※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【インタビュー】「一生残るデザインを」韓国屈指のデザイナー陣が語る映画ポスターの在り方

多くの映画ポスターの中でSNSを中心に「センスが光る」「かっこいい」と注目を集めている韓国のデザイン会社「propaganda」(プロパガンダ)。今回「propaganda」のデザイナーから映画ポスターの存在意義と制作のプロセスについて話を聞いた。

最新ニュース インタビュー
注目記事
『溺れるナイフ』/『君の名前で僕を呼んで』/『愚行録』(C) propaganda
『溺れるナイフ』/『君の名前で僕を呼んで』/『愚行録』(C) propaganda
  • 『溺れるナイフ』/『君の名前で僕を呼んで』/『愚行録』(C) propaganda
  • チェ・ジウン、パク・ドンウ、イ・ドンヒョン (C) propaganda
  • 『溺れるナイフ』 (C) propaganda
  • 『お嬢さん』 (C) propaganda
  • 『悪人伝』 (C) propaganda
  • 『君の名前で僕を呼んで』 (C) propaganda
  • 『存在のない子供たち』 (C) propaganda
  • 『パターソン』 (C) propaganda
楽しみにしていた新作映画のポスターやチラシのビジュアルが解禁となれば、映画ファンのテンションはがぜん上がるもの。

とはいえ、日本では、できるだけ幅広い層の関心を引きたいという配給側の意向もあってか、大胆なキャッチコピーで煽ったり、場面写真やイラストをふんだんに(ありったけ)使ったりするパターンが主流。ときには“ゴチャゴチャしすぎ”、“説明しすぎ”ともいわれてしまいがちだ。

そんな中、SNSを中心に「センスが光る」「かっこいい」と注目を集めているのが、韓国のデザイン会社「propaganda」(プロパガンダ)が手掛けるポスター。『お嬢さん』『新感染 ファイナル・エクスプレス』をはじめとする自国映画はもちろん、ハリウッドの大作映画、アート系・独立系映画ほか、最近では是枝裕和監督『真実』の韓国版ポスターなどを担当、GAGA配給の『溺れるナイフ』では海外版ポスターの制作も手掛けている。

今回、この「propaganda」のデザイナーから映画ポスターの存在意義と製作のプロセスについて、日本のポスターとの違いなどについて興味深い話を聞いた。

ポスターとは“映画が永遠にもつことになるイメージ”


チェ・ジウン、パク・ドンウ、イ・ドンヒョン (C) propagandaチェ・ジウン、パク・ドンウ、イ・ドンヒョン
2008年、大規模の商業映画のポスターを手掛けてきたチェ・ジウン、パク・ドンウが立ち上げ、のちにイ・ドンヒョンが参加して現在の3人体制となった「propaganda」。この社名にはそもそも「宣伝」、商品などの価値や主張について理解や共鳴を広めていく、という意味がある。

「一般的に共産主義国家で“大衆を扇動する宣伝/広告”といった否定的な意味でよく使われていますが、我々が手がける映画や公演、ミュージカルなどのポスターを通じて、劇場、あるいは公演会場に“観客を誘惑する”、“肯定的な煽動”といった意味を込めて名を付けるようになりました」。

そんな彼らにとって、映画ポスターとは「“観客が初めて接する映画のイメージ”、そして、その映画が永遠にもつことになるイメージ」なのだと言う。「100年前に作られた映画もウェブで検索すると、その映画のポスターが一番先に出てきますし、ポスターは最も伝統的な映画PRの手段であり、その映画に対する第一印象を提供し、伝えていく手段でもありますからね」。

『君の名前で僕を呼んで』 (C) propaganda『君の名前で僕を呼んで』(C) propaganda
だからこそ、「映画を一番格好よくみせるために包装すること、そして、このポスターをみて『この映画、観たい!』と感じさせること」を「最大の目標であり、目的」にしているという。

「こんな写真がほしい」とリクエストをすることも


では、韓国ではどのように映画のポスターを制作していくのだろうか?

「日本の場合、映画の場面写真を活用する場合が多いようですが、韓国では広告のビジュアルのように、映画の現場で撮影した場面写真とは別途、ポスター撮影を進めることが多かった」という。とはいえ「スタジオでがっつりとセットして、広告撮影のように撮る」のが主流だったのは、2000年代初めころまで。

最近では撮影現場で撮影された場面写真を活用することが多くなり、撮影現場のスチール担当カメラマンがいる場合は、『こんな写真がほしい』とリクエストをかけたり、試案を組んで送ったりもします。企画を立ててポスター撮影を行うようなことは、最近、減った気がしますね」。

『お嬢さん』 (C) propaganda『お嬢さん』(C) propaganda
「場合によっては、映画本編の一場面をキャプチャーして使う場合もあります。それでも活用する素材がなかったら、小道具を買って撮影をしたり、絵を描いて進行したり、有料イメージを購入して進行したりもしました。映画『あん』の場合は、どら焼きを買ってきて撮影し、その素材を活用して制作しました」という。

『あん』 (C) propaganda『あん』(C) propaganda
さらに、映画のジャンルによっても進め方は異なる。<恋愛>のようなジャンルは、登場人物(俳優)が多く、演出しないといい感じの写真が撮れないし、俳優たちが現場に集まっていることも多くないので、あらかじめ、ポスター撮影日を設け、事前準備を行ってからポスター撮映に挑んで制作します。また、<アクション>や<ホラー>のようなジャンルは、なるべく現場で撮影を行い、ポスター制作に活用します。これらのジャンルは、現場にしかいない“ルック(Look)”がありますし、もっと、ダイナミックにみせる場面に出会えるし、現場の雰囲気をスタジオで企画して撮影しても現場の世界観が出てこないですから」。

文字は最小限に、余白を多めにしたビジュアルを意図


『キル・ユア・ダーリン』(C) propaganda『キル・ユア・ダーリン』(C) propaganda
こうした“現場感”を大切にしながらも、「propaganda」によるポスターは、シンプルかつ独特の美意識が貫かれている点が特徴的。できる限り文字情報などをそぎ落とした“余白”が生むのは、それこそ作品そのものから湧き上がるイメージだ。

「もちろん、それは意図した試みです。それが、『propaganda』のスタイルです。文字は最大限に少なくし、余白を多めにしたビジュアルですね」。

『旅猫リポート』 (C) propaganda『旅猫リポート』(C) propaganda
では、そのこだわりは、どんなところから生まれるのだろう? 「すごく難しい質問ですね(笑)まずは、その映画が持っている全てのことを入れたいです。出演俳優の顔を大きく強調するような単純な目的のデザインよりも、50年後でも、一生残るデザイン、です」。

そう語りつつも、「有名監督や俳優の場合、様々な諸事情があり、デザイン進行において考慮しなければならない部分が多くて大変な印象があります」と、おそらく万国共通の悩みも。

『パターソン』 (C) propaganda『パターソン』(C) propaganda
「それに比べて、独立映画やアート系の映画の場合は、壁になるハードルが低いため、デザイン的な欲求を多く解消することができます(笑)」と明かし、「俳優の後頭部だけ見せるデザインや、映画のスチール写真を全く使わずにイラストのような絵だけにして表現するデザイン、または、活字を用いたタイポグラフィだけのデザインにするユニークなビジュアル、実験的なデザインを試みたりしています」。

日本の独立映画やアート系映画のポスターが好み


『白雪姫殺人事件』 (C) propaganda『白雪姫殺人事件』(C) propaganda
そんな「propaganda」流スタイルには、なんと日本発のポスターも大きな影響を与えているらしい。「2000年代の半ば頃に制作された日本の映画ポスターが好きで、なかでも、映画『アメリ』の日本版ポスターは、全世界で制作された『アメリ』ポスターのなかで一番良かったと思います」という。「余白が多く、人物も小さい、といったデザインに影響を受けました。最近の日本のポスターをみると、タイポグラフィといったテキストが多くなった感じがしますね。それを考えますと、日本の映画ポスターも流行があるんだなと思いました」。

このほかにも、「好きなアートディレクターの大島依提亜さん(『万引き家族』『アメリカン・アニマルズ』など多数)が手がけたポスターは全部好きです。それこそ、荻上直子監督の映画ポスターや、台湾映画『愛情萬歳』の日本版ポスターもデザインがユニークで好きです。ポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』日本版ポスターも好きです」と、次々に飛び出してくる。

『愚行録』 (C) propaganda『愚行録』(C) propaganda
実は「propaganda」で初めて担当したのが、日本映画『ハチミツとクローバー』(2006)だったそう。「その後、『嫌われ松子の一生』や『黄色い涙』、『東京タワー』など、立ち上げ当初は日本の作品が多かったので印象に残っています」。

「大きな商業映画の日本版ポスターで、登場人物を切り取って背景を白くし、文字をいっぱい入れ込むようなデザインになっていることをみたことありますが、韓国では受けないデザインだなと思ったことはありました。それに対し、日本の独立映画やアート系の映画のポスターは好きで、『propaganda』の感性にあうデザインも多いなと思っています」。<取材協力:KIM RANHEE>
《シネマカフェ編集部》

関連記事

特集

【注目の記事】[PR]

特集

page top