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【美的アジア】『嘆きのピエタ』赤と緑のギドクカラーから読み解く「復讐と愛の物語」

キム・ギドク監督作品『嘆きのピエタ』。北野武監督作『アウトレイジ ビヨンド』や、ポール・トーマス・アンダーソン監督作『ザ・マスター』などを抑え、第69回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した本作が、現在公開中です。

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『嘆きのピエタ』 -(C) 2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.
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キム・ギドク監督作品『嘆きのピエタ』。北野武監督作『アウトレイジ ビヨンド』や、ポール・トーマス・アンダーソン監督作『ザ・マスター』などを抑え、第69回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した本作が、現在公開中です。

“ピエタ”とは、十字架から降ろされたキリストを胸に抱く聖母マリアの像や彫刻を指した慈悲深き「母の愛」の象徴とされています。そんな“ピエタ”をタイトルにした本作、まさに女性は観終わった後、「自分はどれだけ母性があるのだろう?」と色々考えさせられる作品じゃないかと思います。画家生活をしていたこともある監督の作品には、毎回“ギドクカラー”とでも言うべき、芸術的な色彩が盛り込まれながら、“暴力の向こう側(真実)”が描かれているのもひとつの特徴。今回の『嘆きのピエタ』で言えば、象徴されるカラーは「赤と緑」。ギドク監督が、色彩にどんな思いを込めたかは定かではありませんが(笑)、色彩心理を読み解きながら作品を観ていくと、少しマイルドに、そしてより深くギドク作品と対峙できるかもしれません。

主人公は、生まれてすぐに親に捨てられ、30年間、天涯孤独に生きてきた借金取りの男イ・ガンド。彼の前に、突然母親と名乗る女ミソンが現れ、その女を受け入れていくことで、物語は二転三転していきます。ガンドは血も涙もない悪魔のような惨いやり方で債務者を障害者にし、その保険金で借金を返済させ、仕事が終わると鶏を自らさばいて内臓を取り出し、そして腹を満たします。この一連の流れで、目に留まるのが、ガンドの重ね着の奥の“緑色のジャージ”。そして“さばかれ、捨てられた赤い臓器”。緑色には「過去へのこだわり」や「未熟ゆえの嫉妬」などの心理的意味があり、ガンドが心の奥に隠した親へのトラウマと共に、どこか「安らぎ」を求めているのでは。と読み取ることができます。一方で、赤い臓器は「強い生命力」や「怒り」を表すことから、ガンドの強い怒りがとめどなく流れ落ちていく様を表しているようで、彼の不安定な心情が垣間見えてくるようです。

そして、彼の前に突如現れたミソンもまた、白い顔にやたらと目立つ赤い紅をひき、廃れた町に不釣り合いな赤いスカートで登場。こちらの赤色には「愛情」「怒り」「フラストレーション」の心理的意味が。物語を追っていくと、ミソンがなぜガンドの前に表れたのかが分かりますが、彼女が身に着ける赤からは、女性だけがもつ「子宮の色」、「女性だけが産み落とすことのできる命への愛の大きさ」が如実に伝わってきます。彼女のとった行動は、まさにピエタ=母性と言えるのではないでしょうか。(ぜひ作品で確かめてください!)

当初、ガンドはミソンを不審に思い、ミソンはガンドへ“ある怒り”をもって近づいていきます。しかし時を共にすることで、やがて2人の心には隠れていた“母と息子”の姿が生まれてきます。しかし、ギドク監督が描いたのはあくまで「復讐劇」。衝撃のラストシーンでは、ミソンが編んだ「赤と白のセーター」と、緑を象徴する「1本の木」が登場するのですが、ここで上げた「赤と緑の心理的キーワード」を思い出してみると、この作品の持つ、復讐劇でありながらも、美しく残酷な“暴力の向こう側”と出逢えるのではないかと思います。

ちなみに、赤色と緑色はカラーの世界では「補色関係」に当たります。互いに補い合うのです。そう考えると、怒りも安らぎも、嫉妬も愛情も、悲しみも優しさも、すべて裏と表、すべてがひとつ、に廻っているような気がしてきます。ギドク監督も以前、「ふたりはひとり。白と黒は同じ色。愛する人はあなたの鏡」というコメントを残したことがありますが、『嘆きのピエタ』は、まさに復讐劇でありながらも、“魂の愛の物語”と、とらえることのできる作品であると言えるのかもしれません。
《text:Tomomi Kimura》

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