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【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭 Day10

23日、木曜日。6時半起床、シャワーから朝食のルーティン済ませて7時10分に外へ。どんより曇り。気温は15度くらいかな。

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"Nina Wu"(c)Epicentre Films
23日、木曜日。6時半起床、シャワーから朝食のルーティン済ませて7時10分に外へ。どんより曇り。気温は15度くらいかな。

8時半からのコンペ、グザヴィエ・ドラン監督新作の『Matthias & Maxime』へ。モントリオールに暮らすマックス(演じるのはドラン)と、幼なじみのマットやそのほか友人たち、そして母親たちの世界。2年間オーストラリアに滞在すべくマックスが旅立つまでの2週間が描かれる。

友人たちの馬鹿騒ぎや母親との怒鳴り合いを怒涛の勢いで見せていく展開は、まさにグザヴィエ・ドランの独壇場だ。ただ、僕はちょっと乗り切れなかった。というのも、ドランが自分の得意なスタイルを再生産しているように見えてしまい、退屈してしまったのだ。サプライズが無かった。

しかし、自ら主演し、故郷に戻って低予算で親密さについての作品を作ることが、いまのドランに必要だったのだろうと想像することはできる。フィクションだけれども、主演をドラン本人と切り離すのは難しい。という意味では本作も大事な1本と捉えることが出来るかもしれない。

上映終わり、ホテルに戻って大量の紙資料をまとめてジャパン・ブースに運び、ほかの荷物と一緒に帰国便に乗せてもらう手続きを済ませる。これをすると、ああ今年のカンヌも終わりが近いと感じて毎年寂しい気持ちになる…。

劇場に戻り、40分ほど並んで「ミッドナイト・スクリーニング」で上映されて今回が先上映となるギャスパー・ノエ監督新作『Lux Aeterna』へ。50分の中編。

ベアトリス・ダルとシャルロット・ゲンスブールが魔女狩り映画の撮影に入っている。最初は控えの場でリラックスした会話を楽しく交わす2人の姿が映される。しかし本番となると、ベアトリス・ダルは現場をめちゃくちゃにして監督は怒って去り、カオスの極みとなり、そして魔女役のシャルロットは火あぶりの刑に処せられる…。

ギャスパー・ノエ特有のトリップ感満載のメタ映画で、多用されるスプリット・スクリーンも刺激的。これは大満足!どうやら、ギャスパーは本作を伸ばして(追撮も?)長編に作り直す計画があるらしく、この50分のバージョンは今後見られる機会がないかもしれない。貴重だった!

12時50分に上映終わり、本気でダッシュして10分で会場を移動し、13時から「ある視点」部門の『Nina Wu』(写真)へ。ミャンマー出身で台湾で映画を作っているミディー・ジー監督の新作。主演はウー・クーシー。彼女はミディー・ジー監督と共同で脚本も手掛けているらしい。ツィッターに書き込んで下さった方によると、そもそもウー・クーシーの持ち込み企画だったとのこと(彼女は過去のジー監督作品も出演しているので信頼関係が厚いのだろう)。そして彼女の実体験も盛り込まれているかもしれない。

下積みの長い女優がついに長編映画の主役の座を射止め、監督のしごきに耐えて作品を完成させるが、事はそんな簡単に進んだわけでない…、という経緯を見せていく物語。

まずはプロダクションのクオリティーの高さに驚かされる。ミディー・ジーが一段上のレベルにスケール・アップし、東アジアを代表する若手のひとりに躍り出たことを証明する作品になった。

女優の奮闘を見せる前半は熟練監督の安定感で見せ、一転して時間や出来事をシャッフルする後半には監督の個性が如何なく発揮されている。ウー・クーシーの存在感も出色であり、共演女優のビビアン・ソンとキミ・シアもヒロインを翻弄する役で際立つ。うん、これはとてもいい。

続いて15時45分から「ある視点」のブラジル映画で『The Invisible Life of Euridice Gusmao』へ。

1950年代のリオを舞台に、離ればなれになって生きるふたりの姉妹の運命を描く物語。とても正統派というかオーソドックスな作りで、前半は少し退屈してしまうのだけれど、最後まで観るとなかなか見応えはあったのか、とは思える。何よりも50年代から90年代に至る女性の立場や地位がしっかりと前面に出ているのがいい。

しかしそれでも2時間半は長かった。ケン・ローチやダルデンヌの簡潔にして強固なストーリーデリングを堪能できるカンヌでは、どうしても不利だ…。

続けて18時半から同じ劇場で「ある視点」の『The Swallows of Kabul』へ。同名の小説を原作とするアニメーション映画で、女優として有名なザブー・ブライトマンとアニメーターのエレア・ゴベ=メヴェレックの共同監督。アニメとはいえ、完全に大人向けの厳しいドラマだ。

98年、タリバンの支配で市民が激しい抑圧下にあるアフガニスタンのカブールが舞台。若い夫婦と、女性刑務所の看守の男とその病気の妻の4人の運命が描かれる。

常軌を逸した戒律の押し付けには戦慄とさせられるけれど、実写映画では目にしてきた経験もある。しかしそれがアニメーションで語られることで、新たなショックを与えられる気がする。あるいは、実写だと悲痛さばかりが強調されてしまいがちだけれども、アニメーションで描くことでより広い層に届くことが期待されたのかもしれない。

そしてその効果は十分にあったと思う。淡い水彩調の絵が美しいだけに、悲劇とのコントラストが際立っていく。

来月のアヌシーの国際アニメーション映画祭のコンペ入りも決まっており、アカデミー賞のアニメーション部門のノミネートも狙える作品ではないか?

次は20時半から「監督週間」のホラー映画で『Wounds』。イラン系イギリス人のババク・アンヴァリ監督による2本目の長編で、製作はネットフリックス。アーミー・ハマー主演、共演ダコタ・ジョンソン、舞台はアメリカのニューオリンズで、中身は完全にアメリカ映画。

バーテンの男が店でケンカ騒ぎのあった後にスマホの落とし物を見つけ、家に持ち帰る。スマホが奇妙なメッセージを受信するので開けて見てみると、そこにはおぞましい写真が入っており、やがて男は恐ろしい体験をしていく…。

要は「スマホを拾っただけなのに」という、不幸な巻き込まれ型ホラー。アンヴァリ監督は第1作の『アンダー・ザ・シャドウ 影の魔物』(16)で得たホラー監督としての評価がフロックでなかったことを証明しており、ちゃんとびっくりするし、ちゃんと怖くてちゃんと楽しい。ジャンル系の個性派若手監督もきちんと追っていくのが「監督週間」の特徴でもあり(『The Light House』のロバート・エガース監督しかり)、とてもありがたい。

20時台にこういう作品があるとシャキっと目が冴えるので(アーミー・ハマーとダコタ・ジョンソンという美男美女も目に優しい)、よいチョイスだった!

本日7本目は、22時半からコンペのアルノー・デプレシャン監督新作『Oh Mercy!』へ。あえて昼の上映は外して、夜の再上映で良い席で見る方を選択したのだけど、マーケット関係者限定の試写だったのでかなり空いており(多くの関係者がもう帰国しているためか)、余裕を持って臨むことができたので大正解だった。いままで、男女間や家族の物語を描くことの多かったデプレシャンが、今回は警察ものに取り組んだ意欲作だ。

フランス北部の町ルーベの警察署が大小様々な事件に取り組む姿が描かれる一方で、放火事件と老婆殺人事件の容疑者に浮上したふたりの女性対する尋問が映画のメインとなる。警察署長にロシュディ・ゼム、ふたりの友人同士の容疑者にレア・セドゥとサラ・フォレスティエ。

警察ものではあれども、ふたりの女性の関係のあり方の掘り下げ方が、デプレシャンならではか。なんといってもいつもながらにサラ・フォレスティエが素晴らしい。もう少し分析したいところだけれども、ちょっと限界が来てしまった…。

ホテルに戻って1時。7本見られて大満足なのだけど、当然昼も夜も抜いたので買い置きしていたパンとハムを齧り、ワインをすすってブログを書いていたら2時半を回ってしまった。デプレシャンまで届かなかった!無念。

3時前に寝ないと明日がやばい。ともかく、充実が続きます。おやすみなさい!
《矢田部吉彦》

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