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【MOVIEブログ】2020年ベルリン映画祭 Day7

26日、水曜日。昨夜は就寝が2時だったのに5時に目が覚めてしまい、必死に再度寝ようともがいているうちに6時半になったので、諦めて起床。

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"A l’abordage" (c)Geko Films
26日、水曜日。昨夜は就寝が2時だったのに5時に目が覚めてしまい、必死に再度寝ようともがいているうちに6時半になったので、諦めて起床。

外に出ると気温が下がっていて、2度くらい。とりあえず雨や雪が降りそうな気配はまだなさそう。

本日の最初の上映は、作品の長さが3時間を超えるからか、8時15分のスタート。連日の9時スタートより早いけれど、カンヌでは毎日7時には活動を開始していることを思えば、どうということもないかな。

上映されたのは、コンペ部門のドイツ映画で『Berlin Alexander Platz』。ファズビンダーの演出で名高いドラマ「ベルリン・アレクサンダー広場」の原作の映画化で、原作が1920年代を舞台にしているのに対し、今回の映画では現代のベルリンに舞台を置き換えている。ブルハン・クルバニ監督はアフガン出身のドイツ人。物語全体の骨格は原作を踏襲しつつ、主人公をアフリカからの難民に設定し、物語に麻薬取引を絡めるなど、現代的な要素を加味していく。

アフリカの故国を脱出してドイツに流れ着いたフランシス青年は、命が助かったことを神に感謝し、生まれ変わったつもりで正しく生きることを決意する。しかし生活を安定させるためには裏社会の仕事以外に選択肢はなく、危険な男の商売に巻き込まれてしまう…。

5つの章で構成され、青年が辿る道程と、彼が関わりを持つ人物たちのキャラクターが丁寧に描かれる。展開もスピーディーであり、3時間を退屈せずに観ることはできる。クルバニ監督自身の経験がどの程度反映されているのかは現時点では分からないけれど、リアリズムよりは、小説に忠実に、安定したストーリーテリングに重きが置かれている。しかし、難民/移民を語るドラマは数多く作られており、そのクリシェは避けられておらず、物語を追う上での意外性や興奮は残念ながらあまり感じられない。

単体の映画として楽しむより、原作小説や、ファズビンダー版との比較を試みることの方が刺激的であるかもしれない。あるいは、現代の難民の苦境を描くリアリズムより、メロドラマのストーリーテリングに重きを置いている点から、ファズビンダー(ひいてはダグラス・サーク)との比較論を展開するのも面白い。ともかく、力作であることは間違いないので、ベルリン前に見直すことができなかったファズビンダー版を帰国したら早く見よう。

会場の外に出ると、強い雨。と思いきや、みぞれであった。なかなか寒く、本当に今年のベルリンの天気は不安定だ。

続いて12時15分からコンペに出品のサリー・ポッター監督新作、『The Roads Not Taken』へ。精神を病んだ父親と、彼の面倒を見る娘の物語。父親の頭の中では過去のいくつかの場面がフラッシュ・バックで浮かんでいく。実際の過去と、もしかしたら妄想かもしれない過去…。

予習ブログの紹介は間違いだったようで、父娘はニューヨークに休暇を過ごしに来たのではなく、ニューヨークに住んでいる。父娘の関係が試練にさらされることになる1日の出来事が描かれてゆく。

娘役のエル・ファニングが一般人をナチュラルに演じ、そして父役のハビエル・バルデムはどんなに弱った姿でもその色気は隠しようがなく、見とれずにはいられない!

外に出ると、みぞれは止んでいる。つくづく変な天気だ…。

そういえば、本日は何だか体調がおかしく、といっても体調が悪いわけではなく、お腹のガスがわき腹の妙なところに溜まっているのか、ギュルギュルと音を立ててしまい、それが何と3秒も続いたりする。映画の静かなシーンにおける3秒のギュルギュルは、周囲が一斉に振り向くほど、絶望的に長い。自分でコントロールできないことに自分でも驚く。特段空腹であるわけでも、便意をもよおしているわけでもないのに。過去に経験もなく、一体これは何なのだろう(結局1日中続くことになる)。

閑話休題。サリー・ポッター作品が終わって13時40分。急いでメイン会場を出て、東に向かうタクシーに乗り、別会場であるCUBIXというシネコンに向かう。結構道が混んでいて、結局14時の上映に5分ほど遅れてしまった。何とか最前列に潜り込む。それほど逃した場面はなさそうだ。観たのは、「ジェネレーション部門」に出品されているアレクサンダー・ロックウェル監督新作『Sweet Things』。これが実に素晴らしい。

ローティーンの少女ビリーが主人公で、弟とともに、普段は優しいが酒が入るとクズになる父と暮らしている。母はほかの男と出て行き、これらの大人たちは全員クズで、子どもたちは虐待に耐える。

昨日のイタリア映画『Bad Tales』に続き子どもへの虐待が描かれ、辛い瞬間はある。しかし昨日と違うのは、粗い粒子のモノクロ画面と、閉塞感を醸し出すカメラワークのセンスが抜群なために、映画に惹き込まれる点だ。白人の父と黒人の母の間に生まれたビリーは、ビリー・ホリディ(アイリッシュでなく)にあやかって命名されており、ヒロインの歌や、挿入曲(ヴァン・モリソン!)の使い方もとにかく最高で、しびれる。

やがて子どもたちは反撃に転じ、後半はビターではあるが希望も見せてくれる。虐待を巡る現実世界はそれほど甘くないかもしれないけれど、それを承知で映画に光を持ち込んでくれるアレクサンダー・ロックウェル、さすが年季が違うな。ビリー役の少女の魅力も傑出しており、これは是非とも再見したい。

それにしても、「ジェネレーション部門」で唯一観た作品が、個人的な今年のベルリンベスト(の一本)になるのだから、300本近い作品数が上映されるベルリンで観る作品を決めるのは本当に難しい。もはや運命を信じるしかない感じだ。

上映終わってロビーに出ると、驚くべきことにドイツ映画の権威である渋谷哲也さんに遭遇する! 渋谷さんが現在1年間のベルリン滞在中であることはツイッターで知っていたけれど、まさかここでお会いできるとは。僕は渋谷さんの書く文章の大ファンなので思わず話しかけ、編著である「ナチス映画論」が滅法面白かったと直接お伝え出来て、とても嬉しい。

しかし残念なのは、日本で誰よりもファズビンダー版「ベルリン・アレクザンダー広場」に詳しい渋谷さんが今回の映画版を観るのは明日であるとのことで、ああ、感想が聞きたかった。後日お伺いできる機会があると良いのだけど!

続いて16時から同じ会場で、「パノラマ部門」に出品されているギヨーム・ブラック監督新作の『A L’Abordage』(写真)へ。いまやバカンス映画を撮らせたら右に出るものはいない(よね?)存在のギヨーム・ブラック、今回も最高だ!

ああ、どうしてこんなシンプルな話がこんなに面白くなるのだろう。才能、と言ったらそれまでだろうか。どこにマジックがあるのだろうか。ミニマルにして芳醇。引き合いに出したくないけど、ロメール。そして、ホン・サンスがコンペであるなら、ギヨーム・ブラックもコンペに入っているにふさわしい。

黒人の青年がパリで出会った白人の少女に再会すべく、彼女がバカンスを過ごす川沿いの地に行こうと決める。ふとっちょの親友が同行し、マザコン白人青年をだまくらかして彼の車に乗せてもらう。かくしてデコボコ3人トリオのバカンスも始まる。時に爆笑、時にしんみり、人の感情のひだを絶妙に描いていく。現代の冴えない男女の気持ちの機微を絶妙に掬い取るマジック。ギヨーム・ブラックに対抗できる存在がいるとすれば、今泉力哉だろうか?

本当に最高なので、早々にアンスティチュ・フランセでの上映を期待すべし!

上映終わって急いで外に出ると17時50分。タクシーに飛び乗り、メイン会場に戻る。ドライバーがかなり飛ばして道も空いていたので、絶対ダメだろうと諦めていた18時の上映に間に合ってしまった。すごい。

間に合ったのは、「エンカウンター」部門のドイツ映画で『The Last City』。いくつもの都市を舞台に、2人ないし3人の人物が、人間存在の根幹に関わる事柄について対話を続けていく。ひたすら会話のみで成立させる独特の作品だった。

話題は、イスラエル/パレスチナ、同性愛と家庭と宗教、日本軍の極悪非道な所業と日本人とドイツ人の歴史認識、テクノロジーとAI、地球以外の宇宙の生命体、など多岐に渡る。延々と会話を聞いているだけなのだけれど、クセになる魅力を備えた作品だ。是非字幕付きで再見したいところ。

20時近くに上映終わり、会場の脇にあるベトナム料理店に入り、フォーを頂く。去年までは無かった店で、界隈の店が減ってしまったので超満員。味はまずまずで、寿司もメニューにある(試さないけど)。

22時からコンペのロシア映画で、『DAU Natasha』。今年の問題作だ(作品の製作背景は予習ブログ参照)。しかし22時から2時間半の映画はなかなか楽では無い上に、30分も開始が押してしまう。うー、これでは終わりが1時になってしまう。

そして始まった『DAU Natasha』、予想通りの難物だ。1950年代、ソ連の研究所の食堂で働く女性が外国人研究者と関係を持つが、それが問題と化していく…。描かれるのは、際限のない乱痴気騒ぎ、露出の激しいセックス(これだけで日本上映は困難だろう)、過度のアルコール、それらの反復。理不尽極まりないカオス地獄が、2時間半続く。

1時にホテルに戻り、ブログを書き始めるものの、『DAU Natasha』を冷静に分析する気力がどうやら残されていない。実際に作った研究所に、本物の研究者とアーティストを2年間住まわせ、その様子をフィルムで撮影していったという背景から、リアリティーショー的なドキュドラマを想像していたら、完全にフィクションのドラマとして成立していた。いや、「成立」していたかどうかは自信がない。DAUプロジェクト、得体が知れない…。

というわけでそろそろ3時。長い一日だった!
《矢田部吉彦》

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