こだわりのラインナップで、ファンを楽しませてくれるミニシアター。『約束の旅路』の上映館である岩波ホールをはじめ、ミニシアターの魅力をご紹介

超大作、ハリウッド系作品ばかりを上映する大劇場とはひと味違い、規模の大小に関わらず国内外の傑作をラインナップすることで、独自の地位を築いてきたミニシアター。

巨匠の名画、日本をはじめアジアの傑作、ドキュメンタリー作品など、大劇場では公開されにくい作品を、独特な審美眼をもって選定。様々な作品を紹介することで、映画の面白さ、映画を観る楽しさに触れる機会、きっかけを広げてくれる。

1980年代にはミニシアターブームも到来し、映画界の流行発信地としても大いに注目される存在に。映画史に残る数々の名作を送り出してきた。その良質なラインナップから、劇場にファンがつくという現象も生まれた。

そんなミニシアターのパイオニア的存在なのが、岩波ホールだ。1968年のオープン以来、「映画講座」「音楽サークル」「古典芸能シリーズ」「学術講座」の4つを柱とした文化的なイベントを開催。1974年にはフランス語で“映画の仲間”を意味する「エキプ・ド・シネマ」を発足。アジア・アフリカ・中南米など欧米以外の国々の名作、女性監督の作品、大手興行会社が取り上げない名作、何らかの理由で日本で上映されなかった名画、カットされ不完全なかたちで上映された映画のリバイバル上映、 日本映画の名作を世に出す手伝いなどを目的に掲げ、映画産業の発展に一役買っている。

日本で初めて完全入れ替え制・定員制を実施。上映打ち切りを行わない、企業広告を流さない、「エキプ・ド・シネマ」会員割り引きを行うなど、他にさきがけて独自のシステムを確立してきた実績を持つ。さまざまな工夫を通じて、良質な作品の提供はもちろん、映画を鑑賞するための快適な環境を、映画を心から愛する人々に提供し続けてくれている。

1970年代に公開されたアンドレイ・タルコフスキーの『惑星ソラリス』。2002年には、スティーヴン・ソダーバーグが、ジョージ・クルーニー主演でリメイクしたことで、再び話題となった。舞台は近未来。惑星ソラリスの軌道上にある宇宙ステーションで発生する異常を調査するために、地球からやってきた科学者クリス。すでにステーションに到着している仲間たちが、不可思議な行動と発言を繰り返す中、クリス自身にも異変が生じ…。

スタニスワフ・レムのSF小説を映画化したもので、人間の心の奥底にある潜在意識を緻密な演出によって描き出した傑作。難解なことで有名なロシアの巨匠の作品、それも2時間45分の長編作品を上映。世界的なSFブームの到来に先駆けたとして、大きな話題を呼んだ。(アイ・ヴィー・シー/¥6,090

80年代には、ルキノ・ヴィスコンティの最高傑作とも言われる『山猫』を公開。1860年、統一運動が激化したイタリアが舞台。長年、シチリア島を治めてきた、山猫の紋章を持つ名門貴族サリーナ家にも終わりが近づいている。新興ブルジョワの台頭を横目に、家長は最後まで優雅に振舞おうとするのだが。

この作品は、2004年の完全復元版上映までに、計2回も日本公開されている。1964年の初回は、短縮版である英語国際版が上映されていたが、岩波ホールでは、1981年、イタリア語による3時間6分のオリジナル版を上映。オリジナル版の公開を長年待ちわびていた映画ファンたちを大いに喜ばせた。「カットされ不完全なかたちで上映された映画のリバイバル上映」は、作品選定の大切なポイントのひとつ。その精神がこの作品にも強く表れている。(紀伊國屋書店/¥6,300

2000年に入ると、羽田澄子監督の『元始、女性は太陽であった―平塚らいてうの生涯』を上映。明治19年に生まれ、25歳の若さで文芸誌「青鞜」を創刊した平塚らいてう。女性解放運動に生涯を捧げた活動家の生涯を追ったドキュメンタリーだ。 羽田監督の作品は、80年代にも『早池峰の賦』 『痴呆性老人の世界』などを公開し、秀作の紹介を行ってきた実績を持つ。今でこそ珍しくなくなった女性監督の作品やアジア映画、ドキュメンタリーをも古くから、いち早く応援してきた岩波ホール。現在、多種多様な映画が劇場で観られるのも、長きに渡る不変の映画愛があってこそ。

「ミニシアターの魅力とは、自分たちが感動した様々な国や監督、テーマの映画を上映できることです。上映期間を自分たちで決めているので、長期間のロードショーが可能。220席の小さな劇場なので、劇場で働くスタッフが、観客の感想や反応を身近に感じられることも魅力です。それが次の作品選びにもつながっていくと思っています。

上映作品は、観終わった後、心に染みいるような映画であってほしいと願っていますので、ラインナップは、社会的なテーマ、主張したいテーマがはっきりしている作品が中心。『約束の旅路』を選んだポイントもまさにそこです。誰もが感動できる人間性にあふれた映画であると思います。世界には人種差別や戦争、難民など、いろいろな問題がありますが、それを乗り越えるためには、人間同士の信頼や家族の愛などが必要である、ということを訴えている作品。岩波ホールらしい作品ですが、ここ数年はあまりなかった歴史大作だと思います」

「岩波ホールは1974年、サタジット・レイ監督の『大樹のうた』以降、映画を上映し続けていますが、時代の状況に応じて様々なテーマの作品を選んでいます。今後も、岩波ホールで上映している映画に関心を持っていただければと思います。また、神保町は昔から古本屋街として有名なので、町歩きも楽しんでいただけると思います」(岩波支配人)

岩波ホール
千代田区神田神保町2-1岩波神保町ビル10F
tel 03-3262-5252

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作品情報『約束の旅路』
監督
ラデュ・ミヘイレアニュ
俳優
ヤエル・アベカシスロシュディ・ゼムシラク・M・サバハ

2007年3月10日より岩波ホールにて公開
2005,フランス,カフェグルーヴ、ムヴィオラ