【インタビュー】楳図かずお監督×片岡愛之助 異色のタッグが生み出した新たな「恐怖の定義」

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片岡愛之助×楳図かずお監督『マザー』/Photo:Naoki Kurozu
  • 片岡愛之助×楳図かずお監督『マザー』/Photo:Naoki Kurozu
  • 片岡愛之助/『マザー』 (C)「マザー」製作委員会
  • 片岡愛之助『マザー』/Photo:Naoki Kurozu
  • 楳図かずお監督『マザー』/Photo:Naoki Kurozu
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  • 楳図かずお監督『マザー』/Photo:Naoki Kurozu
  • 『マザー』 (C)「マザー」製作委員会
  • 楳図かずお監督『マザー』/Photo:Naoki Kurozu
年齢も体型も違う。顔の輪郭だって全然違うはずなのに、ジッとよく見ているとこの2人、不思議とそっくりに思えてくる。これぞホラー? いや楳図ワールドの魔法か…? 

数々の名作漫画を世に送り出してきた奇才・楳図かずおとその初監督映画『マザー』で主人公、その名も漫画家・楳図かずお役を託された歌舞伎俳優・片岡愛之助。不思議な巡り合わせで監督と主演俳優としてコンビを組んだ2人が改めて本作の魅力や撮影の日々について語った。

1955年のデビュー以来、ホラーを始め、SF、ギャグにラブストーリー、青春ドラマまでジャンルを横断して作品を発表し、「漂流教室」「おろち」など多くの作品が様々な形で映像化されてきた。だが今回、楳図さん自身が初めて監督を務めるにあたり、自らの作品を実写化するのではなく、“漫画家・楳図かずお”を主人公にした自叙伝的なストーリーが展開。楳図さんの創造の原点と言える母との関係を軸に切ない愛の物語と恐怖が現実と幻想のはざまで繰り広げられる。

――まずは率直な疑問。自身の“分身”とも言うべき主人公・楳図かずお役を愛之助さんにオファーした理由は?

楳図:最初は歌舞伎俳優さんをということは全く考えてなかったんです。どなたにしようかと考えているときに、(周囲に)「愛之助さんはいかがですか?」と提案されて、あ! それは面白いなと。想像してなかった分、(自身のイメージとの)違いが生まれ、役に幅が出来る。(愛之助さんは)なかなか明るい感じだし、僕自身を演じてもらう上で、あまり特殊なクセがあるのもよくないので…。

愛之助:先生、残念ながら世の中からは、この役は“独特”と思われています(苦笑)。先生はそう感じていないかもしれませんが、間違いなく独特です。僕も周りに『すごいね』と言われますし、『独特なところ行ったね』という会話が巷で繰り広げられています(笑)。

楳図:でもそれが面白い! 観る人に『あの人か、そりゃそうだね』と思われるよりも、なりそうもないところに焦点を当てていくのが、もの作りの苦労であり、醍醐味です。

――では愛之助さんは、この“独特”なオファーをどのように受け止めたのか?

愛之助:僕らは先生の漫画で育った世代ですからね。「え? まさか自分が…」と思いました。でも最初は、先生の半生を描く自伝のような映画と聞いて即、お断りしたんですよ。「無理ですよ! 似てないでしょ! 先生のように細くないし、全然違いますから」と。

愛之助:その後「楳図かずおという漫画家の役を演じてください」と言われ、それならやらせていただきたいとお返事しました。

――美少女、女の“美”への情念、蜘蛛にへび女…映画には楳図作品の様々なモチーフが登場し、恐怖を彩る。楳図さんが考える“怖さ”とはどのようなものなのか?

楳図:単純に驚かせるだけならお化け屋敷でいいんです、やにわに何かが出てくるとたいていは驚きますから簡単です。角を曲がるとそこにいたり、トイレで下からのぞいていたり、ありえない状況で何かが現れると怖いものなんですが、そういうのばかりでは質が低くなっちゃう。今回の映画では、もっと人間性を追及したところを根拠にして怖いことが起きるようにしています。人間が持つ深い、どうしようもない、追い詰められた状況から生まれる恐怖――それは今後、ホラー界が追及していくべき恐怖だと実感しました。

――歌舞伎の世界でも「怪談」などで見られるように“恐怖”は大きな主題であり、愛之助さん自身、いくつもの怪談話に出演しているが、そんな愛之助さんの目に楳図作品の恐怖はどのように映ったのか?

愛之助:どこまでが本当で、どこからが嘘なのか? 映画の中で僕が演じた“楳図かずお”にしても、経歴は本物だし、ご両親の遺影代わりに緑と赤の皿を飾ってらっしゃるのも本当なんですよ。そういう嘘と本当が分からないままに並べて描かれていて、僕らは先生に弄ばれている感じがするんですよね。

楳図:そのうち世間で『楳図かずおって実は片岡愛之助らしいよ』って言われるようになりますよ(笑)。

愛之助:それが一番のホラーかもしれませんね(笑)。

――愛之助さんから見た撮影現場での「楳図かずお監督」について尋ねると、強い信頼の思いと共に、漫画家・楳図かずおだからこそ可能な、並みの映画監督には思いも寄らない発想力について明かしてくれた。

愛之助:作品に注がれるパワーが並大抵でじゃないんですよ。この細い体のどこから? というほどのエネルギーと信念――「私はこのストーリーでこう撮りたい」という固く強い信念でもって、現場が進んでいくんです。あと、先生がご自身で絵コンテを描いてくださるんですが、当然ですがこれがまた上手い(笑)! 何をどう表現してほしいかというのが一発で伝わってくるから非常に楽でしたね。

楳図:あんまり考えてないんですよ。その場で勝手に言ってるだけ(笑)。そうやって話していく中で新しいことを思いつくことはありますね。喋っている内に『そうかもしれない』と自分で喋ってることにビックリしちゃったり(笑)。

愛之助:あふれ出てくるというのは才能でしょうね。ただ、ちゃんと先生は考えてらして、映像表現の中で漫画家である先生の“思い”が表現されているんですよ。気づきましたか? 僕が劇中で着ている赤と白のボーダーの幅がシーンごとに変わっているんです。衣裳合わせで何パターンもボーダーを着せられたんで「何でこんなにたくさん?」と思っていたんですが、劇中の楳図が「戦おう!」という気持ちの時は幅が大きくて、弱気の時は幅が狭いんです。それは漫画の世界の表現であって、映像の世界では思いつかないというか、僕らの感覚で言うと、途中で服の柄の幅が変わるってNGでしょ(笑)。それを考えつくのは先生が漫画家だからですよ。

――あの独特の筆使いで楳図さんが生み出した迫力のキャラクターは楳図作品の大きな魅力であるが、実写映画として製作する以上、“絵”という大きな武器を使うことはできない。それでも、完成した映画は漫画とは表現は違えど、紛れもなく“楳図ワールド”全開である。それは、楳図さんの頭の中に映画作品としての本作の強烈なイメージが思い描かれていたからに他ならない。

楳図:そうですね、最初から(イメージが)出来上がっていたものもあるけど、やりながら気づいたことも多かったです。(映画監督の仕事は)大変な重労働ですね。愛之助さんに演技していただいている撮影だけが全てじゃない。その前後の仕事――絵コンテを描いたり、編集したり音楽を入れたりという全てをやらないといけない。ただ、僕もいままでいろんなことをやってきて、そうした経験が活きたなとも思います。

――自身の思い出や過去の作品の世界観をベースにして作り上げた物語だが、それ以外でイメージの元となったり影響を受けた作品などを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

楳図:僕はあまり、映画を観る方ではないんですが、好きな映画は『ローマの休日』なんです。ある時、引っ越しをすることになって、部屋にあったものをいっぱい捨てたんですよ。本にレコードにCDと必要ないものをどんどん捨てた後に残ったのは童話集と昔話の本でした。そのとき「あぁ、これこそが僕の本質なんだな」と気づきました。『ローマの休日』もどちらかというと昔話や寓話に近いですよね。なぜ僕が童話が好きかというと、始まったかと思うと数ページで結末が出てきて明快だから(笑)。この映画『マザー』もある意味で、明快で分かりやすいけど、掘り下げていくと、人間の生き方、ひとは死ぬ時どうなるのか? いろんなリアルにぶち当たり、様々なことを含んでいることが分かって来ると思います。

「勉強になりました!」――。御年78の漫画界の巨匠は初の映画監督という経験について、何度もこの言葉を繰り返した。それは、謙虚さからだけでなく、新たな発見や刺激を心の底から楽しみ、喜んでいるがゆえに発せられた言葉だろう。最後に、再びメガホンを握る可能性を尋ねると「物語がよくできていないままに作品を作るのは、もの作りでやってはいけないこと」とあくまでストーリーありきと条件を示しつつも強くうなずいた。

楳図:そうなったら、楳図かずおの役はまた愛之助さんで!

愛之助:喜んで! シリーズ化を目指しましょう!

楳図:松竹は『男はつらいよ』シリーズもあったし、そのパターンで行きましょう(笑)。
《photo / text:Naoki Kurozu》

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