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2002年2月。ソフィア・コッポラから直接聞いた簡単なシノプス。そこから『ロスト・イン・トランスレーション』は始まった。4月脚本が届く。ソフィアお気に入りの渋谷、代官山、中目黒などがイメージされ、全編日本ロケで秋の撮影を希望していた。同時に、プロデューサーが決定。日本でロケをするための準備が着々と進められた…。そんな映画制作の現場をはじめから終わりまで見続けていたスタッフのひとり、ファントム・フィルム小西啓介さんに6つのIMPRESSION -印象- 的な出来事をうかがうことに…。現場からの貴重な声、とくとご覧あれ!
IMPRESSION:その1
この作品はオールロケでの撮影されたんです。撮影のメインになったパークハイアット東京やロケで使用している店舗などは営業しているので、撮影できる時間帯が決まっていました。この時間的な制約が、一番大変でした。それに加え、実質27日間という撮影期間で撮らなきゃいけなかったというのが大変だった印象のひとつですね。だから京都の撮影も日帰りで行ってる位なんですよ。
IMPRESSION:その2
日米のスタッフが共に仕事をするというのは言語的な差異だけでなく、慣習の違いや、映画の作り方、撮影のスタイルにも大きな違いがあるんです。密にコミュニケーションを取り合って、何度も摺りあわせが必要でした。けれど、ソフィアやプロデューサーのロス・カッツがアメリカ流の撮影を押し付けるのではなく双方がいかにうまくコミュニケーションをとっていくかに重点を置いていったので、うまくできたなと思いますよ。映画を27日間で撮るっていうのはかなり厳しい条件だったと思います。それを実現させたのは、ソフィアとプロデューサーをはじめとするアメリカクルーの理解ある姿勢と、スタッフィング90%を占めていた日本の優秀なスタッフたちのお陰だったと思います。
IMPRESSION:その3
気さくで面白く、そしてとても紳士的な方。“大人”で落ち着いているっていう印象でした。ベテラン俳優ですし、スタッフも含めた中で年齢が上ということもあり、微妙な撮影の雰囲気を感じとって和ませてくれました。そういう意味でも彼の存在は大きかった。スクリーンで見る印象より本当に大きい感じがしました。
お会いするまではソフィアがなぜそこまでビル・マーレイにこだわるのか不思議でした。でも彼は『天才マックスの世界』や『ロイヤル・テネンバウムス』などハリウッドのメインストリームではない若い監督の作品にも出ている。キャリアが長く、多方面で活躍しているので演技の幅が広いんです。日本ではコメディ一辺倒って印象があったのですが、最近はこの演技の幅が高く評価されるようになってきて、それをソフィアは見抜いていたのでしょう。だから映画が出来上がって、初めてソフィアがビル・マーレイにこだわった意味がわかりました。特に感情を抑えた演技が最高でした。
IMPRESSION:その4
ソフィアの映画を脚本で判断するのは難しく、ある意味彼女の才能に賭けるところがあります。
『ヴァージン・スーサイズ』もそうなのですが、彼女は台本には表れない行間を表現するのがすごくうまい。彼女の中には最初から確固たるイメージがあり、配役、演技、音楽、撮影、ストーリーを総合的に頭の中で組み合わせている。けれど、私たちは映画として具現化されるまでわからない。だから、ソフィアは映画のイメージを説明するために雑誌の切り抜きや写真などを組み合わせてビジュアルブックを作ってみせてくれるんです。本作でアカデミー賞の脚本賞を獲りましたが、映画を観ている場合と観ていない場合とではまた違う評価なのかもしれません。
完成した映画を観て、私たちはやっと脚本の的確さを理解できる。この先(映画の完成系)を見据えたビジョンを描ける、すごい才能です。
IMPRESSION:その5
映画監督としてクリエイティブな部分では彼女は流行りには全く影響を受けていないと思います。常に好きなもの、興味あるものを彼女なりのフィルターをきちんと通して感じている。だから彼女とセンスが合う人が周りにいるし、そうでないと彼女とは付き合えない。今回も彼女がたくさんの影響を受けた自分の友人たちを出演させたいと提案してきたのです。また日本の友人たちとの経験をもとにカラオケで歌っているシーンも使いたいと。けれど、一歩間違えればプライベートフィルムになり得る危険性があり、当初は心配もしましたが、そうならないんですよね。これも凄い才能です。とてもスマートな人なので、ものを作るときは考え抜いて頭の中に描き切っている、本当に才能があるのだと思います。
IMPRESSION:その6
主人公の2人、ボブとシャーロットのような関係はありがちだし、映画でもよく描かれる。例えば『ローマの休日』のように。でもそこに描かれているのは恋物語中心であって、等身大の2人のリアルなバックグラウンドではない。その人たちが実際に背負っているもの、抱えているもの、そういうのをリアルに描いている映画は今までなかったなと感心しました。それに、ただ恋愛に発展するのではなく、異国の地で同じような境遇に置かれているもの同士の共感部分が入り混じって、恋愛とも友情とも言えない微妙な関係の描き方が本当にうまいんです。

“ロスト”というのは、言葉が通じない、コミュニケーションが失われているという“ロスト”と、幸せなはずなのに満たされない、人生の道に迷っているという意味の“ロスト”、2つの意味がある。後者こそがソフィアの描きたかったことで、きっと誰もが共感できる部分だと思います。
長くは続かないし、境遇を変えることもできない、そして別れがくることもわかっている。けれど、せめてその時間だけは2人で共有していたという、自分だけにとっておきたい大切な思い出として残る。東京で撮影されたことばかりが目立っていますが、むしろそこにある人物描写やストーリーが本当にしっかりしているので、ボブやシャーロットの気持ちに感情移入するだろうし、ラストシーンに納得がいくと思いますよ。
photo ■PROFILE
小西啓介
株式会社ファントム・フィルム代表取締役副社長
92年東北新社入社。宣伝プロデューサーとして『鮫肌男と桃尻女』『PARTY7』『ヴァージン・スーサイズ』などを大ヒットに導き、『ナイン・ソウルズ』『アイデン&ティティ』などではプロデューサーとして製作・配給・宣伝にトータルにかかわる。
03年、ファントム・フィルムを設立。洋画、邦画を問わずさまざまな作品を手掛ける予定。
6月には『テッセラクト』(アーティストフィルム共同配給)がシネセゾン渋谷他で公開される。