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【MOVIEブログ】30日/ロッテルダム

30日、水曜日。ロッテルダムの後半は天気が悪くて残念。本日も、午前雨、午後は少し晴れて、でも強風。6時半起床、7時に朝食、それからメールチェックのルーティンを済ませ、外へ。

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『Karaoke Girl』
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30日、水曜日。ロッテルダムの後半は天気が悪くて残念。本日も、午前雨、午後は少し晴れて、でも強風。6時半起床、7時に朝食、それからメールチェックのルーティンを済ませ、外へ。

本日1本目は、10時から「Spectrum」部門で、フランスのパスカル・ボニツェール監督の新作で『Cherchez Hortense』。主演がジャン=ピエール・バクリ、クリステン・スコット・トーマス、イザベル・カレ。悩めるインテリ階層を軸に、不法移民問題を絡めて、現代フランスの抱える憂鬱を描くものだけれど、基本は大人の恋愛物語と呼んでいいのかな。

不機嫌な中年男を演じさせたら世界でも有数の存在感を発揮するバクリの演技を久しぶりに堪能できる、という意味では満足なのだけど、でも、ボニツェール、この程度の脚本の人ではないはず。

続けて、12時15分から、コンペ部門で『Dummy Jim』というイギリスの作品へ。50年代にスコットランドから北極海沿岸に自転車で旅をした男性が残した手記を、想像力豊かに映画化したもので、ドキュメンタリー的旅行エッセイ。

フランス、ドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェイなどへの旅程を再現した映像に、8ミリのフッテージや、アニメーションなどを交えて、分割画面などを駆使した映像のタペストリーが楽しく、美しく、音楽も素敵。登場する人々の表情も生き生きしていて、実験映画的なのに(と言ったら実験映画に失礼だけど)心が温かくなる逸品でした。

作品のもとになった手記を、監督の母親がたまたま古書店で手にして、息子である監督に贈ったことから映画の構想が始まり、完成まで13年かかったとのこと(手記の作者は故人)。こういうエピソードには心が動かされますね。監督がサントラCDと小冊子を販売していたので、思わず買ってしまった。

次は、14時45分から、レトロスペクティブ特集が組まれているロシアのキラ・ムラートワ監督が1967年に撮った『Brief Encounters』の上映へ。このムラートワ特集、全部見たかった!ロッテルダムは、コンペや「Bright Future」や「Spectrum」部門などで上映される無数の新作のほかに、こういった特集上映も多く組まれていて、本当に苦渋の選択を強いられます。どうしても新作を中心に見てしまう僕にとっては、最終日にしてようやく特集から1本見られた形で、ああ、本当に時間が足りない!

いや、新作などは、映画会社に頼んで業務用DVDを入手することが可能なので、本当はこういう貴重な特集にこそ足を運ぶべきなのですよね。分かってはいるのだけど…。身体がふたつ、いや、三つほしい。1964年から2013年に至る、ムラートワの長編がロッテルダムで16本。東京でもいつか特集を組んでみたい…。

本日は、なかなか快調。ムラートワを見てから、すぐさま16時半から「Bright Future」部門で『My Blue Eyed Girl』というフランスの作品へ。17歳の少女を主人公にした青春もので、腹違いの弟や、いとこ達とともに過ごす海辺の夏休みでの出来事。

繊細な少女の心境を、ナチュラルな夏の光と、魅力的なこどもたちの姿を交えて描いていく内容、と書いてしまうと、ありがちに響いてしまうのだけど、いや、実際にたくさん作られているタイプの作品であることは間違いないのだけど(なのでコンペにはギリギリ入らなかったのかもしれない)、実際に映像が瑞々しく、こどもたちも素敵なのだからしょうがない。

少女は、避暑地の別荘の近くにある刑務所に服役中の囚人と文通をしている、というのが映画の唯一のフックで、後はほとんどドラマらしきドラマはなく、あくまで楽しそうに戯れる子供たちの姿が描かれていく。子供時代の輝きや青春の悩みがいつの世にも無くならないように、丁寧に描いている限りこのタイプの映画もすたれることはないのでしょう。

監督のQ&Aを最後まで聞きたかったのだけど、次の時間が迫っていたので、慌てて会場を移動。

18時半から、コンペ部門で『Karaoke Girl』(写真)というタイの作品。農村部の田舎から大都会バンコクに出てきて、カラオケクラブ(?)的な場所で水商売をして暮らす少女のリアルな姿を追ったもので、これまた主題としての新鮮味はないかもしれないけれど、映画としてはかなり気持ちの良い出来で大いに満足。

ヒロインが田舎に戻る部分を、演じる女優が実際の家族のもとに帰省するドキュメンタリーとして撮影し、彼女が都会で働くパートはフィクションドラマとして加える、という構成。もっとも、ホステスをしている女性を監督が本作の女優としてスカウトしたとのことで、ドキュとドラマの融合がとてもスムーズな形で達成されており、リアルな人物像の構築にとても成功している。

詩情を備えたナチュラルな映像で、ヒロインの喜びや哀しみがダイレクトに伝わってくると同時に、ヒロイン(=女優)が持つオプティミズムが映画を救っているところがとてもいい。

1時間ほど間が空いたので、劇場ロビーでパソコンを開いてブログの文章を少し書いて、21時45分から、本日6本目へ。

コンペ部門の『Watchtower』というトルコの作品。去年の東京国際映画祭のコンペで上映した『天と地の間のどこか』が証明しているように、近年のトルコ映画はとても充実している。好調な経済が後押ししていることはあるのだろうけれど、毎年コンペにトルコ映画が欠かせないくらい、次々とよい作品が出てくる。この『Watchtower』も、それを証明する1本。

冒頭に、「本作をセオフィ・テオマン監督に捧げる」というクレジットが入り、しんみりしてしまう。テオマン監督は東京国際映画祭にも2回来日しており、まさに好調トルコを象徴する期待の若手だったのだけれど、昨年交通事故で他界してしまった。トルコのみならず、世界の映画界にとって、甚大なる損失であるとしか言いようがない…。

『Watchtower』は、不本意な妊娠が招く厳しいドラマが美しい映像の中で語られるという点で、『天と地の間のどこか』に共通していて、これも非常に見応えのある仕上がり。強い人間ドラマと、吸引力とスケール感のある映像。よい映画の条件としては当たり前かもしれないけれど、このふたつが高い確率で備わっているのが今のトルコ映画であると言えるのではないかな。

以上で、今年のロッテルダムのコンペ全16作品を見たことになりました。ロッテルダムは作品賞を3つの作品に与えるのが慣例で(その代わり、監督賞や女優賞などはない)、さあ、どうなるか。いずれもかなり面白く、大充実のコンペでありました。

ところで、今年のロッテルダムのコンペ審査員のひとりが、中国のアーティストのアイ・ウェイウェイ。活動家でもある彼は、当局にパスポートを差し押さえられており、出国が出来ない。それでも、ロッテルダム映画祭は彼を審査員として起用することにして、作品は中国で(おそらく)DVDで見てもらい、審査会議はスカイプなどで行うという。これは画期的でしょう。

さて、僕の予想としては、アート系ゾンビ映画(と呼ばないでくれと映画の関係者から言われてしまった)の『Halley』は当確。あとの2本は…。んー、『Noche』、『36』、『Watchtower』、『They’ll come back』が続くかな。大穴で『Fat Shaker』。ああ、『Karaoke Girl』と『Dummy Jim』も捨てがたい…。難しい!

というわけで、これにて今年の僕のロッテルダムも終わり。最終日に6本見られて、大充実!やはり、ロッテルダムは素晴らしく面白い。去りがたいなあ。残念だけれど、明日は移動日!
《text:Yoshihiko Yatabe》

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