骨太なタッチで描かれる良質な人間ドラマに定評のある、アフリカ系映画。2007年も『ルワンダの涙』『輝く夜明けに向かって』など、公開が相次いでいる。最近では、『ホテル・ルワンダ』に代表されるように、綿密な調査を経て、知られざる真実、歴史的事件などに焦点を当てた作品に高い評価が集まっている。そんな中、日本人にはまだ聞き馴れない“エチオピア系ユダヤ人”を主人公にした作品『約束の旅路』が公開される。これは、1980年代、スーダンの難民キャンプからエチオピア系ユダヤ人たちをイスラエルに移送した“モーゼ作戦”の真実を元に得て描かれた壮大なる人間叙事詩。そもそも、ラデュ・ミヘイレアニュ監督が1999年、ロサンジェルスのユダヤ映画際で“エチオピア系ユダヤ人”と出会ったことが、作品誕生のきっかけとなったという。
「その人物が話してくれた体験談は、とても悲劇的であるにもかかわらず、それを話す彼の様子がとても活き活きとしていました。冗談も交えたその話しぶりに、聞いていた私自身も、涙を流したり笑ったり。エチオピアからの脱出の様子、イスラエルでの生活の様子など、感動しながら聞いているうちに、この話はとても現代的な要素をはらんでいて、とても意味のあるテーマだと感じました。ですから、まずは映画を撮ろうというよりも、この事実についてもっと知りたいというところから始まったんです」
こうして興味を抱いた“モーゼ作戦”について調べるうち、そこに普遍的なメッセージが潜んでいることを知った監督は、映画として多くの人たちに観てもらいたい、そう思うようになる。特に、エチオピア系ユダヤ人たちが、自分たちの住む村を出て理想郷へと旅立とうと決意した強いエネルギーを、1人でも多くの人に伝えたいという思いに駆られたという。
「彼らにとって、エルサレムに行くこと自体とてつもない話だったはずです。エルサレムがどこにあるのか、遠いのか近いのかすら知らず、そこへ行くまでにどんな危険が待ちうけているかすら皆目わからないまま、すべての財産を投げ捨てて故郷を後にしたんです。それはまるで16世紀の人々が旅に出たようなもの。その強い信念は、21世紀に生きる我々が失っているものではないでしょうか。飢饉、病気などを道中で経験しながらも、彼らは少しも絶望しなかったという。なぜなら、ユダヤ人にとってエルサレムという土地は地上の楽園である、そんな信念があったからです。少しナイーヴすぎると思う人もいるかもしれませんが、私はその美しくパワフルな信念に圧倒されたんです。私たちが住む社会はあまりにも退廃的な世界ですからね」
ルーマニアで生まれ育った監督自身、1980年にチャウシェスク政権から逃れフランスに移住した経験を持つ。
「自分の感情や体験がどれほどこの映画に盛り込まれているのか、それを知るのは自分で認識するのは難しいですね。彼らの人生と私の人生にだぶるところはありますから。ただ、他の人の話を描きはしても、自分の体験を描きたいと思ったことはないんです。まるで、自分の人生を合わせ鏡で観るようなもので、あまり面白いと思えないので(笑)」
とはいえ、この作品には、監督の思想が大きく反映されている。特に、形は違えども惜しみない愛情を主人公に注ぐ4人の女性たちは、監督に自身が女性たちに感じている希望の象徴となっている。
「今、世界には絶望感が漂っています。でも、この話を書きながら、メタファーのような感じで、素晴らしい母と子の関係を描けるんじゃないかと感じたんです。地球に生きる私たちが主人公のシュロモだと考えれば、シュロモが母親によって大人になるように、我々も母親の愛によって絶望的な社会からよりよい文明を発展させることができるのではないかと考えたのです。世界をより良くするためのキーパーソンは女性ではないのかと。幸いなことに私自身、素晴らしい女性に出会うチャンスに恵まれました。まずは母親。母は小さい頃から素敵な話をしてくれました。寝る前には髪をなでてくれましたし、そんな官能的なコンタクトのせいでしょうか、私は今でも女性に手で髪を触られるのが好きなのです。だから、こんな髪型をしているのかもしれません(笑)。その後も、女性たちを通してインテリジェンスとセンシュアリティに出会いました。それに接している瞬間は、例え暗黒的な世界にいようとも、私にとっては最高に幸せの瞬間なんです」
では、女性は監督にとってインスピレーションなのだろうか。
「そうですね。そう言えると思います。だからといって男性の存在を無視しているわけではないんですよ(笑)。これまでに、素晴らしい男性たちにも出会いましたから。ただ女性は何か特別なんです。彼のたちが放つシンプルなエネルギーを感じることが多い。強いつながりを感じますね」
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