荻上直子監督インタビュー2003年、デビュー作『バーバー吉野』でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。 翌年には『恋は五・七・五!』を発表し、着実にキャリアを重ねている国際派監督、荻上直子。 彼女の最新作『かもめ食堂』は、フィンランドで食堂を切り盛りする、3人の自立した女性の物語だ。
まずは、この作品を撮ることになった経緯から。 「2作を撮って、次は外国で外国人のスタッフと映画を撮りたいですねという話を、もたいさんとしていたんです。 それを聞いたプロデューサーが、5年ほど前にフィンランドに行ったことがあって、 その国の空気、人柄がいいので、フィンランドで食堂の映画をやりませんかと誘ってくれました。 何か新しいことをしたいという気持ちもありましたから、即答しました」。 映画の都ハリウッドで映画制作を学んだ監督にとって、オリジナル脚本を執筆するのは当たり前のこと。 だが、今回企画があってから、群ようこさんに原作を書いてもらい、それを脚色するという新しい試みに挑戦している。 「2004年の9月にフィンランドにロケハンをして、撮影してきた映像を群さんに観てもらって、お話しました。 そこから、群さんご自身も独自の調査をされて、独自の世界観を作ってくださいました」。 実際のところ、脚色は大変だったと振り返る。 ![]() 「ハリウッドのパターン化された脚本の書き方に慣れていたので、 自分でもこのままではいけないと言う気持ちが2作目の後にありました。そこで出会ったのがこの企画。 チャンスだと思って受け入れましたが、ずいぶん悩みました。いろいろ悩んで群さんに電話をしたりしましたが、 とても優しい方で“どうしてくれようと大丈夫だから、自由にしていいのよ”と言ってくださったんです」。 『バーバー吉野』では小学生、『恋は五・七・五!』では高校生を描いた荻上監督。 「今回は自分より年上の女性たちが主人公。彼女たちはまだ私が経験していないことを経験している。 脚本格段階でうーんと背伸びしないと書けなかったり、 現場でも背伸びをして演出しなきゃならないと思ったりしていたんですが、 3人のベテラン女優たちを前にすると緊張してしまって空回りしたところもありましたね(笑)。 その反面、女優さんたちにはずいぶん助けられました」。 小林さとみ、片桐はいり、もたいまさこ、と3人の実力派が演じた魅力的な女性たちは、 ![]() 「サチエは、小林聡美さんとも話をしたんですが、こういう人がいたらいいね、 こういう人って求められているよねというところから入っていきました。 今回の3人は自分で生きていける人たち。3人でいるからといって、べたべたしているわけでもない、 そんな関係性なんです。役者さんのイメージもあったのかな」。 彼女たちを優しく包む土地として選ばれたのがフィンランド。 「今回初めて行ったんですが、アメリカにいたときよりも違和感無くそこに居られました。アメリカ人みたいに、 嘘っぽい笑顔があるわけでもなく、無理やりフレンドリーな感じでもない(笑)。 シャイで大人しいんだけれど、英語が喋れない日本人でも受け入れてくれる懐の深いところが彼らにはありましたね」。 撮影にあたっては、現地スタッフにこだわった。 ![]() 「初めは現場でも、フィンランド語と日本語、英語が入り混じって、 イライラすればするほどなかなか通じず混乱していたんですが、 落ち着いてきてからは徐々にお互い慣れてきて上手く伝わるように。向こうのスタッフたちも片言の日本語で、 “カメラ、オッケーデス”とか言ってました(笑)。とてもいい人たちで、心がきれい。 大変なところもあったけれど、嫌な思いはしなかったですね」。 日本からスタッフ全員を連れて行って撮った作品とは、明らかな違いが出るはず、との確信があったのだという。 「現地の人々には私たちと見えているものが絶対に違うだろうから。 実際に、私たちには出せない、見えていない、空気感とか色とかペースとかを彼らが作ってくれたのかなと思います」。 スローなムードや、ゆったりとした作品世界。それは、絶妙に配置された ![]() 「撮影の前の段階でテストしたりして、食器は全部フィンランドのもの。 すべてが生活に密着していて、普通に普段使われているものです。 そこに日本食を並べたとき、美しいかというテストも日本でしました。 お茶は日本のお茶碗でのみたいから持っていこうとか、いろいろとフードスタイリストさんと相談しましたよ」。 「かもめ食堂」自体にもモデルとなった場所があるという。 「実際に今も営業しているカフェ。美味しいご飯が食べられるすごく人気のあるお店なんですが、 そこを実際に借り切って撮影しました。別に、日本で流行っているようなカフェじゃなくて、 隣のおじいさんがやって来るような食堂といった感じ。キッチンをオープンキッチンに店内でつくり、 食器、テーブルはこちらで用意しました。でも、壁の色、照明はもともとのものなんですよ」。 そこで出される食べ物もなんとも美味しそうなこと! ![]() 「食べ物は主役なので、絶対に美味しいものをオイシそうに食べてもらわないといけなかったので、 美味しい見かけと、美味しい味を実際に作ってもらうしかなくて。 フードスタイリストさんは素晴らしい人。初めてお会いしたとき、 “おいしいおにぎりを握る人の手”だなあと思いました。とんかつ、しょうが焼きもすべて美味しい。 撮影中はスタッフのお腹がなっているのが聞こえてくる。だからある時、 おにぎりをいっぱい作ってもらって食べてもらったら、喜んでもらえて。 映画の最後のシーンでは、エキストラの方にも本当に美味しいと言って食べてもらえました。 準備できる数にも限りがあるし、シーンの繋がりも必要なので、カットがかかったら食べないでって言っているのに、 食べ続けちゃうので、また用意したりしましたよ(笑)」。 気負いもなく、デビューから3作目にしてオール海外ロケを成功させた新進気鋭の監督。 「海外で学んでたことで、もし今回役に立ったことがあるとしたら、 外国にいることや外国人と言葉が通じないということに慣れているということ。 フィンランド人は、映画を作るペースがのんびりしている。あせらないし、走らないので、 最初はそれが少し大変でした。最初はイライラしたんですけれど、言っても直るわけじゃない。 国民性だと認めて、あちらに慣れるしかない。でも、そうしたら楽しくなってきました。 でも、それが映画の雰囲気になったと思うので、一緒にやってよかったなと思いますね」 デビュー以来、邦画界に新しい風を吹き込み続けてくれている荻上監督。誰もがつい期待してしまう次回作については、「まだ迷っているところです」との答え。次はどんな挑戦が見られるのか、待つのもまた楽しみだ。
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