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【MOVIEブログ】Moosic Lab (中)

というわけで、「Moosic Lab 2013」に通い、全プログラム15本を観終わりました。いやあ、どれも本当に面白い。

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というわけで、「Moosic Lab 2013」に通い、全プログラム15本を観終わりました。いやあ、どれも本当に面白い。

ミュージシャンとのコラボレーションは、映画が活性化するという利点がある一方で、ただライヴシーンを格好よく撮っただけでは出来の良いPVになってしまい、映画として負けてしまう。なので、音楽の魅力を借りながらも、音楽に負けてはならないというプレッシャーが監督にのしかかるわけで、監督の個性や世界観を発見するのと同時に、音楽との勝負の仕方も楽しみたいところです(と言うのは、なんとも呑気な観客目線発言であることよ!)。

さて、Moosic Lab 2013全15作品、全てを紹介することはできないので、特に僕が気に入った作品を挙げてみます。4月26日(金)まで開催しているので、映画が好きな人は是非足を運んでみて下さい。普段の劇場公開作品からは受けられない刺激が満載であることは、保証します。

『ダンスナンバー 時をかける少女』は、劇団ロロを主催する三浦直之という演出家による初映画監督作品。三浦さんに映画を撮らせたら面白そう、と僕が直井さんから直接聞いたのは1年くらい前で、さすがの眼力ですね。演劇的なセリフ回し(大声、少し大仰)を敢えて回避せず、舞台的演出と映画的リズムの融合を図った実に意欲的な作品。

ふたつの設定がパラレルワールド的に展開し、その間に立つのが恋を求めて疾走する女子高生。出会いとコミュニケーションと別れが輪廻的な視点から語られる中で、シンガー倉内太の歌が脚本と同化しながらヒロインの背中を押していく。と書いたところで理解はされないでしょうけれど、とにかく観てもらうしかない。新感覚、という言葉はこういう作品のために取っておきたいものだな。

『トムソーヤーとハックルベリーフィンは死んだ』は、インディペンデントの作品を観ているとかなりの頻度でスタッフクレジットにその名前を見つけることになる、平波亘監督による作品。似た容貌のふたりの男が入れ替わるという、「王子と乞食」と言うかドッペルゲンガー的と言うか、の物語で、良く見れば間違えるはずはないのだけど確かに微妙に似ている、というキャスティングが見事。

30代半ばの悩める時期の男たちを主役に据えたことが嬉しい。青春で悶々とするより、30代半ばになって未だ人生定まらずで悩む方が、やはり断然キツい。モラトリアムの限界を描く作品に、僕はとても弱い(おそらくトラウマを刺激される)らしい。監督が自分の世代を描いているからか、見ていて胸に迫るものがあり、ファンタジー的な要素も強いのにリアルな実感も伴う、素敵な脚本だ。フィーチャーされる広島のバンド「ガール椿」もとてもカッコいい。

今年のMoosicの異端な驚きの1本が『Pride』。名古屋在住の謎の(失礼)映画作家HADA監督が、あるミュージシャンのPVを撮るべく東京にやってくる様子を追うフェイク・ドキュメンタリー。シリアスなミュージシャンに音楽性の全く異なる衣装や動きを監督が要求するという、かなりベタなコメディーなのだけれど、これが笑えるのだ! たぶん、テンポの取り方がとても上手い。映画のリズムがいいという、まさにMoosicの面目躍如。

くっだらないのだけど、これはホメ言葉。僕は爆笑でした。そしてラストの鮮やかさが素晴らしい!作中、強引な演出の被害に合う双葉双一というミュージシャンもとても気になるし、Moosic全作品見終えて、何故かこの作品のことをとても頻繁に思い出す。そして、思い出し笑いが止まらない。HADA、何者?

『ミヤジネーション』は、エリザベス宮地という映像作家がもともとセルフドキュメンタリーとして自分で撮影していた素材を、永原真夏というミュージシャンが何故か監督として作品に仕上げることになった異色のドキュメンタリー作品(製作の経緯については映画で説明される)。

これも見応え十分。エリザベス宮地さんはある競技(?)で世界一になったキャリアがあるのだけれど、堂々と誇ることが憚られる(映画を観れば分かる)世界一である自分と、映像作家としての自分とを並べながら、一体自分は何者かを探していく内容で、これを第三者が仕上げたというツイストが本作の見どころ。

やはりかなり強引な作り方あったからか、主観(視点)の混乱が起こることがあるのが残念なのだけれど、35分とは思えないほど濃く、かつ突飛な内容なので、必見です。僕の知人は大絶賛。もっと良くなったはずなのと、今度は宮地さんが永原さんを撮る続編的な作品にも期待を込める意味で、今作は僕は中絶賛にしておきます。

『Great Romance』は、人間と人形を共演させた愛のドラマ。小さい人形もアップで撮影すれば画面上の大きさは人間と一緒になる、という単純なトリックを利用して、高校時代の出会いから、死が二人を分かつまでの男女の長い愛の物語を7分間で語る作品。女性が人間で、男性が人形。セリフはなく、感情を盛り上げる音楽(「あらかじめ決められた恋人たちへ」)に乗せて愛の神髄が描かれる。とても美しい作品!

昨年のPFFで受賞し、1月のロッテルダム映画祭でも上映された『魅力の人間』で一気に大注目株となった二ノ宮隆太郎監督の新作が、『社会人』(写真)。二ノ宮監督の参戦は、今年のMoosicの目玉のひとつで、僕もかなり楽しみにしていました。

とにかく二ノ宮隆太郎の、クセ者キャラの立ち方がハンパではない。もともと役者志望だったそうで、『魅力の人間』に続き、『社会人』でも監督本人が主演のひとりを演じています。卑屈に近い低姿勢で世界を伺いながら、どこかで爆発してブチ切れそうな危険性を身にまとったキャラが持ち味で、ついたキャッチフレーズが「下衆の革命児」。なんのこっちゃ、ですが、観れば分かります。本当にあぶない。

そして、おそらく映画的なリズムを先天的に備え持っている人だということが、ショットを見れば分かる。ワンショットの持続時間で、映画的快楽を作り出す術を知っている。それは『魅力の人間』でも顕著だったけれど、『社会人』でも明らか。台所をとらえた画面の外から、二ノ宮隆太郎がたらりと歩きながら入ってきて、タバコを一本吸い、たらっと画面の外に出ていく。映画でしか得られない、このリズムの快楽。気持ちよすぎる。

得体の知れないキャラで出演し、歩き方に特徴があり、暴力性を秘めた不穏で快楽的な映画作家であることから、ある有名な日本のコメディアン映画監督の名前を引き合いに出しそうになるけれど、時期尚早、比較するのはやめておこう…。

欲を言えば『社会人』、ちょっと短い! もうちょっと見せてくれ! と思わず心で叫んでしまう。映画が長くてつらいケースは年間何百とあるけれど、もっと見せて! と思うことなんて滅多にない。とにかく二ノ宮隆太郎、大注目。『魅力の人間』も、もっともっと多くの人に観てもらいたいし、んー、楽しみ。

(この項続く)
《text:Yoshihiko Yatabe》

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