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【MOVIEブログ】コンペ作品紹介(1/3)

今年の東京国際映画祭のコンペティション部門で上映される15本の作品について、僕なりの見どころや解説を書いてみます。チケット発売始まっているので、遅いよ、って怒られそうですが、まだ余裕ある回もあるので、是非引き続きご検討を!

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『草原の実験』
Igor Tolstunov's Film Production Company 『草原の実験』
  • 『草原の実験』
今年の東京国際映画祭のコンペティション部門で上映される15本の作品について、僕なりの見どころや解説を書いてみます。チケット発売始まっているので、遅いよ、って怒られそうですが、まだ余裕ある回もあるので、是非引き続きご検討を!

さて、ここ数年ジャンルやタイプでくくって紹介していましたが、今年はベーシックに、地域ごとに分けていきます。すでにチケット買われた方(ありがとうございます)、ネタバレ書かないように気を付けますので、ご安心を!

〇 『マルセイユ・コネクション』 (フランス)

フランスの今年のクリスマスシーズンを賑わせること必至の大作。70年代に強大な勢力を誇った麻薬組織に立ち向かう、ひとりの剛腕検事の奮闘を描く物語。その麻薬組織とは、かの有名な『フレンチ・コネクション』で描かれた麻薬組織と同じもので、本作のフランス語の原題は『La French (ラ・フレンチ)』、英語タイトルが『The Connection(ザ・コネクション)』。で、どうやっても邦題が『フレンチ・コネクション』に似てしまうので、考えた結果が『マルセイユ・コネクション』となったのだけど、なかなかカッコいいタイトルではないかな?

70年に実際に起きた抗争がベースになっていて、「実録もの」と呼びたいところ。ただ、『仁義なき戦い』を筆頭にするいわゆる「実録路線」には、ドミュメンタリー的で生々しく、ざらついた感触がつきまとうのに対し、本作は正攻法でガッチリと作られたドラマで、激しいエンターテイメントとして興奮の2時間半が約束されます。

アンタッチャブルな存在である悪の軍団は、マルセイユを事実上牛耳っている。警察組織や、市政にまで、その影響は及んでいる。本作は、不正を見過ごすことの出来ない検事が、いかに無謀な戦いに挑むかを描くわけだけれども、こんな人物が実在するということがそもそも驚愕。そしてそれを演じるジャン・デュジャルダンの魅力が、本作の最大の見どころのひとつでしょう。

とにかく、存在感のスケールがとても大きい。コメディアンとしての彼の才能を疑う人はもはや地上にいないでしょうけれど、今回はタフで勇猛果敢な男を演じ、ユーモラスな面は封印している。いや、封印はしているけれど、追い詰められながらも、どこかで悲痛にならないのは、彼のユーモラスな面が作用しているはず。言い換えれば、陰惨になってもおかしくない内容を、デュジャルダンのスケールの大きい明るさが救っている、ということか。

敵方のボスが、ジル・ルルーシュ。最近のフレンチ・ノワールには欠かせない存在と言っていいですね。最近日本でも公開された『友よ、さらばと言おう』でも、ヴァンサン・ランドンとのコンビが渋かった…。ふてぶてしく、情に厚いように見えるが、冷酷で残忍。悪役がきちんと立っていると主役も引き立つし、その逆も真なりということで、デュジャルダンとルルーシュの対決が映画を盛り上げる。

そして、僕がこの映画を好きな理由のひとつに、主役ふたりの対決を軸に、脇役たちのエピソードがとても魅力的に展開することがあるのだけど、その例のひとつが、ブノワ・マジメル演じる「ル・フー」というキャラクター。(彼のあだ名になっているフランス語のLe Fouは、日本語では昨今使ってはいけないことになっている「キ〇ガイ」ということなので、字幕はどう対応するだろう。)ブノワ・マジメルがフランス期待の美青年スターとして売り出したのは、かれこれ15年くらい前かな?その後、ハネケやシャブロルなど名監督に揉まれながら、気が付いたら怪優になっていた!いやあ、今作のブノワ・マジメル、必見です。

そして、最近出演作のとても多いセリーヌ・サレットもいいですね。今年のフランス映画祭で上映された『ジェロニモ 愛と灼熱のリズム』(トニー・ガトリフ監督)の主役の彼女です。2014年だけで出演作が5本!今年の「ワールド・フォーカス」で上映するセドリック・カーン監督の新作『ワイルド・ライフ』にも出ていますが、ともかく現在フランスで最も旬な女優の一人といって間違いないでしょう。

2時間半、背信と裏切りが充満するノンストップ犯罪実録ドラマであり、緊迫感溢れるストーリーと、これが監督2本目とは思えないスピーディーな演出に加え、70年代の空気を完璧に再現した美術に、魅力あふれる演技陣。もうこれ以上加える必要はないでしょう!

〇 『来るべき日々』 (フランス)

もう1本フランス映画。同じフランス映画でも、こちらは、アクション大作の対極にあるようなインディペンデントな作家映画です。ロマン・グーピル監督の前作『ハンズ・アップ!』(10)を東京国際映画祭の「ワールドシネマ」部門(現「ワールドフォーカス」)で上映したところ、僕の予想を大幅に上回り、一部で熱狂的と言えるほどの支持を受けました。劇場公開こそ実現しなかったものの、最近また横浜のアンスティチュ・フランセで上映されて評価されるなど、日本でも根強いファンが育っている存在です。

で、今回の新作ですが、何と特異で個性的であることか!作家映画というよりは、むしろ個人映画、と呼んでもいいかもしれない。作家映画とは何かを問う「メタ作家映画」なので、まあともかくシネフィルと自覚している人は必見でよろしくです。いや、ハードルを上げるつもりはないです。映画にそれほど詳しい人でなくても、この作品の独自性と革新性は必ず伝わるはず。

ロマン・グーピルという人は、左派の活動家としても知られているけれど、ユーモアと映画的センスが抜群なので、映画が教条的になったり堅苦しくなったりすることは一切なく、単純に楽しむことも出来るし、深読みしながら考えることも出来るという、奥行の深い映画作りをする人です。

本作は徹底的にロマン・グーピルという人間の頭の中を映画化した「個人映画」で、監督が自分自身を演じて、自らが抱える問題をドラマとして演じる「フィクション」の部分と、過去の作品やプライベートビデオのフッテージを用いて家族の姿を描いていく「リアル」の部分とがミックスされていきます。もう、その絶妙なブレンド具合がたまらない。とにかく上手い。うますぎる。

激動の68年の渦中に身を置いて左派に傾倒し、ロマン・ポランスキーや、ジャン=リュック・ゴダールの助監督を経て、短編、長編、ドキュメンタリーを作り続けて60歳を迎えた監督の頭の中はどうなっているか。プロデューサーに新しい企画を相談したり、銀行に行って年金の確認(?)をしたりするフィクションパートを軸に、世界情勢に対する言及から、身近に抱える住居の管理組合の問題や、家族、そして自分の死生観まで盛り込み、それらをユーモアセンスたっぷりの映画に仕上げるという離れ業。これこそ究極の作家映画だ!

ヴァレリア・ブルーニ・テデスキとノエミ・ルヴォウスキという、ふたりの達者な女優たちがドラマパートを支え、出番は決して多くないけれど、ふたりとも抜群。

トウキョウでのワールドプレミアの上映に合わせ、もちろん監督も来日します。『ハンズ・アップ!』を従えた前回の来日時は、その年の映画祭で最も面白かったQ&Aとして僕の印象にも強烈に残っています。とにかく話が滅法面白い監督なので、Q&Aも是非楽しみにしてもらいたいです。

〇 『アイス・フォレスト』 (イタリア)

こちらはイタリア映画。舞台は、イタリア北部のアルプス地帯、スロベニアとの国境近くの村。山間にあるダムの発電所に問題があるらしく、村は断続的に停電に見舞われており、若い技師が派遣される。その技師は村の不穏な空気を感じつつ、世話になる男と交流を深めていく。一方、山の中では研究者らしき女性が熊の生態を調べているが、どうやら調べているのは熊だけではないらしい…。

雪に閉ざされた厳しい環境の中で展開する、愛と陰謀のスリラードラマ、と呼んだらいいかな。怪しい人間関係が、次第に大きなドラマへと発展していくという構成が魅力で、心理サスペンスと社会派ドラマの両面を備えたスケール感のある作品です。閉鎖的な村の雰囲気と、大自然や巨大なダムという対比に象徴されるように、コントラストの効いた画面が見応え十分で、まずは映像の迫力が作品の魅力のひとつ。そして、謎めいた雰囲気の真相を探っていく愉しみが、もうひとつの魅力。

そして、間違いなく本作の最大の見どころのひとつであるのは、エミール・クストリッツアの存在感でしょう。今回は監督としてではなく、役者としての参加ですが、どうしてクストリッツアがキャスティングされたのかはクラウディオ・ノーチェ監督が来日したらちゃんと質問するとして、実はクストリッツアでなければならなかった理由というのが、映画を見れば分かってきます。とにかく、クストリッツアの存在感の圧倒的なことといったら、もう他の俳優をイメージすることができないほど。けむくじゃら。巨体。汚い。謎。陰謀。恐怖。色々な感情や思いが、彼の顔や体全体から立ち上ってくるようで、画面を見事に支配してしまう。クストリッツアを見るだけでも。お金と時間を割く価値がある!

監督のクラウディオ・ノーチェは本作が長編2本目になる新鋭です。短編映画で多くの賞を受賞した後、09年の長編デビュー作でイタリアの人気俳優ヴァレリオ・マスタンドレアを主演に起用し、ヴェネチア映画祭の批評家週間に選ばれて注目を浴びています。

ところで、本作の裏側には、現代の世界に共通する最も重要な問題が隠されています。ノーチェ監督は処女作から同問題に着目していますが、冷たく凍った世界に閉じられたサスペンスを盛り上げる一方で、社会問題に切り込んでいくスタイルを見ていると、硬派でスケールの大きい監督へと成長する期待を抱かせます。まさに今後が楽しみな監督をお見逃しなく!

〇 『ザ・レッスン/授業の代償』 (ブルガリア)

こちらはブルガリアの作品。2009年に『イースタン・プレイ』(カメン・カレフ監督)が東京でグランプリを受賞していますが、コンペではそれ以来のブルガリアの作品ということになります。ブルガリアは、製作本数こそ多くないものの(1年10~15本)、毎年目を惹く作品があり、去年もギリギリまで追った作品があったりして(結局映画の完成が間に合わなくて断念)、ブルガリアはなかなか充実しているというのが僕の印象です。

9月30日に本作のトウキョウでのコンペ入りのラインアップ発表をしたら、同日にブルガリアのNHKにあたる国営放送でニュースが流れたというのだから、ブルガリアの映画に対する熱も伝わろうというものです。

映画は、小学校の授業の風景から始まります。どうやら生徒のお金が盗まれたらしい。担任の女教師は、今名乗り出れば罪に問うことはないと優しく諭したり、絶対にうやむやにすることはしないと厳しく言い放ったり、つまりはあの手この手で生徒の「自首」を促すものの、誰も出てこない。一方、家に帰ると、夫が多額の借金をしていたことが発覚し、数日中に金を工面しないと家を手放さなくてはならない事実に直面する。

本作は、お金のモラルを生徒に教えようとしている教師が、自らは金銭トラブルに巻き込まれるという皮肉な状況を描く人間ドラマで、とにかく見どころは、みるみるうちに悪化していく事態をサスペンスフルに描いていく見事な脚本です。観客は教師と一体化して、ハラハラドキドキしっぱなしの時間を過ごすことになる!

なんらドラマティックな背景が必要なわけでもない、日常の生活の延長線上に、突如待ち構えている落とし穴。我々にも普通に起こり得ることであり、資本主義社会の矛盾が市井の生活に及ぶ影響を描く、という点において極めて普遍的で現代的な物語なのかもしれません。とにかく、設定が身近であるが故に、サスペンスも一層盛り上がるというリアルな手触りを備えています。

授業の様子が絶妙な伏線になり、打つ手が裏目に出て、それが次のサスペンスに繋がるという、本当にうまい脚本。スリリングな脚本を盛り上げる編集のテンポも小気味よく、焦燥感に駆られる女教師の演技も真に迫り、監督と女優のコラボレーションが練り上げた作品、と言っていいでしょう。今回は共同監督のひとりと、主演の女優さんの来日が内定しています。これまたQ&Aが楽しみです。

〇 『草原の実験』 (ロシア)

ロシア映画ですが、舞台はカザフスタンの草原地帯。この作品の見どころはたくさんあるのだけれど、まず目を惹くのは、その映像センスです。計算し尽くされた構図と、スタイリッシュとも言える映像美で観客の目を喜ばせる一方で、遊び心たっぷりのトリック撮影も美しく、とても楽しい。

大草原にぽつんと建つ家に、やんちゃな父親と、美少女の娘が二人で暮らしている。互いに寄り添って生きる父娘の様子が微笑ましく描かれる一方で、美しい娘はふたりの青年の求愛を受け、三角関係の物語が展開していきます。

いやそれにしても、この娘さんの美しさといったら!本作はセリフがないため、全てが映像で説明されなければいけないのだけれど、これだけ美しかったら奪い合いになって当然と思わせるに充分の、まさにセリフ無用の美しさ。

独特の美学に貫かれた映像、広大な草原、セリフを排した演出の妙、ゆったりとしたテンポ、微笑ましい展開、美少女、などの見どころを満喫していくうちに、映画は全く意外な展開を見せていきます。

この映画を紹介する度に困っているのですが、これ以上書けない。とにかく、見て、感じて下さいとしか言いようがない。映像で物語を伝えるという、映画のプリミティブな魅力に溢れ、一種のおとぎ話のような雰囲気の中に強烈な現代的メッセージを叩きこんでくる、極めて独特な作品です。

僕は初めて見た時、前半の映像美で既にノックアウトされてしまいましたが、後半を見るにつけ、もうこれはダメ押しで確定、と速攻で思ったものです。いわゆるピュアなアート映画に分類できる作品ですが、それで敬遠してしまったとしたら、あまりにももったいない。映像の美しさ、鮮烈さ、という点では今回のコンペの中でも屈指の出来と言い切ってしまいましょう。普段から映画好きな人には絶対突き刺さるし、それほど映画を見ない人だったら一層びっくりすると思います。豊潤で刺激的な映像体験を絶対に逃されませんように!

写真は、『草原の実験』から。誰もが夢見る、究極のまくら!
《矢田部吉彦》

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