公開を前にした3月10日。映画『ロスト・イン・トランスレーション』の舞台にもなった西新宿の超高層ホテル、パークハイアット東京39階ボールルームにて、監督ソフィア・コッポラとプロデューサーのロス・カッツが記者会見を行った。映画の中にも登場する記者会見場に現れたソフィアは、ほっそりとした体にぴったりフィットする黒のドレスに白のカーディガンを羽織り、ペタンとしたバレエシューズのようなエナメルパンプスという格好。
本作のメイン舞台となった新宿にあるパークハイアットに対する思い入れ、映画の主題などを淡々と話してくれた。
初めて来た東京で、最初に泊まったのがこのパークハイアット東京。そのとき“すごいホテルだ”と感心し、それ以来東京に来るときは必ずパークハイアットに滞在しているというほど思い入れが強い。彼女にとってこのホテルの魅力は「新宿の街はすごくごちゃごちゃしていて、ものすごい喧騒があるのに、このホテルに一歩踏み込むとここだけ空中に浮かんでいる島のような、静寂がありとても美しい感じがする。その対比がとても面白い」と語る。
そんなソフィアが描き出したのは、まるっきり知らない外国にやってきた旅人が、東京にどのような印象を受けるか、ということ。本作を描くにあたり、そのリアルさを演出しているのが彼女の個人的な体験の数々だ。本作に登場するのはパークハイアット東京をはじめ、彼女自身が好きなもの、好きな場所ばかり。そしてそのリアルさを決定付けたのが映画に登場する彼女の友人たちだ。彼らに対して「とにかく友人たちの助けがなければこの映画は完成できなかった」と心からの信頼と感謝の気持ちを表していた。
プロデューサーのロス・カッツも東京を初体験するひとりだった。ソフィアから脚本を渡されたときの印象についてこう語る。「彼女の描き出そうとしているものは、美しい東京や京都のポートレートであり、印象的な世界だった。誰もが経験のあることだと思うけど、自分の日常生活から離れた“旅人”というのは普段よりも観察力が強くなる。外国を旅する人々が体験する孤独感や絆が、ソフィアの研ぎ澄まされた観察力と洞察力でうまく描き出された」。
ソフィアから「撮影は東京で、主役はビル・マーレイ、舞台はパークハイアット」という3つの条件を出されたロスは撮影を振り返り、「そもそも東京から始まった企画なので、撮影チームは日米混成チームになった。僕らは日本での映画づくりを理解した上で日本のスタッフと共に映画をつくるという、ソフィアの哲学にのっとってこの映画を作っていった。言葉の弊害はあったけれども、スタッフ全員がこの映画を完成させるという目標にむかって一丸となって頑張り、結果本当にすばらしいハイブリットな作品に仕上がったと思うよ。だからこの映画が完成して日本で上映できることをたいへん喜ばしく思っているんだ」と語っていた。
日本へのこだわりの理由をソフィアはこう明かす。「ヨーロッパの国々は同じアルファベットを使っているから少なくとも看板なんかは読めるのよ。なのに日本では看板さえ読めないし、何を言っているのか全く見当もつかなかった。そのときに“自分の家や祖国から本当に遠いところへやって来たんだな”という実感をすごく強く持ったの。同時に東京はとてもエキサイティングで刺激的であり、映像的にも美しい街であると思っていたから、かつて描かれなかった独特の東京を描いてみたくて……」。ソフィアの言葉には、彼女ならではの感性の鋭さを感じさせられ、主題歌に70年代の日本の名曲、はっぴいえんどの「風をあつめて」を採用するなど、その感性は音楽面にも反映されている。
会見中、日本語通訳が話すのをじっと見つめてみたり、ロスとともに紙に何か落書きをしてみたり、いつも何かを感じ続けている様子の彼女が描き出した本作は、本年度アカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞した。作品を観る者は、そこに誰もが感じる海外での孤独感や空虚感を思い起こし、そして、ソフィアの感性をフィルタリングして描き出される東京の姿に、新しい驚きと感動を覚えるに違いない。
公開は4月17日からシネマライズほか全国順次公開となる。 |