土屋太鳳が持つ清廉さは『哀愁しんでれら』(2月5日より公開)には1ミリも存在しない。剥き出しの喜怒哀楽と愛情への執着と貪欲さ、人間の尊厳を根底から揺るがす、シンパシーを感じない人物を土屋さんは演じた。「…これって土屋太鳳だよね?」こちらが戸惑うほどに、どぎまぎしてしまうほどに。強烈なインパクトを剛速球でくらう。
俳優としての進化を感じさせる、グラデーションの効いた役、土屋さんの圧倒的な佇まいについて感想を伝えると、「うれしい…ありがとうございます。すごくうれしいです。最初、3回お断りした役だったので」と、「ああ、土屋太鳳だ」と認識させてくれるイノセントな微笑みで、土屋さんは同作について語り出した。
覚悟が必要だった役、しかし「“難しいな”とは、あまり感じなかった」
主演映画『哀愁しんでれら』で土屋さんが演じたのは主人公、小春。児童相談所で働く実家暮らし・26歳の小春は、ある夜、信じられないほどの不幸が重なり、すべてを失ってしまう。どん底にいた小春だったが、バツイチ&子持ちの大悟(田中圭)と出会った。人柄のよさもさることながら、開業医という地位、広い戸建ての家、そしてかわいい娘という背景も込みで彼に惹かれ、小春は結婚へと進む。
「シンデレラストーリー」と友達に羨望がられるほど、順風満帆な結婚生活。しかし、娘からは地味な嫌がらせを受け、愛する夫は理解しがたい“癖”を持っていた。いくつもの落とし穴を、見て見ぬふりをして過ごす小春。その代償は、彼女自身の性格を狂気に染め、とんでもない顛末へと転がっていく。
家族や周囲に翻弄され、変化していく小春というキャラクターを演じたことについて、土屋さんは「振り幅がある役のほうが、割とやりやすいんです。“難しいな”とは、あまり感じなかったんです」と意外にも、すんなり入っていけたと話した。小春を生きる上でのキーワード、土屋さんが広げた共通項は「幸せになりたい、という気持ち」だった。
「小春が思っている“幸せになりたい”という感情は、私もわかるところがあります。あと、“自分を認めてくれる人に出会いたい”という願望も、自然なことだと思うんです。もちろん、それで小春が取った行動は、受け入れられないところはありましたけど、私が小春をやると覚悟して(現場に)入ったからには、全力で生きようと思いました」。
「覚悟が必要だったんですね?」そう聞くと、土屋さんは「はい、覚悟は必要でした」と真っすぐ答えた。「狂っていくことが美しいでしょ?、とは思ってほしくなかったんです。すごくつらくて、苦しいことだから、格好いいという風に受け取ってほしくないと思って、本当に小春が生きているようにしたかったので」。
ともすればダークヒロインになってしまう小春を、祀り上げないように演じた。土屋さんの覚悟は、人物の丁寧な掘り下げに表れており、だからこそ、本作は痛みを感じる仕上がりになっている。