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【インタビュー】『舞妓はレディ』上白石萌音 周防監督作で感じた女優の楽しさと怖さ

歌に舞踊、所作、京ことばに津軽弁 etc…彼女が初主演映画『舞妓はレディ』のために学ばなければならないことは山のようにあった。おまけに酷暑の中の着物での撮影、さらに、少女の成長物語であるにもかかわらず、順撮りとはいかず…

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上白石萌音『舞妓はレディ』/Photo:Naoki Kurozu
上白石萌音『舞妓はレディ』/Photo:Naoki Kurozu
  • 上白石萌音『舞妓はレディ』/Photo:Naoki Kurozu
  • 『舞妓はレディ』-(C) 2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ
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  • 『舞妓はレディ』-(C) 2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ
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  • 『舞妓はレディ』-(C) 2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ
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  • 『舞妓はレディ』-(C) 2014 フジテレビジョン 東宝 関西テレビ放送 電通 京都新聞 KBS京都 アルタミラピクチャーズ
歌に舞踊、所作、京ことばに津軽弁 etc…彼女が初主演映画『舞妓はレディ』のために学ばなければならないことは山のようにあった。おまけに酷暑の中の着物での撮影、さらに、少女の成長物語であるにもかかわらず、順撮りとはいかず、撮影の順番はバラバラ。大変なことだらけだった。

だが、この映画の撮影中に最もつらかったことは? という問いに対し、彼女の口をついて出てきたのはそれらとは全く違うエピソードだ。

「春子が感情を爆発させて、ひとりで声を上げて泣くシーンがあるんです」。

彼女が演じた舞妓見習いの春子が、舞踊の師匠から稽古に身が入っていないと叱責され、稽古場にひとり佇み、それまで溜め込んできたものを吐き出すシーンだ。

「本番の1度目では涙がバーッと出てきたんですが、『じゃあもう1回』となった時、全然、集中できなくなって、泣けなくなっちゃったんです。1回目の時は役に集中して周りのことなんて気にならなかったのに、それが全部見えるんです。カメラがどこにあって、スタッフさんがたくさんいて、『みんな、私が泣くのを待ってるんだ…』とか余計な雑念まで入ってきて…」。

結局そのシーンでは最後まで、彼女が集中力を取り戻すことはなかった。周防正行監督は決して彼女を責めることなく、優しく「1回目ので行きましょう」と終了を伝えた。

「それを聞いた瞬間にブワッと涙があふれてきました。申し訳ない気持ちでいっぱいで、悔しくて、自分に腹が立って仕方なかった。それが一番つらかったことですね」。

それは上白石萌音(かみしらいし もね)という珍しい名前の15歳(当時)の少女が、初めてこの仕事の怖さに触れた瞬間、本当の意味で女優になった瞬間かもしれない。

『Shall we ダンス?』の周防正行監督の最新作で、鹿児島弁と津軽弁の“バイリンガル”の少女が舞妓となるべく京の花街の老舗のお茶屋で修行を積み、成長していく姿を描いた本作。上白石さんは800名を超えるオーディション参加者の中から、主人公・春子の役を射止めた。

「最初は、周防監督の作品とだけ聞かされて、どんな作品かもわからずにオーディションに通ってたんです。2次、3次と進んでようやく『舞妓さんの映画で、歌と踊りがたくさん出てくる』と聞いて、小さい頃から歌と踊りが大好きだったので『やりたい!』と強く思いました。最終オーディションでは、2週間ほど歌と踊りのレッスンを受けて、その成果を見せるというものだったんですが、プロの方のレッスンを受けることが出来るというのがまず何より嬉しかったです! 正直、『絶対に勝たなきゃ』という気持ちはあまりなくて『嬉しいなぁ、楽しいなぁ』という感じ(笑)。オーディションでも、部屋に入るまでは緊張するんですが、歌って踊り始めたら楽しくなっちゃうんです」。

そんな少女だからこそ、周防監督は『Shall we ダンス?』よりも前から20年以上も自身の中で温めてきた企画の一番大切な主人公を託したのだろう。話を聞くと、彼女はミュージカルの主人公を“演じた”のではなく、彼女自身が実人生でミュージカルの世界を生きてきたかのように思えてくる。

「母が音楽教師だったこともあって、2~3歳の頃から母の弾くピアノに合わせて歌ってました。散歩に出かけて花を見つけたら花の歌を歌って、海に行くと海の歌を歌う。放っておくとエンドレスで歌い続けてる、そんな子だったらしいです。まあ、いまもそんな感じなんですけど(笑)。ダンスは、小さい頃から男の子に混じって体を動かしてばかりいたので、親は『音楽も好きだし、これはダンスをさせたらいい!』って思ったらしくて。最初は教室で泣きじゃくっていたらしいですが、音楽に合わせて体を動かすのがだんだん気持ちよくなってきて(笑)」。

周防監督が最終オーディションのカメラテストで彼女を見て「いますぐ本番が撮れる!」と語ったというのも頷ける。とはいえ、冒頭でも挙げたように、オーディションに受かった直後から彼女は役作りのための“習い事”に忙殺されることになる。ちなみに、上白石さんは鹿児島生まれの鹿児島弁“ネイティブ”。劇中の春子が、津軽弁を喋るのは元々の設定として存在したが、加えて鹿児島弁も話すというのは、上白石さんに合わせて監督が付け加えたのだという。

「でも、鹿児島弁といっても普段はあそこまでコテコテでは喋りません。台本を読んで私も『こんな言い方があるんだ!』って驚いたくらいで、両親や祖父母に教えてもらって練習しました。津軽弁は、私にとっては外国語のようでした。京ことばもイントネーションが難しいし、3か国語を同時に勉強しているような感じ(笑)。先生の発音をそのまま繰り返すのは頑張ればできるんです。でもセリフとして方言に感情を乗せるというのはさらに別の作業でした。時々、喋りながらごちゃ混ぜになったりもするし(苦笑)。ひたすら繰り返しでしたね」。

方言に歌や舞踊の稽古。これらを学んでいくというのは、映画の中で春子が一人前の舞妓になるために辿っていく道そのものである。

「周防監督に『初めて体験する時の驚きや新鮮さを忘れないようにしてね』と言われて、驚きがあるたびにノートに書き留めていました。映画の中で新しいことに出会った時の春子のリアクションは、そのまま私自身の驚きでもあるんです」。

では初めて、舞妓さんに“変身”した時の気持ちは?

「最初に刷毛(はけ)で白粉(おしろい)を塗られた時はヒヤッとしてまずビックリしました。舞妓さんは『白い、白い』と聞いてましたが、こんなにも白いのか! と思いました。ただ、普通に結わいた髪で白く塗っても舞妓さんには見えないんです。カツラをつけて着物を着て、全てが揃って舞妓さんになる。何ひとつ欠かすことはできないんですよね。自分の姿を見て? 自分だけど自分じゃないような…何年も先の大人になった自分を見ているような不思議な感覚でした。舞妓さんの格好をすると背筋も伸びて、京ことばを話したいって衝動に駆られるのも不思議です。人間は普段から、周りのいろんなものに影響されながら生きてるんだなということを改めて感じました」。

「新鮮さを忘れないように」という周防監督の言葉は、単に今回、境遇の似た春子を演じるためだけのことではない。冒頭に紹介した“号泣”エピソードとも通じる大切な教訓であり、彼女はその思いを一生忘れまいと胸に刻んだことだろう。

「口で言うと簡単ですが、実際にやってみるとすごく大変なことでした。でも(共演の)長谷川(博己)さんや富司(純子)さんの芝居を目の前で見せていただくと、やっぱり何度繰り返しても同じように毎回、新鮮に心に響くんです。自分がまさに悩んでいることを目の前で当たり前のようにやっている先輩方がいらっしゃるというのは、改めてすごく贅沢な環境だなと思ったし、たくさん勉強しなくちゃいけないと強く感じました」。

今回、800名を超えるオーディション参加者の中から春子役を射止めたが、そもそも彼女が芸能界にデビューすることになったきっかけもオーディションである。2011年に開催された第7回「東宝シンデレラ」オーディションにて、44,000人を超える応募者の中から「審査員特別賞」を受賞した(なお、グランプリに輝いたのは彼女の実妹の上白石萌歌)。オーディションに強い? そんな問いに「でも私、すごい緊張しいなんです」と恥ずかしそうに笑う。

「あのオーディションの1日で人生が変わったといっても過言ではないですね。でも、最初は何が大変なことなのかも分かってなかったです。ただ寝て、起きて、メイクしてもらってお仕事してという日々の繰り返しで…4年目を迎えて、ようやくこの世界の厳しさ、お仕事に大変さを身を持って体感してます。なかなか他の人が体験できないことをやらせていただいてる分、自覚を持って頑張らなきゃいけないとも思います。この映画に主演させていただいたことは、お芝居の部分でもすごく大きな経験でしたが、こうして映画について“伝える”という責任に出合ったこともすごく大切なことだなと感じています」。

口調は優しく歌うようだが、話す内容には16歳と思えないほどにずっしりとした重みがある。性格も劇中の春子そのまま、普段から、あまり声を荒らげるようなこともなく、おっとりとしているそうだが…。

「でもつい最近、周りに言われて気づいたんですが、すごく負けず嫌いなんです。学校の小テストでも誰にも負けたくないタイプで…(笑)」。

念のため、繰り返す。「上白石」という少し変わった苗字に、音楽好きの両親が授けた「萌音(もね)」という名前。いまはまだ「何て読むの?」と言われるかもしれない。だがそう遠くない将来、誰もがその名を知るようになる気がする。
《photo / text:Naoki Kurozu》

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