ファッション小噺vol.94 あなたのジーンズは何処から? 『女工哀歌』

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『女工哀歌 (エレジー)』 -(C) 2005 Teddy Bear Films
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世界の大ヒットファッションアイテム、ジーンズ。きっと“世界一”と言っても、間違いではないはず。世界各国の映像を見ていると、ジーンズをはいている人の多いこと。ただし、ジーンズにもいろいろありますが。

丈夫な日常着として活用している人には、単なる“丈夫なズボン”でしかないでしょう。でも、スタイル、ライン、シルエットなどにとことんこだわる人たちにとっては、おしゃれに欠かせない必須アイテム。お気に入りを求めて、各地を捜し歩いたり、オークションで競り落としたりと、デッドストックや限定品の中からも愛用の1本を探す人もいるほどです。こだわりの強い人にとっては、ジーンズは単なる“丈夫なズボン”ではありません。気に入った1本のためには、大枚をはたくこともあるほどです。

確かに、モデルやデザインによって、スタイルの見え方が大きく変わってしまいます。少し前までは、ボディラインが美しく見えるジーンズを望むなら、2万円、3万円は当たり前というプレミアムジーンズを入手する必要がありました。ファッションにうるさい女性にとっては、ジーンズ選びのキモとなっていたのが、美脚効果。はくだけで、普通のスタイルが抜群のスタイルに近づくのですから安いもの、ということなのでしょう。だが、最近はそんなプレミアムジーンズも少々元気なし。大量生産で安価な商品を提供しているブランドが、流行のスタイルを売り出すことも多くなり、数千円でプレミアムジーンズ並みのデザインのジーンズが入手できるようになったこともあるのでしょうか。

高いプレミアムジーンズを買うのも、安くても流行をしっかり捉えたジーンズを買うのも、その人のライフスタイル次第。でも、ジーンズ好きならぜひ知っておきたいのが、自分のジーンズはどう作られているのか。そして、誰が作っているのか。食の安全が叫ばれていますが、着るものだって“正しく”作られているかどうか知ることは大事、というわけです。

それを教えてくれるのが『女工哀歌(エレジー)』。“世界の工場”と呼ばれる中国で、現代を象徴するファッションアイテムであるジーンズが、どのように作られ、出荷されていくのかを追ったドキュメンタリーです。中心となっている登場人物は、貧しい農村から出稼ぎに来ている平均年齢15歳の少女たち。時給わずか7円で、1日18時間、ひどいときには20時間も働いて、懸命に欧米諸国からの無理な注文をこなそうとします。工場側は、そんな少女たちの苦労を「当然すべきこと」と思っているらしく、「もっと働け、もっと働け」と締め付けを厳しくします。何かにつけて少ない給金から“罰金”を取ったり、「甘い顔をすると付け上がる」とボヤいたり。労働者がストを起こして作業がストップすれば、出荷期日に間に合わず、全ては無になるというのに工場側はあくまでも強気。両方の言い分を記録している本作は、あくまでも平等に両者を扱っているのですが、それだけに“搾取の現場”の問題点が浮き彫りになっていくのです。

この映画を観ていて、最近再び話題の小説「蟹工船」を思い出しました。ご存知のとおり、プロレタリア文学の金字塔である小林多喜二の作品。漫画になったりしたせいもあるようですが、小林の没後75年目にあたる今年、これまでの100倍ほどの売り上げを記録したそうです。しかも、多くの若者も読んでいて、共感するのだとか。彼らなら、本作にも強い共感を寄せるかもしれません。その点については、また場を改めて論じるとして…。

「蟹工船」には共感できない人にも、本作はより身近。少なくとも、ジーンズというファッションの要ともなりうるアイテムの製造過程を通して、私たちは誰かの努力、犠牲の上に生活しているのだということを痛感させられるはず。この問題をけしからんと怒ったところで、少女たちは「このような仕事でも無いよりはましだ」と考えているようだし、問題を一刀両断するにはあまりにも多くの国と企業の利害が絡み合い過ぎているのが現実。ただ、どんな問題も知ること、関心を寄せることが解決への第一歩であり、そこから導き出した自分なりの結論に基づいてどうアクションを起こすのかはあなた次第ですよ、と本作は囁いているのです。

この作品を観た後で、自分のお気に入りのジーンズは、どこで誰が作ってくれているのかな…と考え、調べてみるのもいいかもしれません。作品の最後に、少女の一人が、自分の作ったジーンズを買う人に思いを馳せる場面がありますが、そこでなんだか胸がキュンとする人はそう少なくないと思います。

《text:June Makiguchi》
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