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『おと・な・り』熊澤尚人監督「自分の気持ちにどう決断するか、そこを描きたかった」

アパートの壁越しに聞こえてくる、ありふれた「音」。この目には見えない日常を軸に、2人の男女と周囲の人々の人生模様を描いた、大人のラブストーリー『おと・な・り』が現在公開されている。本作を監督したのが、『ニライカナイからの手紙』、『虹の女神 Rainbow Song』を始め、若者たちの揺れ動く感情を繊細に、瑞々しいままに切り取ってきた、熊澤尚人。“30歳”という節目を迎えた主人公たちに込めた思い、そして“音”への思いを聞いた。

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『おと・な・り』 熊沢尚人監督
『おと・な・り』 熊沢尚人監督
  • 『おと・な・り』 熊沢尚人監督
  • 『おと・な・り』 -(C) 2009 J Storm Inc.
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アパートの壁越しに聞こえてくる、ありふれた「音」。この目には見えない日常を軸に、2人の男女と周囲の人々の人生模様を描いた、大人のラブストーリー『おと・な・り』が現在公開されている。本作を監督したのが、『ニライカナイからの手紙』、『虹の女神 Rainbow Song』を始め、若者たちの揺れ動く感情を繊細に、瑞々しいままに切り取ってきた、熊澤尚人。“30歳”という節目を迎えた主人公たちに込めた思い、そして“音”への思いを聞いた。

「実は、前からちょうど30歳になるくらいの話をやりたかったんです」。これまでの作品で描いてきた10代、20代の主人公たちとは一線を画していま、“30歳”という人生の分かれ道に立つ主人公たちを選んだ理由をこう語る。
「ちょうど30歳のときに僕の中にも転機があって、映画監督になると言って務めていた会社を辞めたんです。自分の周りを見ていても、ちょうど30歳前後で、会社から独立したり、結婚して家庭を持ったり、いままでとちょっと違う、何か一皮剥けて一歩大きくなったなと感じたりして。僕もそうだったんだけど、20代の頃はどちらかと言うとまだ子供のままで、30歳くらいになって初めて大人になる人が多い気がしますね。やっとそこで大人になれる、そういう人たちの話を撮ってみたいと思ってたんです」。

人気モデルの専属カメラマンとして活躍しつつも、カナダで風景写真を撮りたいという自分の夢に揺れる聡(岡田准一)と、フラワーデザイナーを目指し花屋で働きながらコツコツと歩む七緒(麻生久美子)。夢と現実の間で、一歩踏み出そうとする2人の姿に、監督は自身の経験を重ねる。
「聡は一歩間違えたら踏み出さずに終わってしまうかもしれないというところから始まりますが、世間的には一歩踏み出せないという人もいますよね。僕も会社員をやってたので、自分の仲間にも当然そういう人もいました。映画でも音楽でも、20代のときは絶対これで生きていくんだと言ってても、30代になって“いい加減にしろ”という話になって田舎に戻ったり…という話もいっぱいありますよね。たしかに自分も若いときは、夢が叶わなかったらしょうがないだろと思っていた時期もありました。だけど、決してそうとも言い切れなくて、いままで20代で追いかけてきた上で新しいものが見えてくるという。田舎に戻って今度はこうしたいと思うことって、いままでの自分にはっきりと決着をつけるという意味で、その人なりの成長だと、いまは受け止めています。だから、聡も写真家として成功するか分かんないけど(笑)、彼の中でちゃんとふんぎりをつけていることが素敵だなと。本人がどういうふうに自分の気持ちに決断しているか、そこをきっちりと描きたかったんです」。

この“成長”を描く上で、欠かせなかったのが、池内博之扮する聡の親友であり被写体であるシンゴの存在。冒頭から、恋人を残して姿を消したままのシンゴは、話しが進み、だいぶ経ってからある決断を持ってやっと、スクリーンに登場する。
「聡がいろいろと悩んでいる間に、いつの間にかシンゴも悩んで、自分なりに決断していたというのは、リアルな話で。自分では思ってみなくても、同世代の仲間が大人になってるというのを意図的に入れる上で、シンゴが登場するタイミングは考えました」。

本作を彩るのが、もう一つの主人公とも言うべき“音”。聡と七緒にとって、この見えない繋がりがいつしか欠かせないものとなっていくが、そんな安心感を与える日常の音を見つける作業は容易くなかった。何度も実験を重ね、一つ一つ作られていったという。
「聡がコーヒーの豆を轢く音というのも、初期はなかったんです。それこそ、最初にまなべ(ゆきこ※脚本)と考えたときには、エスプレッソマシーンの音だったんだけど、何か違うなと僕はずっと思い続けていて。コーヒーの豆を轢く音というのは、手で回すものだから、その人の気持ちが音に出てくるんですよね。そういう音を探していく中で、あ、たぶん本人が機嫌が悪かったら回し方も変わるだろうし、逆にコーヒー飲んで仕事を頑張ろう! というやる気のある回し方だとまた違うだろうなと。かなり悩みながら、運良く音を見つけていけました」。

また、昨年公開された『雨の翼』でも音楽を基にした映画作りという試みがなされたが、熊澤監督にとって、映画を作る上で音楽とは「一枚の写真のように、映像を想像しやすくするキーアイテム」とのこと。本作でも、劇中で聡と七緒が口ずさむ名曲「風をあつめて」こそが、この映画のキーアイテムとなったと言う。
「台本を作るときに、この曲が映画の世界観にぴったり合ってると思って。台本読んだだけでは分かりづらいところも、この曲を聴かせるとどんな世界観を作りたいかが伝わるんです。特に『風をあつめて』という歌詞は、目に見えないものを集めるという想像力の話ですよね。映画でも目に見えないものを信じる、想像することの大切さを描きたかったので、この曲じゃないとダメだと思いました」。

そして、“音”を中心に、古びたアパートの部屋を彩る、あらゆる小物にこだわり、日常に溶け込む優しい空気を完璧なまでに作り上げた監督。聡の部屋に飾られた写真の中には、監督自らがシャッターを押したものもあるとか。
「僕の父親がスチールカメラマンで、小さい頃からスチールカメラには馴染みがあるんです。ちょうどこの映画を撮影をする前に、6月にプライベートでカナダに行ったのですが、そのときに撮った写真が使われてます。聡の代わりに先に行ったんですね(笑)」。
《シネマカフェ編集部》

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