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特殊な上映形態と観客が、映画革命を起こした。(川勝正幸・エディター)

たとえば、『東京画』(85)に、『「アメリカン・ニューシネマ」―反逆と再生のハリウッド史』(03)など、監督や映画のムーヴメントを探るドキュメンタリーは少なくないが、映画館と観客についての映画は『ミッドナイトムービー』(05)が初めてだろう。

監督・製作・脚本を担当したスチュワート・サミュエルズの視点は、明解である。「1970〜1977年、深夜上映された6本の低予算映画が映画の在り方を変えた」、と。

アレハンドロ・ホドロフスキー監督作『エル・トポ』(70)、ジョージ・A・ロメロ監督作『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(68)、ペリー・ヘンゼル監督作『ハーダー・ゼイ・カム』(72)、ジョン・ウォーターズ監督作『ピンク・フラミンゴ』(72)、リチャード・オブライエン脚本・出演作『ロッキー・ホラー・ショー』(75)、デイヴィッド・リンチ監督作『イレイザーヘッド』(77)。

今でも、『キネマ旬報』や『週刊文春』が洋画ベスト100を選んだら、おそらく無視されてしまいそうな6本だけれど、クェンティン・タランティーノをはじめ、インディペンデント魂を持つ映画作家やそれらの映画のファンなら、迷わず選ぶ作品ばかりである。

1969年8月、ロック・フェスティバル「ウッドストック」が成功するも、チャールズ・マンソン・ファミリーがシャロン・テート(ロマン・ポランスキーの当時の妻で、妊娠中)を殺害する。同年12月、ローリング・ストーンズの野外コンサートを自主警備していた白人バイカー集団ヘルス・エンジェルスが黒人の観客を殺した「オルタモントの悲劇」が起こる。70年4月、ビートルズが解散。同年7月にジム・モリソン、9月にジミ・ヘンドリックス、10月にジャニス・ジョプリン――ロックの巨星3人がいずれも30前でドラッグの過剰摂取により死す。

まず、本作は、70年秋、カウンター・カルチャーが敗北したムードの中で、アメリカの若者たちが、ネットもメールも携帯もない時代に「クチコミ」で『エル・トポ』の「ヤバさ」を知り、ニューヨークのエルジン劇場の深夜上映に駆けつけた様を描く。特筆すべきは、大ヒット半年後、『エル・トポ』の大ファンだったジョン・レノンが映画を買い上げ、巨大ビルボードで宣伝し、タイムズ・スクエアの立派な劇場でロードショー公開したものの、3日で打ち切りになったというエピソードだ。

以下、「深夜映画という上映形態と観客がカルト映画を作ったのだ」という歴史観で、残り5本の作品の谷あり谷あり山ありの波乱万丈な運命も、映画館主、配給会社、観客、監督らの証言で追っていく。各作品の見所も、ピンポイントで抜いているのが素晴らしい。

ところで、これらの「深夜映画」は日本ではどういう上映をされたのか。筆者は76年から大学進学で上京。リアルタイムでスクリーンで観たのは、2本のみである。

真夜中の上映ではなかったが、故・佐藤重臣が主催した自主上映会「黙壷子(もっこす)フィルムアーカイヴ」は、エルジン劇場に匹敵する「場」であった。『ピンク・フラミンゴ』だけでなく、トッド・ブラウニング監督作『フリークス』(32)、ケネス・アンガー監督作『スコルピオ・ライジング』(63)と、伝説のカルト映画群を体験。どれも16ミリでの上映。観終わったあと、価値観の座標軸をズラされた20代の僕は、しばらくあてどなく新宿を彷徨った。

『ハーダー・ゼイ・カム』は、確か、公園通りの東京山手教会とPARCOに挟まれた今は亡き駐車場(現GAP)に期間限定で設置されたシネマ・プラセットの銀色のドームで観た。後に『赤目四十八瀧心中未遂』(04)を監督する、映画プロデューサーの荒戸源次郎が、鈴木清順監督作『ツィゴイネルワイゼン』(80)を製作〜上映する際にアングラ劇団「天象儀館」のテントを借りて、 移動映画館という祝祭的な空間を演出したのである。ちなみに、この清順監督の復活作の上映は東京タワーの下!だった。

残念ながら、あとの4本はビデオ、または、レーザーディスクでの鑑賞が最初だ。その後フィルムで観た作品もあるが、そう、バグルスの「ラジオスターの悲劇」(79)の原題をもじれば、“VIDEO KILLED MIDNIGHT MOVIES”。振り返れば、本作で主役級の扱いを受けるジョン・ウォーターズ監督作『セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ』(94)は、シネコンを攻撃し、カンフー映画やポルノ映画などの専門上映館へのノスタルジーを駆り立てる傑作であった。

ノスタルジーといえば、自分にとっては浅草の映画館で観たクレイジー・キャッツ映画のオールナイトや、上板橋東映でやった『仁義なき戦い』5部作一挙上映などが、自分と映画館との蜜月であったように思う。『ロッキー・ホラー・ショー』ほどではないが、タイトル・デザインのクレジットのつぼつぼで館内に拍手が沸き起こる熱気は、間違いなくあった。

最後に。本作の配給元から「川勝さんなら、どんなミッドナイトムービーを選びますか?」お題を与えられたので、邦画から6本セレクトしてみた。

上映前後で騒ぎが起こった作品や、新しい、または、特殊な上映方法で初/リバイバル上映公開されたものが多い。オールナイトで一気に観ても決して眠ることはないが、翌日、自分の体は使いものにならないだろう。