそうであると信じています。また、今回いろいろな人を繋いでくれたスタジオジブリの鈴木プロデューサー。彼には本当に感謝しています。だから今の段階で結果が出てないと既にピンチなんですが(笑)、ピンチは同時にチャンスでもあるので、前向きに考えていますよ。

■ イノセンスとは?

ある女性が言ったのですが、素子は前作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』で既に死んでいるんじゃないかって。最終的な愛というのは死を感じさせるくらい前世の生を乗り越えた先にあるんじゃないのかということです。押井監督の作品は実像と鏡、つまり虚像になっている。今回も、生を真剣に考える男はサイボーグで、死んだかもしれない女との間に本当の愛を見つけていくのだと。人形に命はない。でも美しい。そんな死の美しさを見せながら生を感じさせるんです。押井監督はちょっとシャイで、直接的ではないので、今回、鈴木さんがつけたタイトル『イノセンス』が主題を言い当てています。この作品は世界中の人に観てもらいたい。当然、女性にも。確かに押井監督の哲学的なセリフは難しいかもしれないですが、生と死と愛がテーマだし、押井監督がそこにきちんと的を絞って作ったエンターテインメント作品ですし。

■ プロダクション I.Gの今後の展開は?

今回、ハリウッドに媚びなくって本当に良かったなと思ってるんです(笑)。この押井監督の作品が日本の作り手と売り手を本気にさせ、その力の凄さを改めて実感するきっかけにもなったんです。もちろん売り手側にとってはこれからが正念場ですが、今後もこの延長線上で作っていくのではいけないと思うんです。制作のシステムは行きつくところまで来ている。一度このシステムを崩壊したところにこそ、今回の経験が本当に活かせるんじゃないかな。新しいI.Gを近いうちに見せられると思います。期待していてください。
柔らかい物腰でわかりやすく、そして熱く語る姿が多くの人を動かし、この『イノセンス』という作品を作り上げていったのだということが伝わってくる。人を信じ、感謝する。そんな人間として基本的な姿勢をひとつひとつ実行している姿に感銘を受けるのであった。既にタランティーノ監督を動かしているプロダクション I.G。彼の率いるこのクリエイター集団の未来が本当に楽しみである

石川光久 Ishikawa Mitsuhisa
(プロダクション I.G 代表取締役) Production I.G.,LLC(米)の代表取締役兼務。

1958年生まれ。株式会社竜の子プロダクションに制作として入社。1987年に独立し、アイジータツノコを設立。1993年、社名をプロダクション I.Gに変更する。プロデューサーとしてアニメーション映画、ゲーム制作などを手がける。主なプロデュース作品として、劇場『機動警察パトレイバー2 the Movie』('93)、劇場『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』('95)、劇場『人狼 JIN-ROH』('00)、劇場『BLOOD THE LAST VAMPIRE』('00)、ゲーム「やるドラ」シリーズなど。最新プロデュース作品はTV「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」と同放送中の「2nd GIG」、劇場『イノセンス』(3月6日(土) 東宝洋画系公開)。
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